EP8 エンカウンターズラボラトリー -Encounters Laboratory-
第22話 インフィルトレーション
森の道なき道を一列になって歩いていく。前からカレア、ヴェル、トリラ、オレ、ティルの順番で最前のカレアはコスモスで草などを切り分けながら前方の警戒、最後尾のティルは後ろの警戒ともし銃撃などの遠距離を受けた時の牽制としてこのような配列になった。
まだ日は浮かんでいて、こんな時間帯に施設に侵入なんて無謀だと思えるだろうが、むしろ夜間の方が警備などが多くなるという史那さんから渡っている情報でその危険性を避けるためにこの目立つような時間に決行している。
ただただ前へ進んでいく。緊張感が張り詰めており、誰も喋ろうとしない。
トリラとどこかで面と向かって喋りたかったが、状況が重なり合って出来ずじまいにいた。話さないとという焦りと落ち着かなさで精神面はあまり良い状態ではないな。
「そろそろだ」
カレアがそう告げると、だんだんと明かりが集中している場所が顕になってくる。見えてきた建築物は、白色の外装で所々に一面ガラスになっている長方体の建物だ。
「ここで実験を?」
正直実感が持てない。この建物の中で人体実験をしているなんて思いもしないし、まるで人の気配のしないこの空気感が不気味だと感じた。
「外の警備も無し、妙だな」
カレアが耳のデバイスから投影されているホログラムで索敵をしているのだが、異様な光景にあまり良い顔はしていなかった。
「ティル君そっちは大丈夫そ?」
「まぁ、そうだな。どこかしらでくる可能性を加味した上での編成だったが、こうもあっさりと目標までくるとあっけないな」
殿を務めていたティルが後ろの警戒をしながらもトリラの呼びかけに答える。
ティルの言っていることは確かに正しい。どちらかといえばティルの意見はもっともであり、こうも簡単にいくと逆に疑うレベルである。
「さっさと情報だけ抜き取って帰るぞ。ヴェル、引き続き俺の死角になる部分の警戒を頼む」
「任せてください」
再びカレアが先行して歩みを進める。やはり近づくにつれ、ありえないことに外の巡回をする警備員が見当たらないのだ。建物からはガラス越しに光が漏れているが、人がいるような影もなく、建物を見ているとどこか胸の中がざわつく。
「トリラ」
「何?オルト」
「オレは大丈夫だよ」
なんとなくいいたかったからいった。どちらかというと、トリラのためというよりも自身に言い聞かせるためだったのかもしれない。まぁ、どちらにしても少し恥ずかしいな。
「頼りにしてるよ」
「ああ」
この言葉を聞いたことにより、少し緊張がほぐれた気がする。心なしかトリラも何か悩みの一つががほぐれたような顔をしていた。
「オーケイ、ちょっと待ってな」
先頭のカレアが建物の壁をさわさわと触り始める。すると、
「抜刃」
カレアが持っている柄からゆらゆらと煌めく光刃を発生させ、その光刃を壁に突き刺す。
「案外深いな」
そういいながら突き刺した刃を収め、そっと息を吐いた。
「いけそうか?」
「ったりメェだろ」
ティルは薄々何するのかを察したのか、より警戒を強める。
「九式応用、一本咲き」
繰り出された斬撃は目視では追いつくのがやっとな程、速く正確に壁を斬り込む。一見すると斬れていないようだが、
「オルト、それの使い所さんだぞ」
ティルがオレの腕に装備されているバングルへ指をさす。
「そうなのか?わかった。んじゃまぁ、展開」
ガントレットをバングルの状態から起動し、ティルの言われた通りに手のひらを壁に沿わせる。
「これからどうすんだ?」
「小指で壁を2回叩け」
何を言っているのか分からなかったが、その通りに2回小指で壁を叩くと手のひらに壁が吸着した。
「これは……、こんな機能があるなんてな」
斬っていると思わしき部分を引き抜くために吸引している手のひらと共に後ろに下がっていると、本当にしっかり人一人が入れる程度の穴があらわになる。
「よくもまあ、こんな意図も簡単に」
関心しながら綺麗に四角形に斬れている壁だったでかい石を音を立てないように優しくおく。
「さ、中に入るぞ」
またカレアが先行し、先ほどと同じような編成で入っていく。
「それにしても誰もいないな」
カレアの言う通り内部は人っこひとりいない不気味な空間だった。
「罠だな、これは」
こうも何もないと言うことは罠ということだろう。まんまと引っかかったといっても差し支え無さそうだ。
本当に周りに誰もいないからか建物内はオレたちが歩く音が響いているだけで、まるで人の気配がない。
「進むよ」
トリラが少し強張ったような低い声音で吐くように告げる。
少しずつ、でも確かに歩みを進める。無機質な廊下は片側の部屋をガラスで分け隔て、ここで何が起きていたのかなど知る由もない。やがて、ガラス越しの部屋が終わり一本の廊下になった。
不気味さも相まっているが、廊下のその奥がどうなっているのかが自然と好奇心を駆り立ててくる。
「ここは……」
そこには人体実験場…なんてものではなく、いくつかの大きいサーバーと一組の椅子と机があるただただ広く円形場になっている大きな広間だった。
「拍子抜けだな」
カレアは警戒しながらもそう言葉をこぼした。
「サーバー…、そうだなぁ。ナノ、頼んだぜ?」
ティルが何やら企んでいるようでナノの子機をサーバーに取り付けた。
『了解しました。少し待ってて下さいね。こんなのチョチョイのチョイですよ』
小さなホログラムで映し出されたナノが意気揚々とした態度でドヤ顔している。
「警戒態勢」
カレアが何かに反応し、一同に臨戦態勢の呼び掛けをする。
「何かいる」
来た道を柄で刺しながらオレにも分かるくらいの確かな殺気で威嚇をしている。
確かに靴が地面に触れて出る音が少しずつ近づいてきていた。少しずつ少しずつ歩みがこちらにきていることが分かる。
緊迫感がこの空間を支配する。息をするのも一杯一杯なほどの重圧、これほどまでとは思わなかった。
「誰だ」
カレアがツンと張った殺気でその足音を鳴らしている人間に問いかける。
「おやおや、お久しぶり?いえ、先日ぶりですね」
ああ、知っているこの不愉快な喋り方を。ニヤニヤとした笑顔が顔に張り付いていて、今にでも殴りたくなるその正体を。
「どうも、ダグナスでご対面したクラウンです」
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