第18話 世界は無限に
カレアは続けて話す。
「まず、EOEの影響下による細胞物質の変化という仮説だ。あれだけの身体強化、細胞一個一個を構成する物質を書き換えていてもおかしくない。ただ、これは物質の構成のズレとはまた違う。そもそも物質自体の変異が起因している可能性がある。これじゃあ能力の解除時には少しずつではあるが元に戻るはず、話が食い違ってくるだろ?」
「ああ」
「次に、別世界から来たから、そもそも構成の仕方が違うという考えだ。マルチバースってやつは聞いたことあるだろ?」
「同じような世界がいくつもあってってやつだっけ?」
「そんなとこだ。この仮説だと合点がいく。オルトがそもそも俺らとは違うマルチバースの人間だったら、この世界と違う構造でもおかしくはない。だがなぁ、これだとマルチバースの数が無限っていうことを意味しているんだ」
「そこでなんで引っ掛かってるんだ?」
こんな話をしているのだから無限が一個や二個出てきてもどうともならないと思うんだけど。
「この宇宙は結局のところ有限のハズなんだ。計算上は無限でも、極限までいくと必ず終わりはある。この宇宙だっていつかは終わりが来て何もかも無くなるんだ。ただ、さっきの仮説が本当だとすれば、この世界と本当に限りなく、寸分の違いで構成された世界が確立されることになる」
難しい話で良くわからないが、端的にすると、ほんの少ししか違うという世界は無限の中でないと存在しいえないってことなのか。
「そもそも、別世界を観測できていないっていうことだから、この説っていうのはどっちについても悪魔の証明にはなるんだけど。まぁ、ファナラスを想像して欲しいんだけど」
「急に来たなぁ。OK」
「じゃあ、今この時に想像しているファナラスがこの宇宙にもう一つ存在なんてしていないだろ?」
「ああ、そうだな。宇宙開拓時代なんて50年前のことだ。それこそ、その1000年続いた開拓時代に見つかっていてもおかしくはないな」
「まぁ、新しくできてる惑星もあるけど、それと同じように寿命を迎えた星もある。そんな中でもうほとんどミクロの視点でしか違いが見分けがつかない!なんて星はないんだよ」
確かにな。有限ということなら、と思ったけど奇跡的な確率で一致ってこともあり得るんじゃないか?
「今、奇跡的な確率であるって思ったろ。まぁそれもあるかもな。正直幾千もの星の中には似たようなことをたどったかも知れない星だってどこかにあるかも知れない。でもな、時代も、歴史も、人種も、個人の記憶も、性格だって全部一緒に歩んでいるっていう世界なんてな、実際あり得ない話なんだよ。どこか必ず差異が生まれるもんなんだ。性格も何もかも」
最後の言葉はオレに対しての強い意思を感じる。これは多分オレのことを指していることだと直感的だがわかった。
「無限がどうのこうのはわからん話だし、オレが別の宇宙から来たっていうのも、まぁ、受け入れ難いけどさ、今までのオレらの関係が破綻するなんてことないだろ?」
「あったりまえだわ。そこまで人間性は終わってねぇよ」
その言葉を聞いて少しホッとした。正直このことを聞いて真っ先に、避けられてしまうのではないかとか、今までの関係が変になるとかを思った。
「サンキューな」
「別に気にしなくても、どっかにいなくなるんてことしない。置いてけぼりになんてするもんかよ」
こっちが恥ずかしくなるくらいしっかりと目線をロックしながら話してくる。
「ああ」
カレアにとってオレはオレであって、何者でもない。たとえ、オレがこの世界の住人でなくとも。どこまで行ってもオルトとしてみてくれているんだろう。それは嬉しいことでもあり、どこか後ろめたさを感じているのも事実だった。
『そろそろ出てもいい頃合いですよ』
「!?」
その急に出てくるのマジでびっくりするからやめて欲しいんだけど。びっくりしすぎて声出なかったんですけど。
「もうそんなか。おら、出るぞ」
差し伸ばしてくる手をとり、もう味わいたくないと思うくらいの感覚から逃げるように立ち上がる。
「これ、どうにかならないのかよ」
「そこは我慢してくれ。機能は十分にいいんだよ」
その言葉でふと気づいた。不思議なことにさっきまで棺桶のネットリとしたでも感触はもっと言い表せないようなそんな謎の液体に浸かっていたのにも関わらず、濡れていないのである。
「あれ、すごいなこれ」
あの感触はすごい機能も補ってマイナスにはなるがな。タオルで拭く必要もないため、いそいそと隣に置いてあった着替えを着る。
「さあ、準備しろよ。ここから俺らは小規模の反乱分子になるからな」
『いいですね、反乱分子。大昔の偉人のようじゃないですか』
「だろぉ?」
それは勘弁願いたいのだけれど。
確かに今から行う行動は一つの政府に対する反逆行為とみられても変わり無いのだろう。秘密裏に運営されている研究所から超機密事項を抜き取るのだ。
「手荒なことはしたくないけど、腹括るしかなさそうだな」
正直なところ、これは行き過ぎた行動なのは重々承知だ。もはやここまでいけば最悪の場合、ひっとらえられた瞬間その場で首がとぶ。比喩でもなんでもなく。いや、首だけで済むなら御の字かもしれないな。でも、確実にトリラへ向く魔の手は近々目の前にくる。どれだけ遠い場所へとんでいっても帝国の目が必ず見つけ、実験台の足しに捕まえにくるんだ。
なぜそう言い切れるかって?奴ら帝国の悪行は昔から耳にする。目をつけた獲物は絶対に逃さない。その標的にされた星が辿る運命は全ての資源を吸い尽くされ、更地になる。
その、帝国と敵対する形になるのか。
「オルト。無理だけはすんな。死ぬなんてもってのほかだ」
険しい顔になっていたのか、カレアが宥めるようにいう。
「戦うって言ったってさ、何も力だけじゃない。それこそ極大解釈すれば生きることこそ戦いとも言える。今回は、EOEという情報の中身をみて帰ることが勝利条件だ。だからそう背負うなよ」
そう言いながら微笑む。重要なことだが命を賭けるほどでもない。命を賭けるくらいだったら逃げるほうが、死ぬよりもいいということだろう。
「死にはしないよ」
「そう言って死んできたやつを見てるから、ま、精々気張りな」
死にたくて死ぬやつの数は少ないと思うけど、それはただ運が回ってこなかったと言えるかもしれないな。
と、その時、アラームと共に大きな衝撃がきた。
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