羽衣紫音

お嬢様(本物)の付き人

――篠原緋呂斗しのはらひろと英明えいめい学園に転校するよりずっとずっと前の話――



ユキ、雪。今日もわたしと一緒に寝てください」


「……ええと、はい」

「わたしは更紗さらさ様の専属メイドですので、もちろん拒否はしませんが」

「経験上、更紗様はあまり寝かせてくれませんので……」

「今日は手加減してほしい、です」


「ふふっ」

「それ、ちょっとえっちな台詞に聞こえちゃいますよ?」


「!」

「……そ、そういうことではありません」

「単に、ついつい夜更かししてしまう……という意味です」


「分かっていますよ、雪」

「夜更かしぐせだってちゃんと反省していますから」

「わたし、やれば出来る子だって昔からもっぱらの噂なんですよ?」


「聞いたことはありませんが……分かりました」

「それで、今日はどんなお話をご所望しょもうなのですか?」


「決まっています」

「年頃の女の子がこうして顔を合わせているんですから……」

「恋バナ、です」


「……はぁ」


「むむむ」

「露骨に興味のなさそうな顔をされてしまいました」

「わたし、しょんぼりです」


「いえ……興味がない、というわけではないのですが」

「幼い頃から彩園寺さいおんじ家に勤めてきて、ずっと女性に囲まれていましたので……」

「あまり、男性と接するのが得意ではなくて」


「もちろん、それは知っているんですが」

「恋愛ドラマや少女漫画はいつも一緒に見てくれますよね?」

「どんな殿方とのがたなら雪のお眼鏡に適うんでしょう、と思いまして」


「お眼鏡に……」

「別に、ごのみしているわけではないのですが」

「というより、考えたこともありません」


「なんと……びっくりです」

「女の子の必修科目かと思っていました」


「関わった経験が少ないので、ピンと来ないだけかもしれません」


「そうですね……」

「では、ちょっと予言してみます」


「予言?」


「はい」

「わたし、実は占い師にも適性があるとまことしやかに囁かれているんですよ?」

「主に職業診断サイトなどで」


眉唾まゆつばどころではありませんが……」

「ちなみに、予言の内容というのは?」


「はい。心して聞いてくださいね、雪?」

「今から、数年後――……」

「雪が高校生の頃に、運命の出会いがあるかもしれません」


「運命の、出会い……」


「雪が出会う殿方はとても格好良くて、優しくて、度胸があって……」

「もしかしたら、メロメロになっちゃうかもしれません」


「……なるほど」

「ええと、根拠は?」


「もちろん、わたしの勘です」

「ですが、そう思っていた方が素敵な人生になると思いませんか?」


「それは……まあ、確かに」


「ふふっ」

「でも……」


「――ひゃっ!?」

「さ、更紗様? なんで、急に抱き着いて……」


「むぅ」

「答えは独占欲、です」

「雪が誰かに取られると思ったら、嫉妬してしまいました」

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