天然な先輩を見守りたい
「「…………」」
俺は、私服姿の
「えっと……」
「……あのさ、皆実」
「む」
「ストーカーさんは、意識が低い……」
「喋るなんて、言語道断……息を潜める必要、あり」
「そんなこと言われても」
「急に
――そう。
俺たちは、何も目的なく歩いているわけじゃなかった。
尾行、あるいはストーキング。
少し離れた視線の先には、群青色の長髪が鮮やかな一人の少女――皆実の先輩にあたる梓沢
「理由は、簡単……」
「翼ちゃんが、危ない」
「危ない?」
「そう」
肯定と共に青色の髪がさらりと揺れる。
「流星祭で注目されてから、翼ちゃんの知名度が急上昇……」
「負の色付き星も、消滅」
「あまりにも、大人気……になる予感」
「予感かよ」
「まあ、聖ロザリアって女子校だもんな」
「校内ではモテるとかモテないとか、そういうのはないのかもしれないけど」
「? そんなことは、ない……女の子からも、モテモテ」
「だから、外に出たらナンパの嵐に次ぐ嵐。いつまでも帰れない、レベル……」
「こっそり護衛をしなきゃダメ。……つまり、ストーカーさんの出番」
「ストーカーって呼んでるのはお前だけだけどな」
「……にしても」
「一つ、訊いていいか?」
「?」
「今日のわたしは、寛大……許可しても、いい」
「そりゃどうも」
肩を竦めて、俺は改めて自分たちの様子に意識を向ける。
「まあ……〝変装〟してるのはいいよ、尾行だし」
「だけど……」
気になるのは格好じゃなくて、姿勢の方だ。
「……皆実。お前、何でさっきから俺の手握ってるんだ?」
――きゅ、と。
手のひら全体で俺の指を握り込むような形で、俺の手を握っている皆実雫。
控えめな仕草だが、さすがに偶然や気のせいということはないだろう。
まるで恋人みたいに、寄り添っている。
「む……」
長めの前髪の隙間から眠たげなジト目がこちらを向く。
「ストーカーさんは、意地が悪い……」
「『俺のこと好きなんだろ? えぇ?』とでも言いたげ」
「そうじゃないけど」
「普通に、照れるっていうか……」
「お前は平気なのかよ、皆実?」
「…………」
「平気に、見える?」
「…………」
「真っ赤に、見える」
「そう」
ふいっと再び前を向く皆実。
横顔だけでも、彼女が珍しく赤くなっているのがよく分かる。
「なら、そういうこと……」
「それ以上は、深掘り禁止……ダメ、ぜったい」
「これは、ただの〝フリ〟だから……」
「恋人のフリ……尾行テク、中級編」
「お、おう……」
何となく照れくさくなって、反対側の指先で頬を掻きながら前を向く俺。
前、というのは、つまり梓沢翼に視線を戻したということだ。
尾行とはいえ街中を歩いているだけなんだから、何が起こるということもない――はずなのだが。
『――にゃっ!?』
『わ、わわ、水溜まりかぁ……びっくりしちゃった』
『でもでも、ボクはこう見えて上級生だからね! 聖ロザリアでは一番のお姉さん!』
『だから、こんなことで動揺なんて――にゃわ!?』
『わ、ワンちゃんたちに囲まれてる!? なんでなんで!?』
「「…………」」
次々に繰り広げられる天然(?)な梓沢ワールド。
「む……」
「翼ちゃんが可愛すぎて、勝てない」
隣を歩く皆実が、吐息と共に呟いた。
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