小悪魔×メイドのポッキーゲーム!

 ――ある日のことです。


 学園島アカデミー四番区英明えいめい学園の生徒会室。大規模イベントの選抜メンバーが作戦会議をするのにも使わせていただいているこの部屋で、わたし――姫路白雪ひめじしらゆきは、3年生の秋月乃愛あきづきのあさまと2人きりの時間を過ごしていました。


 普段ならばご主人様を挟む形で座っているわたしたちですが、今の秋月様はわたしの左隣にいらっしゃいます。


 と。


「~~~♪」


 そんな秋月様がふと鼻歌交じりに鞄をあさり、あるものを取り出しました。それは江崎グリコが販売するチョコレート菓子――具体的には、ポッキーです。


「……?」

「おやつですか、秋月様」


「うん、そうだよ白雪ちゃん♪」

「ポッキーの日だから購買にいっぱい並んでて、つい買ってきちゃった♡」


「ポッキーの日……なるほど、11月11日ですか」


 得心します。


 言われてみれば、今日の日付は11月11日。1が4つ並ぶことからポッキーの日、あるいはポッキー&プリッツの日と呼ばれています。


「えへへ♪」


 ゆるふわのツインテールを揺らした秋月様はいかにも嬉しそうです。


「せっかくだし、あとで緋呂斗ひろとくんとポッキーゲームしよっかな♡」


「……ポッキーゲーム、ですか」


 聞いたことがあります。


 2人で――主に異性同士で1本のポッキーを両側から食べ進めていくという、ゲームというにはゲーム性のよく分からないゲーム。自然と顔は近付き、下手を打てばキスに至ってしまうことでしょう。


「相変わらず不埒ふらちですね、秋月様」


「えぇ~、何のこと?」

「乃愛ちゃん、清楚で純粋だから分かんなぁい♡」


 ポッキーの箱をすべすべの頬にぷにっと押し当て、あざとすぎる笑顔で上目遣いにこちらを見つめてくる秋月様。


「む……」


 それを〝挑発〟と解釈したわたしは、反撃に出ることにしました。秋月様の手からポッキーの箱を没収し、中身を空け、手袋を取った指先でその中の1本を取り出します。


 そして。


「では、清楚で純粋な秋月様に分からせて差し上げます」

「――口を開けてください、秋月様」


「え。……ん、むぐっ!?」


「ポッキーゲームを始めましょう」

「……はむ」


 そっと髪を掻き上げて、秋月様とは反対側の端を口に含みます。


 途端、口の中に広がるのはサラダ味特有のしょっぱさと暴力的な旨味。一般的にはパキッと折って食べるものかと思いますが、残念ながらこれはポッキーゲーム。もむもむと、擬音化するのがやや難しい所作で少しずつ食べ進めていきます。


「ん、ぅ…………」


 対する秋月様は突然のゲーム開始に慌てていたようですが、やがてほんのりと顔を赤らめながら同じく口を動かし始めました。


 ……しばし、無言の時間が流れます。


 当たり前のことですが。現在、わたしと秋月様の顔は1本のポッキーよりも近い距離感にあります。わたしの手は秋月様の肩に置かれていて、反対に、秋月様の手はわたしの腰を控えめに支えてくださっています。


「~~~っ」


 真っ赤になって照れる秋月様。しかし英明の小悪魔としての意地でしょうか、ゲームを降りるような真似はしてくれそうにありません。


(……待ってください。このままでは、本当にキスしてしまうのでは?)


 思わぬ接近にわたしの方もドキドキとし始めます。


 ――と、その時でした。



「悪い、遅れた。…………って、え」



「「!?」」


 ガチャリと生徒会室のドアを開き、現れたのはご主人様でした。ご主人様はわたしたち――勘違いですが体勢としては今にも情事にもつれ込みそうです――を交互に眺め、そしてパタンと扉を閉めます。


「……えっと、お邪魔しました」


「待ってください、ご主人様!」


「ち、ちち、違うよ緋呂斗くんっ!?」


 慌てふためいて立ち上がり、ご主人様を追い掛けるわたしと秋月様――。


 その瞬間にポッキーは折れてしまったので、勝負としては引き分けドローでしょうか。

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