収容所の秘密7
*
消灯時間をすぎていた。非常灯の薄暗がりのなか、ホヅミはマナブと二人で歩いている。人に見つからないよう警戒しながら。
「あれ? 今、変な影、見えなかった? あそこ」
マナブに言われて、天井を見あげる。廊下の暗がりには誰の姿もない。
「よしてよ。こんなときに」
「いや、別に怖がらせるつもりじゃないさ。ほんとに人影が動いたように見えたんだ」
それはレイヤが通風口に入っていくところだった。が、むろん、ホヅミやマナブがそれを知るわけがない。ホヅミは苛立った。
「マナブ。もしかして、じらしてるつもり?」
部屋では監視カメラで見られていてイヤだから、ここへ来た。カメラの死角があると、マナブが言うのだ。
こんなふうに、マナブと急速に親しくなれるとは思っていなかった。マナブの心の傷を利用したようで、ちょっと気がひけるが。
(小林くんによく似たあなた。カエルを解剖するときみたいなドキドキ感。もう二度と味わえないと思ってた)
ホヅミははやる気持ちを抑えてたずねる。
「死角ってどこ?」
「このへんだよ。ほら、こっちむいてるカメラないだろ。とくに夜は暗いから」
マナブの言うとおりだ。カメラが全部こっちを見てない。ホヅミは非常口の前で、マナブを抱きしめた。
(やっと……手に入れた。ずっと好きだった。もう放さない)
満足と達成感。
愛してるよと、たがいの耳にささやきあう。幸福な気持ちで、ホヅミは部屋に帰った。マナブと手をふりあって別れる。
悔恨の残る初恋がようやく昇華した。これでもう縛られない。小林くんは思い出になり、マナブがその位置に立っている。これでゲームに勝ちさえすれば、ずっと二人でいられる。医大を卒業したら、すぐに結婚してもいい。
そんなふうに考えながら、ベッドに入った。このまま、幸せな夢を見たかったのに、なんだろうか。天井から変な音がする。通風口がとなりの部屋とつながっているのだ。
(なんなの? シロウのやつ。夜中に何やってるの?)
せっかくの楽しい気分が台なしだ。ホヅミは意識的にその音を聞かないようにした。望みどおりの夢を見て眠りにつく。自分に朝が来ることは、二度とないと思いもせずに……。
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