EP7 スペースストライク -Space Strike-

第19話 この宙を舞う翼

 アラームと共に爆音と強い衝撃が船体に走った。

 一緒にいたオルトが衝撃で尻もちをつくくらいには船の安定性が不足している。急いで耳につけているデバイスでティルへと連絡入れる。

『あいあーい』

 一応無事を確認できたことにホッとする。

「そっちの状況は?」

 緊急事態だが、こういった場合には冷静になって状況を確認する。

『まぁ、ぼちぼちか。今はLeollionレオリオンのハンガーだな、運が良いことに』

「そいつは良い知らせと読むべきか」

『トリラは無事だ。一応TenCryテンクライのブリッジに向かわせた。あそこならシールドも硬いし安全だろ』

 手回しがいいことで。あまりにも手際のいい報告で感動した。

「なら、こっちにいるオルトもそうするしかないよな。あとは…ナノ」

 俺がそう呼ぶとナノが目の前に瞬間的に現れる。正直今はなんとも思わないが、これ結構ホラーだよな。

『なんでしょう』

 ナノが少し険しい表情で答える。ナノはこの船の中枢を担う重要な人物だ。どういうことかというと、今現在、外の厄介な連中の相手をしている最中だと見える。

「すまないが、ヴェルの位置はわかるか?今からRiseSiXライズシックスのところまで行かなくちゃいけない」

 意図を汲み取ったかのようにため息を吐きながらやれやれと告げる。

『了解しました。位置を特定次第、早急にブリッジまで誘導、というカタチですね』

「よーくわかっていらっしゃる」

 手を擦り合わせながら感謝の意を伝える。

『あまりAT使いが荒いと反乱を起こしますよ?』

 うーむ。怒ってらっしゃる。プンスコという文字のホログラムが浮かび上がり、お気持ち表明って感じでわかりやすく怒っている。


ちなみにATとは人工思考体の略、総称を表しておりナノのことを指す用語だ。昔はAIという名前が一般的だったが、シンギュラリティポイントを通過したAIはもはやAIの域を超えていると色々な学者が問い、今のこの呼び名に落ち着いた。一応人工でも身体を持たなくても彼女たちは立派なヒューマノイドなのだ。下手に色々なことを押し付けたら一般的な人と一緒と同じく、疲れたり、気持ちが乗らないなんてこともある。だからこそ、普通の人と同じように接するのだ。


「オルト、とりあえず言いたいことはわかるよな?」

「ああ!」

 互いに考えてることが分かっていると思うので、変に言葉に出さない。時間もかかるからな。お互いの行く場所は明白で、自ずと体が向いていた。

「すまないナノ!さっさと外の奴らを潰してくるから!」

 謝罪しながら自身の愛機RiseSiXの元へ急いで駆け込んでいく。いつものHUDヘッドアップディスプレイ付きバイザーをかけ、愛機へと乗り込む。スイッチをパチパチと音を立てながら、動力やシールドなどのパワーを上げていく。

「HUD同期完了。RiseSiX準備完了」

 そう告げると、バイザーに現在の状況とナノの簡単なアバターが表示される。

「えぇとぉ、ティルはもう出てるのか。敵は6機か」

 どこの差金かは知らないと言いたいが、まぁ目処はついている。帝国の奴らだろう。ここの宙域はファナラスの星系に入った場所なため、ギリギリ星間同盟のパトロールがいないのがまったくって感じだ。残骸を見つけても海賊にやられました、なんて報告書に書かれて終わりだろう。

 ダグナスからファナラスの星系はある程度近い地点にあるので通常航行で航行していたところに襲撃というところだろう。この場合は。

 まぁ、今はどうでもいい。考え事をしているうちにカタパルトのゲートが開き切る。

「RiseSiX発艦する!」

 いつものことながら、発進する時のGは緊張と共に飛んでいるという実感を湧かせてくれる。機体から伝わるジェネレーターの音の調子も良さそうだ。

『さぁ、パーティーは始まってるぜ!』

 通信機越しにティルが叫んでいる。ああ、熱くなっちまうのわかるよ。

「わあってら。状況確認、流石だなオメェ。六機って聞いてたけど、元は八機だったのか」

 周囲をスキャンしたら破壊されている熱源が2個あった。レーダーには情報の六機、さっさと片付けてしまいたいが、そうは問屋がなんとやらだ。

「いた」

 編隊から逸れた機体が一機確認できた。

「さぁ、いくよ!」

 加速させたRiseSiXは逸れている標的を確実に仕留めるためにグングンと距離を縮めていく。

 敵の援護も届かないエリアから出さないように射撃をし、仕留めるためのキルゾーンへと誘導する。思ったように動いてくれる敵だなと思いながらも照準を合わせながら詰める。

「ッキタ!」

 トリガーを押したと同時に数発のレーザー弾が放たれ、標的だった機体に焼き切れた穴が空いた。

 機体にとって致命傷になりうる場所を打ち抜いたため、花火のように円形の爆発と光が一瞬宙に渡った。

「次!」

 そんな一瞬のうちに広がる光を横目に、機体を反転しながらスキャンを展開し、レーダーを確認する。残り五機か、被害は最小限にして殲滅したい。

「おいティル、編隊の中心に仕掛けてこいよ」

 我ながら最低なことを言ってるのは重々承知しているが、速さでのヒットアンドアウェイを得意とするティルの機体ならいけると思っていたからだ。

『お前なぁ、まぁ、そう来るとは思ってたわ。ただ、さっき二機ぶちのめした時に見せちまったからなぁ』

「肝心な時に使えねぇな!」

 こうなると難しくなる。どうあの防御陣形を崩そうか。速くしないとTenCryに攻撃されてしまう。

「出費は覚悟の上だ!」

 スイッチをパチリと切り替えると、バイザーにはマルチロックオンのHUDが展開される。

『オーケー、そいつでいくのな』

 一機ずつロックオンしていくが、固まってくれているお陰ですぐにロックオンできた。

「マルチミサイル行くぞ!」

 機体を大きく回転させながら、魚雷用トリガーを押す。

 二門の魚雷管から発射されたミサイルはお互い回転しながらロックオンした標的に向けて進んでいく。ある程度進んで行ったところで敵も気づいたのか、回避行動をしたりフレアを焚いて攻撃を続行する機体もいたが、このミサイルはそんななまっちょろいものじゃない。

「叩くぞ!」

 マルチロックのスイッチをオフにしながら音速モードのスイッチをパチリと切り替える。翼が少し畳まれた状態になり、ブースターの出力効率が最大限に跳ね上がる。そして、切り替えると同時に先程発射したミサイルから大量のミサイルの弾幕の波になって標的に押し寄せる。フレアで誘導されていたミサイルもあったがどのみち自身の首を絞めるようなものだ。大元のミサイルはロックオンで誘導するもののマルチロックでロックした標的たちには弾幕が包み込むように標的に向かうよう設計されている。そしてその弾幕として働くミサイルは無誘導。弾幕の展開位置はちょうど直角のように包囲されている。

『貰った!』

 無数のミサイルの波に覆われた敵の機体は浅いが無数の被弾により疲弊する。そこに颯爽と駆けつけ撃墜していく機体がまさに電光石火のLeollion。機体のコントロールを被弾の衝撃によって崩されたところを撃墜、弾幕を避けきれたと油断したところを見逃さず撃墜、これがアイツの実力だ。

「負けられないな!」

 キルゾーンに入った瞬間、興奮と冷静さが入り混じる感情の中で音速モードからフィーバーモードへと素早く切り替える。翼が下の位置に戻ると同時に両翼の先がY字に割れ、今度は撃ち出す弾の連射効率が格段に上がる形態に変化する。さっきまでのスピードが慣性として残ってるのを利用し、機体を滑らせるように相手の周辺につかせる。

 滑りながら撃ち出す連射力の上がったレーザー弾は集弾性能が悪化はするものの標的の機体を蜂の巣にする。

「次!」

 撃破後、近くに救援に来ようとしていた機体が突っ込んでくるのを確認した。機体を起こし、向かってくる相手へ応戦しようとするが、

「クソ、つかれるか」

 旋回が間に合わず射程外へ回られ、追われる形となってしまった。急いで加速し、どうにか巻けないかと考えていた。

「見つけた!」

 フレアに導かれ、運よく爆発していなかった親のミサイルが視界に入り、それに照準を向けて弾を撃ち込む。何発か命中し、辺りを光で覆い尽くした。

「これで見失うハズだ。頼むぞ」

 光がこの機体を包み込む。自身でも位置感覚がわからなくなるほどの光だった。それでも機体を旋回する形に持っていくので精一杯だったがいい位置につけたようだ。ちょうど光が途切れるあたりでお互いに視認した。

「遅いんだよ!」

 そう、あえてトリガーを弾きながら旋回したのだ。オーバーヒート覚悟で撃ち尽くす勢いのまま放たれていたレーザーの弾幕は、標的の機体をあっさりと焼き切って撃墜した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る