収容所の秘密3

 *



 ショウはヒロキが部屋に帰るのを待って、再度、食堂へ行った。せっせとジュースを紙コップに入れてはトレーに載せるリンを見て、思わず笑う。

「いったい、何杯飲む気?」

 リンはショウを見て、心持ち警戒した。ショウは年下の相手が苦手だ。かつての家庭で、無条件に両親から愛される弟が憎かったので。そういう内面を読まれたのかもしれない。リンは浅はかだが、動物的な勘だけはすぐれている。

「どうせ、タダなんだしさ。何杯でもいいだろ。なんか用?」

「君も人を見るね。シロウやマナブのときと、ずいぶん態度が違うな」

「あんた、なんか信用できない」

「私も子どもは嫌いだよ。というわけで、手早く用をすませようか」

 ショウが近づくと、臆病おくびょうなリスみたいにリンはとびあがった。

「おれを殺す気?」

「バカ言うな。ちょっと話を聞きたいんだよ。昨日、レイヤのマークを見たときだけど」

「なんだ……」

 ホッとしているのがムカつく。ショウは腹いせに、リンがトレーに載せたばかりの紙コップを一つとりあげた。アップルジュースは贅沢な果汁百パーセント。収容所の運用資金には事欠かないらしい。備品もすべて一級品だ。

「政府もうまいな。こうやって最高の食事をあたえておけば、負けて異端者になるのも悪くないと思ってしまう。亜種二世のなかには、ホームレス同然で逃げまわってたやつもいるだろうからね。君なんか、そうなんじゃないか? リン。一般家庭で育ったふうに見えない」

「おれのぶん、とらないでほしいなぁ。自分でくんでほしいっす」

 ショウは笑って本題に入った。

「君が見たレイヤのマーク。ほんとに捜査官だった?」

「えっと……だって、電話じゃなかったし。丸二つが紐でつながってて」

「ナイフや毒じゃなかったね?」

「違うよ。ナイフや毒がどんなマークか知んないけど。絶対、手錠っぽかった」

「君、視力はいいんだろうね?」

「もち。両方、2.0だよ。ここ来たとき検査された」

 さすが、動物。2.0はスゴイ。ショウは腕をくんだ。

「おかしいな。そんなはずはないんだが……」

 リンは本能的な勘を働かせて、鼻をヒクヒクさせる。

「もしかして、レイヤ。怪しいの?」

「さあね」

「なんで教えてくんないんだよ」

「君は口がかるいからだ」

「ちぇっ。ケチ。いいよ。レイヤが捜査官なのはたしかなんだし。昼間も見たんだもんね」

「昼間?」

「うん。だって、マーク見えたの昼間だもん。夜はカウンターで登録してるの見かけただけ。マークまでは見てないよ」

 ショウはリンの肩をつかんだ。はずみで紙コップから、コーラがはねおちる。

「うわっ。何すんだよ」

「レイヤのマーク見たのは昼だって? それ、どういうことだ?」

「ど、どうって……レイヤの部屋の前で、ヒロキとレイヤが話してたんだよ。ヒロキがレイヤのカードひろってやってた。おれ、そのときもここにいたんだ」

 リンはドリンクコーナーから、まっすぐ見えるレイヤの部屋を指さす。

「そうか。そういうことか……」

 それで矛盾が解けた。ショウは自分の考えに確信を持った。危険かもしれない。だが、レイヤと接触を試みるべきだろうか?

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