椎名紬
手厚い看病
「――それでは、ご主人様」
「少しの間、お任せしてしまってもよろしいでしょうか?」
メイド服姿の
碧の瞳が見つめているのはベッドの上――もとい、そこで横になっている中二病系女子こと
「くぅ、すぅ……」
穏やかな寝息。
――端的に言えば、風邪だった。
「そりゃもちろん」
姫路の問いに素直な頷きを返す。
「っていうか、俺が買い出しに行ってもいいけどな」
「看病はさすがに姫路の方が向いてるだろうし」
「いえ、そんなことはないと思いますが……その」
「……替えの下着も買ってこなければなりませんので」
すっと視線を逸らして語尾を濁す姫路。
……なるほど。確かに、それなら俺が行くわけにはいかない。
「じゃあ、そっちは頼む」
「はい。よろしくお願いします、ご主人様」
丁寧に頭を下げて部屋を出ていく姫路。
ぱたん、と扉が閉まり、椎名と2人で残される。
「ん……」
ベッドサイドの椅子に浅く腰掛けて椎名の顔を覗き込む俺。
すやすやと眠る彼女の顔色は、朝よりも随分とマシなものになっていた。きっと姫路の献身的な看病がバッチリ効いているんだろう。
「むにゃ……」
パジャマ姿でケルベロスのぬいぐるみを抱く椎名。
あどけない表情の少女が小さく口を開く。
「おにいちゃん……おねえ、ちゃん……」
「ん?」
「……寝言か」
可愛らしいものだ。
年齢を考えれば俺と椎名は2つしか離れていないのだが、妹っぽいというか何というか、やたらと微笑ましい感情になってしまう。
「…………」
うず、として。
ゆっくり上半身を捻り、さらさらの黒髪に手を伸ばす――ぽふん、と椎名の頭に触れた瞬間、きめ細やかな髪の感触が指の間を通り抜ける。
「ふにゃ……むにゃ……む」
寝ている椎名の口元がふにゃりと緩んで。
「おにいちゃん、もっとぉ……もっと、して?」
「えへへぇ……」
「なでなで、きもちいい……ね、ね、だめ? ……だめ?」
こてん、と寝返りを打って、俺の手に顔を擦り付けるような形でふにゃふにゃとおねだりを繰り返す椎名。
「っ……」
これは、凄い。
可愛らしさとあどけなさが限界突破している。
――そして、
「むにゃ……あ、れ?」
ぱちり、と開く大きな瞳。
普段なら漆黒と深紅のオッドアイなのだが、カラコンを外している今はどちらも綺麗な黒の瞳だ。
そんな椎名がじぃっと俺を見て。
「おにいちゃん……」
ぽわぽわとした声音で言う。
「……いっしょに、ねる?」
「!!」
無邪気な問い掛け――。
それを受け入れると色々と大変なことになってしまうため、必死に断る理由を探す俺だった。
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