第六回屍喰鬼ゲーム開催4
スクリーンに映った神島がゲームルールを説明する。
「諸君には異端者解放地区の市民権をかけたグールゲームをおこなってもらう。このあと、割りあてられた個室の鍵を渡す。室内にそれぞれのカードが置かれているので、それを使ってゲームを自身の有利に運んでくれ」
ゲームにカードを使うというのは、収容所育ちのヒロキは聞いたことがあった。それに、ゲームはテレビで放送されているから、参加者のなかには、そのようすを見た者もいるかもしれない。
だが、誰もくわしく知らないのか黙って聞き入っている。
「大前提として、君らのなかに捜査官一名、異端者二名、市民七名がいる。カードは三種類。捜査官が使う逮捕カード。これは五枚だ。異端者のカードは毒とナイフ。それぞれに一種二枚ずつ。市民には通報カード二枚。カードは基本的には諸君本来のカーストだ。すなわち、異端者には異端者のカードを。市民には市民のカードを。市民というのは、ここでは異端嫌疑人のことだ」
嫌疑人はまだ異端者確定していないからだ。あくまで容疑者にすぎない。
「ゲームはかんたん。捜査官が異端者二名を逮捕できれば、捜査官と市民の勝利。逆に捜査官が私刑にされれば、異端者の勝ち。カードの使用には条件がある。市民は異端者だと思う相手を通報する。カードに怪しい人物の氏名を書いてカウンターのアンドロイドに渡せばいい」
妙なロボットがカウンターにいると思えば、そのためだったのだ。
「通報カードが一人に二枚集まると、捜査官は逮捕カードを使って、その人物を逮捕できる。これも逮捕者の名を記し、受付で登録する。逮捕申請だ。異端者も同じく捜査官だと思う者を指名して登録。ただし、異端のカードだけは二種類が一人にそろわなければ私刑が発動しない。毒だけ二枚、ナイフ二枚は無効。つまり、二人の異端者が協力しなければ勝利できない」
捜査官は一人で五枚もカードを持っているのに、異端者は二枚ずつ。それも、二種類をあわせなければ効力を持たない。異端者にずいぶん厳しいルールだ。
それはヒロキでなくても、みんな感じたのだろう。
「待てよ」とシロウが口をはさむ。
「おれは異端者じゃないぜ? だけど、えらく異端者に厳しいんだな」
スクリーンのなかで神島が肩をすくめた。
「異端者に勝ってほしいのかね?」
「そうじゃないが、あんたらにしてみりゃ、異端の嫌疑でおれたちを捕まえたんだろ? かんたんに勝たせた上、自由にするんじゃ、なんのために狩ったかって話になんねぇのか? 市民のなかにだって、ほんとにグールのやつがいるかもしんないんだろ?」
それに対する神島の答えはこうだ。
「むろん、グールを逃がす気はない。そのため、市民には評価ポイントをもうける。市民らしい行動にはプラスを、グールを疑う行動にはマイナスをつける。ゲーム終了時、評価がマイナスだった者は異端者とみなし、収容所に投獄する。たとえ、ゲームに勝利してもだ」
とたんに全員が静まりかえった。
そういえば、この建物にはあちこちカメラがとりつけられている。放送のためだけではなく、監視目的でもあるのだ。
「それに、相手は異端者だ。カードなんてわずらわしいと思えば、君たちを襲う。これまでのゲーム中、暴力行動を起こさなかった異端者はほぼいない」
カードで勝負と言っておきながら、異端者が本物の毒やナイフをふりかざす可能性を否定できない。やはり、命がけのゲームだ。
「まあ、どっちみち、その場合、異端者は収容所に逆戻りだがな。市民権を得たければ、カードで勝つしかない。暴力では解決しないと心得よ」
異端者が矯正ずみであれば、おとなしくしているだろう。ヒロキやセイがそうであるように。むしろ、まだ嫌疑がハッキリしていない市民のほうが恐ろしい。凶悪なグールがひそんでいるかもしれない。
「その他、補足ルールだ。市民のカードは他者に譲渡できる。異端者を正解すれば評価ポイントが大きくあがるので、なるべく本人が使うほうが個人としては有益だが。ただし、自分のカードを他人に故意に見せた場合、そのカードは没収となる」
ホヅミが苦笑する。
「なるほど。最初に全員で自分のカードを見せあえば、このゲーム、一瞬で終わるね。それをふせぐためか」
神島はそれを受けて続ける。
「市民なら評価ポイントもさがるしな。さらに、捜査官は自ら身分を暴露してはならない。明かすとその時点でゲーム終了となり、異端者の勝利。登録は異端者と捜査官は朝五時から深夜二時まで。市民は朝六時から深夜二十四時。紛失物は常時、受けつける。逮捕カードが何枚使用されても、逮捕できるのは一日一名。申請された順番に逮捕される。市民は市民カード以外は使えず、異端者と捜査官はたがいのカードを使えない。捜査官以外に私刑はきかない。ちなみに逮捕と私刑はどちらも申請の翌朝八時におこなわれる。さらに細かいルールは各室にルールブックがある。それを読むがいい」
たくさん言われて、いっぺんにはおぼえきれない。ルールブックがあると言われて、ヒロキは安堵した。あとでしっかり読んでおかなければ。
「部屋の鍵は受付のアンドロイドが持っている。私からは以上だ。では、諸君。健闘を祈る」
神島の姿がスクリーンから消えた。いよいよ、ゲーム開始だ。
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