あるトリック3
みんなの表情を見て、シロウが言いだした。
「だったら、今ここに、おれのカード持ってきてやるよ。見たらわかるだろ」
勢いよく立ちあがるシロウをマナブがひきとめる。
「それはダメだって。故意に見せびらかしたら没収だ。さっき、ヒロキちゃんとルールブック見てたけど、通報で異端者を的中させたら、一枚につき評価ポイント三百もつくんだ。一発、誰かなぐったら三マイナス。蹴りなら五。武器使えば十。三百がどんだけ大きいかわかるだろ? 大事にしたほうがいい」
「くそッ。そんなん読んでねえよ。読んでたら言うか」
どうだかなと、ホヅミは言いかえす。
「あえて言ったのかも? 没収の話はさっきもしたから、誰かがとめると思って」
「どういう意味だよ」
「あんたのカードは電話のマークじゃないのかも——って意味」
「なんだと! きさま、さっきから聞いてりゃ、ごちゃごちゃウッセーんだよ。違うと言ってんだろ!」
「言葉だけじゃ信用できないな」
そんななか、リンが無神経に歓声をあげた。少しは空気を読めばいいのに。
「じゃ、おれ、超ラッキーじゃん。自分で見せたわけじゃないから、おれ、セーフっすよね? ね?」
今度はマナブに媚びている。マナブはうなずいた。
「今ので君だけは確実に市民だと証明された。まあ、おれとホヅミ、カレンも八割がた市民と認められたと思う」
ホヅミは微笑する。が、シロウは反論した。
「そんなの、とっさに機転きかして市民のフリしただけかもしんないだろ」
「その可能性もあるから、二割ひいてるんだ」と、マナブは自分で言った。
「もっとも、おれ、熱中するタチだけどね。トランプに夢中だったから。みんな、そうだったんじゃないの?」
ホヅミやリンは即座にうなずく。それを受けて、マナブは続ける。
「あんたとヒロキちゃんは、今のだけではちょっとわからないな。ほんとに金庫に入れてるだけかもしれないし。でも、三割、疑惑って感じかな」
リンが首をかしげる。
「ショウはどうなの?」
それにはホヅミが答えた。
「ショウは見おぼえあるカードだから、あっさり人前に出したと考えるのが妥当かな。異端者か捜査官って、譲渡以外にひろった市民のカードでも使えるんだ。なら、こっそり着服するよね」
たしかに、それもルールブックに書いてあった。マナブも同意する。
「良識ある市民なら、落としものは届けでないとな。紛失物はいつでも受けつけるって、所長も言ってたろ」
しかし、シロウは納得しない。
「こいつ、おれたちの反応見るために、わざとイカサマしやがったんだぜ。リンのカード、落ちてたんじゃないだろ? すったんだよな? ショウ」
ショウは微笑するだけ。ホヅミとマナブが顔を見あわせる。
「だとしたら、ショウは捜査官の可能性があるね」
「うん。異端者をすみやかにあぶりだすために、おれたちにカマをかけたんだ」
なるほど。そんな考えかたもあるのか。ヒロキは感心した。
ショウ自身はトランプを集め、涼しい顔で言う。
「興が冷めましたね。おひらきにしますか」
自分で気まずい空気を作ったくせに、一人さきに自室へ帰っていった。それを機に、マナブはホヅミの部屋へ二人でつれだって入っていく。あわててリンが追った。
ヒロキはシロウといるのが怖くて、急いで部屋へ逃げ帰った。
(カードにあんな使いかたがあるんだ。わたしには思いもよらなかった)
もっと詳しく、ルールブックを読んだほうがいいのかもしれない。
今ので、ヒロキとシロウは疑われてしまった。誰かに通報されないだろうか? その前に対策をねっておかなければ。
ベッドの枕元。小さな棚に国語辞典が置かれている。神島の配慮だろうか? 漢字が読めないヒロキのために。そんな温情が彼にあるとは思えないけど。
そのあと、ヒロキは二時間かけて、ルールブックを読んだ。神島が省略したなかで、いくつか大切と思える項目があった。
たとえば、もしも捜査官が誤認逮捕すると、ペナルティで三日間、逮捕申請できなくなる。
ゲームの棄権は基本的に不可。ただし、生命にかかわる重病など緊急事態には特別に認められる。が、ゲームは強制的に敗退になる。
ゲーム最大期間は二週間。タイムリミットをすぎても異端者が生きていれば、異端者の勝利。その場合、市民は評価ポイント判定となる。
もう一つ。現時点で使用されているカードの集計が、ロビーの巨大スクリーンで確認できる。この集計は三時間ごとに更新される。そういえば、トランプをしていたとき、スクリーンの右上部にゼロがならんでいた。まだ一枚のカードも使われていない証だ。
だが、それより何より、ヒロキが気になったのは、最後のページに書かれた一文だ。
——ゲーム中、捜査官、市民による
拷問? 異端者が——ではなく、市民や捜査官が? その意味が、ヒロキにはわからない。
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