亜種二世2



「おれもウワサでしか聞いたことないんだ。異端者が捕まると、異端審問会ってのにかけられる。いわゆる裁判だ。おれらも、このゲーム参加してなきゃ、異端審問会に送りこまれてたよ」

 リンは他人ごとみたいな顔をしている。自分がどんな運命におちいるところだったか、まったく自覚していない。

「リン。いいか? 異端審問会じゃ、針に電極仕込んだ首輪つけられて、電流で脳みそ焼かれるんだぞ?」

「えっ? そんなことしたら、死んじゃうじゃん」

「死ぬよ。おれが聞いたウワサじゃ、首輪の針からナノマシンが頸動脈けいどうみゃくに注入されて、それを脳みそに定着させるんだってさ。で、そのナノマシンじたいに発電力があって、首輪外されたあとも、テストステロンとか、オキシトシンとかが大量分泌されると電流を発するんだ。最初は弱く、だんだん電圧あげて。攻撃性に関係する領域を焼くんだそうだ。左右をつなぐ脳梁切ったり」

「うひゃあー!」

 リンが変な声をあげる。

「わかったろ? おれたちは絶対にこのゲームに勝たなきゃいけないんだって。だから、真剣に異端者を見つけないと」

「そ、そうなんだ。うん。わかった」

「首輪で矯正されると、すごくおとなしくなるって話なんだよな。だから、ヒロキとセイがそうなんじゃないかって思う」


 医学生のホヅミもだいたい知っている内容だった。グールゲームの放映は上流階級でしか見られないが、大学にはそれを閲覧できるスペースがある。矯正された異端者を放送で見たこともあった。

「あの二人は間違いなく矯正者だと思うよ。でも、二人は似たタイプだね」

 マナブも神妙になった。

「だな。おかしくないか? もし二人が異端者なら、ゲームが容易すぎる。このゲームの目的から言って、それはないだろ?」

「ゲームの目的って?」と、リンはまた首をかしげる。

 ホヅミはためらった。部屋には盗聴器が仕掛けてあるに違いない。参加者同士の会話も評価ポイントに影響するはず。が、グール的でなければ、マイナスにはなるまいと考えなおす。

「政府は裏ではまだRTRの実験を続けてるって話。改良RTRから破壊衝動さえ抑制できれば、人類にとってものすごい薬でしょ? 再生医療はもちろん、軍事利用だってできる。亜種二世を狩るのは、データを集めたいってのが本音じゃない?」

「ふうん」

 まだわかってないふうだ。ホヅミはダメ押しで言う。

「だからね。実験台はどれだけいても、いすぎじゃないんだよ。一般人だって改良RTR打てば、グール亜種になるんだから。ほんとに亜種二世かどうかは重要じゃない。狩ってきた者を一人でも多く異端者に堕としたい。それがゲームの目的」

 リンは「ひえェッ」と声をたてる。「おれ、今まで異端狩りなんか無関係だったのに」

 マナブは笑う。

「おまえ、どんだけ僻地へきちに住んでたんだよ。おれんちもたいがいな田舎だったけどさ。まあ、諸外国は日本にグールがいるってわかったときに、一般人の渡航を禁止したからな。ハーフのおまえが亜種二世の可能性はこれっぽっちもないよ。そういう意味では、レイヤもかな」

 たしかに、レイヤは北欧風のものすごい美青年だ。ホヅミの好みから言えば冷たすぎる気がしたが。それに、これは勘だが、なんとなくレイヤは信用できない。何かを隠している。

「彼はミステリアスだよね。異端者とも少し違う。なんか変だ」

 ホヅミがつぶやくと、マナブが問いかけてくる。

「レイヤと、ヒロキと、セイ。誰が一番、異端者っぽい?」

「ヒロキだね。さっきまでは、ヒロキとセイで迷ってたけど。ショウのおかげで、ヒロキの疑いが強まった。同じタイプが二人も送りこまれてくるとは思えない。どっちかはダミーだろうね。わたしたちを惑わす囮。貴重なカードを使うとしたら、わたしならヒロキに使う」

「決まりだ。ヒロキに一票」と、マナブ。

 ホヅミは提案した。

「待って。ここにいるメンバーで、確実に沈められるのは三人。ほかの市民が誰なのかまだわからない以上、この六枚の通報カードを有効に使わなきゃ。ヒロキにはわたしとマナブが入れよう。リンくん、君のカードは大事にとっておこう」

 リンは不満げだ。

「ええっ、そんなぁ。おれだって評価ポイント欲しいよ」

「だからさ。同じタイプのヒロキとセイは、どっちかが必ず異端者だ。もし、ヒロキが誤認逮捕だった場合、次はセイに対して、君のカードを使う。それでいい?」

「ちぇっ。なんか言いくるめられた気がする。まあ、いいよ。じゃ、おれ、部屋に帰るんで」

 リンは一方的に言って退室した。

 マナブが眉をひそめる。

「あいつ、大丈夫か? なんか、コウモリっぽいけど。だいぶ天然だしさ。異端者にカード、だましとられないだろうな」

「こっちで預かっとくべきだったかな?」

 しかし、それはあとの祭りだ。マナブの心配どおり、そのころ、リンはコウモリっぽい動きをしていた。

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