エピローグ
エピローグ1
まず、カレンだけが手錠をはめられ獄舎へつれていかれた。
そのあと、ヒロキ、レイヤ、ショウは所長室へ。デスクに軍服姿のユウトがすわるのは当然だ。しかし、ヒロキたちの背後には、特安隊員が物々しく一ダースもひかえている。
なんだか、ようすが変だ。ただのゲーム終了とは違う気がする。
「あの……ユウト……」
質問しようとすると、さえぎられた。ユウトは有無を言わせぬ口調で告げる。
「今回の異端審判は捜査官の勝利で終わった。これより生存者の処遇について申しわたす。まず、清水翔」
最初に呼ばれたのは、意外にもショウだ。
「君は異端者二名のうち、一名しか的中できなかった。捜査官に集団暴行をくわえるという暴挙もあった。本来なら、評価ポイントはマイナスがつくところだ。が、その後の君の活躍はめざましい。混迷する捜査官を勝利にみちびき、身をていして守った。よって、評価ポイントは三百。君をヴァルハラ市民と認めよう。来たまえ。市民証だ」
あの食わせ者のショウが、ユウトの言葉に一喜一憂していた。ヴァルハラ市民と聞いて、心からの笑顔を見せる。
「ありがとうございます!」
ショウは受けとった市民証に、チュッと音をたててキスをする。
「清水くん。君はこれからどうするつもりだね? 仕事は」
「できれば、これまでどおりマジシャンを続けたいですね。ヴァルハラには娯楽の需要が多いと聞きます。マジックショーに出演できれば申しぶんないです。が、大道芸人でもかまいませんよ」
「君の捜査能力はひじょうに高い。その気があれば、特安隊に入隊したまえ」
「エリートの仲間入りですね。考えておきますよ。しかし、特安隊員になると、捜査官としてあのゲームに参加しなければならないのでしょう? プレッシャーが強すぎませんか?」
「特権も多いがね。では、立派なヴァルハラ市民をめざしてくれたまえ」
ショウは特安隊員から私物を受けとり、ヒロキとレイヤに手をふった。
「じゃあ、お二人さん。縁があれば、どこかで会おう」
優しい狐はかろやかな足どりで歩いていった。ショウのためにひらかれた扉が閉ざされる。
ユウトはヒロキたちにむきなおった。市民のショウが呼ばれたから、次はレイヤだろうとヒロキは思った。が、ユウトの呼んだのはヒロキだ。
「入谷緋色姫」
「は……はい」
「君の捜査法はいいものではなかった。異端の殺人享楽者に三人も殺された上、一時は異端者にのめりこみ、捜査を放棄していたな。君が勝利できたのは、ひとえに清水翔のおかげにすぎない」
「はい……」
「それにだ。聞いておきたいことがある」
「な……なんでしょう」
ユウトがヒロキを愛してないことは、イヤってほどわかった。なのに、じっさいにユウトの前に来ると、なんだか卑屈な気分になってしまう。やっぱり、かまってほしいような……。
「ゲーム開始前、君には何度も注意をあたえた。捜査官は自ら身分を明かしてはならないと。だが、君は故意に捜査官のカードを、内藤玲夜に渡したのではないか?」
ヒロキはくちごもった。それは、そのとおりだ。レイヤに借りたタオルのなかに、カードを隠しておいた。それをレイヤが落としたようにふるまったのだ。あのとき、セイやリンに見られて、結果的には異端者の目をくらました。しかし、あれは純粋にレイヤのためだった。レイヤにゲームを有利に進めてほしくて。もしも、レイヤが異端者なら、それでもいいと思っていた。
ヒロキが黙りこんでいると、イライラしたようにレイヤが口をだした。
「そうじゃない。君はただ、あれをおれのカードだと勘違いしただけだ。そうだろ?」
あわてて口裏をあわせる。
「そうです。うっかり落としてしまって。うろたえて変な言いわけを——ごめんなさい!」
ユウトはもちろん見透かしていたと思う。が、わざとらしく襟を正して手招きする。
「まあいい。市民証だ。どうせ収容所を出ても、おまえは生活に困るだけだ。おまえの養父母はとっくに親権を放棄してる。頼る者も帰る家もない。せいぜい、みじめに生きていくがいい」
ヒロキの胸に市民証を押しつけてくる。
最後に何か特別な言葉をくれないだろうか? 待ってみたが、ユウトはもう口をひらかない。
ヒロキは自分から別れを告げた。
「ユウト……元気でね。あんまりムリしちゃダメだよ。強がってばかりじゃ、苦しくなるよ」
ユウトは顔をしかめる。
「きさまごときに案じられる筋合いはない。しかし、ヒロキ。長年のよしみだ。おまえにもおもしろいものを見せてやろう」
ヒロキが顔をあげたときには、背後の特安隊がいっせいにレイヤをかこんで銃をつきつけていた。
「な……何するの?」
ふるえるヒロキの肩を、デスクから立ちあがり、ユウトが抱きよせる。
「ヒロキ。レイヤはな。脱走者なんだよ」
「脱走者?」
「なぜ、彼の髪があんなに白いかわかるか? あれは青い首飾りを消すために、色素を分解する薬を飲んだからだ。レジスタンスがよく使う薬だ」
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