寝起きの不意打ち

 目を覚ますと、隣で姫路ひめじが一緒に寝ていた。


「は……?」


 半身に触れる柔らかな感触、清潔感のある甘い香り。


 普段はそう寝起きの良くない俺だが、さすがに一瞬で意識が覚醒する――そこで、ようやく気が付いた。俺の部屋じゃないしベッドの上でもない。壁を覆う巨大スクリーン、投げ出されたコントローラー、ふかふかのソファ。……どうやら、シアタールームで寝落ちしてしまったようだ。


(そういえば……新作のパーティーゲームを姫路と一緒にやってたんだっけ)


 冷静になってみれば簡単なことだ。


(……それにしても)


 決して下心があるわけじゃないのだが、ちら、と隣の少女を見遣る。


「すぅ……すぅ……」


 規則正しい寝息を零す姫路白雪しらゆき


 格好はいつものメイド服。背中はソファに、左半身は隣に座る俺に軽く預けている。何時間もこの体勢だったのだとしたら、お互いずり落ちなかっただけ奇跡みたいなものだろう。


「ん……」


 彼女が住み込みの専属メイドになってくれてからしばらくがつ。


 故に、寝顔だって見たのは一度や二度じゃない――が、この距離でまじまじと見つめる機会は多くない。……月並みな表現だが、相変わらず呼吸を忘れそうになるくらいの美少女だ。神的な存在が何らかの贔屓ひいきをしたとしか思えない。


睫毛まつげ、なっが……)


「……ふ、ぁ?」


 と。


 そこで、俺の視界の真ん中で碧の瞳がぱちくりと瞬いた。ゆっくりと身体を水平に戻した姫路は静かに首を振って、それからすぐ隣に座る俺に視線を向け直す。


 そうして一言、


「――おはようございます、ご主人様」


 起き抜けとは思えない、澄んだ声音が耳朶じだを打った。


「すみません。ゲームの途中で寝てしまったようで……」

「せめて、ご主人様に毛布を掛けられれば良かったのですが」


「ああいや、俺も寝ちゃってたからさ」

「ソファだったけど、身体とか痛くなってたりしないか?」


「ん……そう、ですね」


 座った体勢のまま両手を天へ向け、ん~とささやかな擬音を零しては身体を伸ばし始める姫路。白銀の髪が俺の目の前でさらりと揺れる。


「問題なさそうです。お気遣いありがとうございます、ご主人様」

「ちなみに……」


 と、そこで静かに首が傾げられた。


「ご主人様は、わたしより早く起きていたのですよね?」


「? ああ、ちょっとだけな」


「……寝顔を見られてしまいました」

「それも、じっくりと。まじまじと。至近距離で」


「……まあ、否定はしない」

「嫌だったか?」


「いいえ。……ですが」


 首を横に振ってから、上目遣いに俺を見つめる姫路。


 薄暗い室内でも分かるくらい、その頬は鮮やかな桜色に染まっていて。


「起きたときに、ご主人様の顔が目の前にあったので」

「……少しだけ、ドキドキしてしまいました」

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