特大パフェを巡るじゃれ合い

「――いいこと思い付いたわ、篠原しのはら


 休日のショッピングモール。


 サングラスと派手なワックスで変装した俺は、同じく深いフード付きのパーカーで正体を隠した彩園寺更紗さいおんじさらさと買い物を楽しんでいた。


 買い物、といっても目当ての品があるわけじゃなく、いわゆるウィンドウショッピングというやつだ。普段から特大の〝嘘〟をいている俺たちだからこそ、たまにはこうして〝普通〟を享受したくなる。


「いいこと……?」


 彩園寺の唐突な発言に思わず首を捻る俺。


 タイミングとしては、歩き疲れたから一旦カフェでも入ろう――という話になった辺りだ。モール内にある人気の喫茶店に到着し、看板に書かれたメニューを一通り眺めていた彩園寺が、どこか悪戯っぽい表情で隣の俺を覗き込んだ。


「せっかくだからゲームでもしましょ」

「今から、あたしが1つクイズを出すわ」

「答えるチャンスは1回だけ。正解できたら、あんたに好きなメニューをおごってあげる」

「不正解なら、これ――期間限定の特大パフェをあたしに奢ること!」


「特大パフェ……ねえ?」


 彩園寺が指差している一品は、写真を見る限りモンスター級の何かだ。これに張り合えるメニューが他にもあるとは到底思えないが、まあいいか。


「その勝負、受けて立ってやるよ」

「で、問題ってのは?」


「ふふん、そうこなくっちゃ!」


 嬉しそうに頬を緩める彩園寺。


 そうして再び、フードの下から紅玉ルビーの瞳が俺を見る。


「今日、あたしと篠原はデートみたいなことしてるでしょ?」

「絶対にデートじゃないけれど、ただの買い物だけど、暇潰しの一環だけど……」

「きっと、傍から見たらデートそのものだわ」


「まあ、そうかもな」


「ん」

「デートなら、普通は手を繋ぐものよね?」


「……?」

「繋がなきゃいけない決まりはないと思うけど、そういう人も多いだろうな」


「じゃあ問題!」

「いま、篠原があたしの手を取ったら――あたし、どんな反応すると思う?」


 胸元に手をかざして不敵に微笑む彩園寺。


「ほう……」


 対する俺はそっと右手を口元へ遣る。


 やけに曖昧でフランクな問題だ。どんな反応、というからには感情や動作が答えになるのだろうが、絞り込むのは難しい。


(デートじゃない、っていうのをあれだけ強調してたんだから、普通に考えたら〝嫌がる〟が正解か? もしくは、あれがブラフとか?)

(……いや、でも)


 思い付いた。


「その手は乗らないぞ、彩園寺」


 ニヤリと笑って、俺はおもむろに目の前の少女の手を掴む。


「――ふぇっ!? な、なななな、なにっ!?」


「手を繋いじゃダメ、なんて言われてない」

「つまりこの問題は、実際に手を繋ぐことで答えが分かるってカラクリ――……」


 徐々に言葉を詰まらせる俺。


 それは、件の彩園寺更紗がみるみるうちに赤くなっていたからだ。フードに隠れてはっきりとは分からないが、頬も耳も首筋もじんわりとした朱色に染まっている。


「ぁ、ぅ……にゃ…………っ」


「……、えっと」

「それじゃあ、答えは『赤くなる』で」


「う、うるさいバカ篠原っ!」


 ぱしっと俺の手を払い除け、両手を胸元に抱きながら恨みがましい視線をこちらへ向けてくる彩園寺。がるるる、とばかりに唸り声が上がる。


「ドキドキさせて降参させるつもりだったのに、あたしの方がドキドキしちゃったじゃない……!」

不正イカサマよ、不正! 手を握るなんてズルだものっ!」


「わ、悪かったって」

「でも……それじゃ、特大パフェはどうするんだ?」


「ぁ……」


 紅玉ルビーの瞳が物欲しそうにメニュー表へと向けられる。


 そして――彼女は、今度は自分から俺の手を取って小声で一言。


「一緒に買って、シェアしましょ?」


 照れくさそうに囁いた。

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