お散歩中の魔王様
「~~~♪」
俺の隣をゴスロリ姿の中学生がご機嫌に歩いている。
何も今に始まった話じゃない。かれこれ1時間半ほど、俺と彼女――天才中二病少女こと
(にしても、
題して〝推理かくれんぼ〟。
俺と椎名が探し役の鬼、加賀谷さんが隠れ役の子に分かれた捜索ゲームだ。場所は
いつも通りゴスロリドレスで参戦している椎名は、長丁場のゲームにも飽きを見せることなく快調に歩を進めている。右手はちょこんと俺の手を握り、左腕にはケルベロスのぬいぐるみ――ロイドを抱えたままだ。
「疲れてないか、椎名?」
「ぜんぜん!」
元気の良い返事と共に、漆黒と深紅のオッドアイが真っ直ぐ俺を
「確かに、ここが魔界なら空飛ぶ使い魔に乗ってびゅーんって一瞬だけど……」
「お兄ちゃんとお散歩するの、すっごく楽しいもん!」
えへへぇ、と頬を緩ませる椎名。
「……そっか、なら良かった」
「まあ、普段は家の中で遊ぶことの方が多いもんな」
「加賀谷さんとは出掛けたりしないのか?」
「ほぇ? う~ん……あんまり、かな?」
「いっぱい遊んでくれるけど、お外にはほとんど行かないかも」
「あー……確かに、そっちの方がイメージ通りだな」
常にジャージ姿で髪をボサボサにしている残念美人こと加賀谷さんが頻繁に外出しているとも思えない。
(……っていうか)
そこで〝推理かくれんぼ〟に意識を戻す俺。
これまでは写真で次のヒントが出ていて、それなりに順調なペースで四番区内を巡ってきた。だが最後のヒントは『おねーさんはどこにいるでしょう?』の一文だけ。写真はなく、これまでの道筋に手がかりらしきものも見当たらない。
「これだって、普通なら解けるワケないもんな」
「えっへん!」
俺の言葉に椎名が気取ったような仕草で胸を張る。
そう――この謎は、既に
「わたし、ビビッと来ちゃったんだよお兄ちゃん!」
「お姉ちゃんがいるのは、お
「ああ、俺もそう思う」
椎名と違って【魔眼】は持っていないが、俺だって〝加賀谷さんがどこにいるか〟なら見当が付く。自宅か、そうじゃなければ俺の家だ。それ以外の場所で加賀谷さんを見かけた記憶なんてなかなか辿れない。
「でも、もう終わっちゃうんだぁ……」
隣を歩く椎名は、楽しげな充足感に少しだけ寂しそうな色を上乗せした表情を浮かべている。大好きなゲームがエンディングに差し掛かっている時と似たような顔。多分、よっぽど楽しかったんだろう。
だからこそ。
「そうだな。……でも、またできるぞ?」
「え? 〝また〟……って?」
「そのまんまの意味だ。もっと難しくしてもいいし、今度は俺が隠れてもいい」
「ヒントを変えれば何回でも遊べるはずだ」
「何回でも!?」
「明日も? 明後日も!?」
「お兄ちゃんたちが……わたしと、遊んでくれるの?」
「そりゃもう」
「加賀谷さんだって嫌がるわけない」
「わぁ……えへへ」
そこで一層嬉しそうな笑みを浮かべると、椎名は繋いだ手にきゅっと柔らかな力を込めた。同時にさらりと黒髪を揺らし、自称〝魔王〟とは思えない無邪気な天使の笑顔でこう言い放つ――。
「お兄ちゃんもお姉ちゃんも、みんなみんな……だ~いすきっ!」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます