第20話 人型強化兵器

「こっちは終わったぞ」

 一応ちゃんと報告する。これ戦場の鉄則ぅ。

『あと一機なんだがなかなかしぶとくてな』

 ティルからの一報をきき、すぐに援護に向かうために機体を加速させる。

「フレアを放ってた機体か?相当の手練れとみたほうが良さそうだな」

『そうみたいだ』

 レーダーで移動する方向をみるに確実にTenCryテンクライへと向かっている。

『確実におれらのこと潰す気だなぁ、コイツァ』

「絶対にここで仕留めるぞ」

『ああ』

 一度、二手にわかれ、挟撃する陣形をとる。

「コイツで終わりだ!」

 ティルと俺が放ったレーザー弾は標的とする機体に対して少し先へ着弾するようなクロスポイントだった。のだが、

『躱された』

 クロスポイントを見抜かれていたのか、機体を最低限の動きで少しの捻りで回避したのだ。

「こういう場合は」

『突貫するに限る』

 ティルが先行して、加速していく。それを追うように続く二段の構え。

 高速で進むLeollionレオリオンは追い討ちと言わんばかりのように鋭い弾幕を撃ち出したが、ひらりとお構いなしに躱してくる。

『ムカつくヤロウだぜ、まったく』

 ここまでで弾が当たらないことは今まででないと言っても等しいほどの強敵だと確信できる。

「こっちも仕掛けるぞ!」

 通常の状態に戻し、再度攻撃を仕掛けるためにトリガーを弾く。数弾放たれたレーザー弾はしっかりと敵の機体に向かって進んでいく。がしかし、またまた躱される。挙動がまるで最初からあたる場所を知っているかのような動きだ。

「何かタネがあるな」

 そう呟いた矢先、位置的には後ろを取っていた俺らだったのだが、敵は慣性をのせたまま機首を後ろへと持ってきたのだ。

『そんなのありかよ!クソ!』

「散開しろ!」

 そのまま敵も負けじと撃ち返してくるのだ。間一髪とまではいかないが、シールドに2発程度貰ってしまった。あの異様な挙動、負荷に耐えうる身体、噂に聞く。

人型強化兵器ブースタリアンだなあれは』

「初めて戦うな。まさか巷で噂の身体強化手術を施したヤツとこんなカタチで相対するとはな」

 身体を改造している人間兵器。肉や骨は人工に置き換えられ、神経までも痛覚の信号を遮断している徹底っぷりだ。

『相手が悪りぃなこりゃ』

「せめてこっちの手が届けば」

 挟み込もうが、後ろに回ろうが躱されて反撃を喰らうなんて、どうしようもならん。考えた先にあるものなんて敵にとっては差異たるものだろう。ミサイルもさっき撃ったあれで終わり。と思っていたがそうじゃないよな。

「おい、まだミサイル撃てる余裕あるよな?」

『一応な。エネルギー残量は余裕があるが勿体無いから使ってない』

「そいつを使うぞ、シノゴノユウナ」

『あいあい、装填セット発射シュート

 Leollionから放たれたものは光の塊だ。ミサイルの形状とはかけ離れているものの、しっかり誘導し、着弾すると爆発する。この光のミサイルは動力から直接供給され、発射される前までエネルギーを縮退、専用の射出機構で発射される。なぜ誘導するのかはわからないらしい。改造の中で生まれたものであり、再現性もないのでLeollionにしか付いていないのだ。

射出された光ミサイルは高速で標的に向かっていく。敵も当たるまいと機体を揺らすが、ピタリと背後につく形で追っている。

『あとは頼むぞ!』

 ああ。任せとけ。ヤツが後ろのミサイルに夢中になっている間に正面に回り込んでいたのさ。

「強化された身体に頼りすぎだ!」

 標的へ一直線に、正面衝突するんじゃないかと思うくらいの速さで接近する。接近すると同時にヤツもこちらに向かって弾を放ってくる。が、そんなのは関係ないな。シールド出力を前方に集中しているんだ。そう易々とダメージは負わないよ。

「射程、入った!」

 敵機にの近くまで迫っていた光ミサイルに対してトリガーを弾く。ヤツはもちろん回避行動はしない。なぜならオマエに撃っているわけじゃないもんな。

 見事命中し、光ミサイルはレーザー弾に接触したため、大きな爆発を伴い敵機のバランスを崩させる。そこに颯爽と宙を切るLeollionが駆けつけてきた。

『さよならだなぁ、ブースタリアン』

 Leollionから数発のレーザー弾が放たれ、もう一つこの宙域に爆発を作った。

「状況終了。大物だったな」

『クソ、疲れたじゃねぇか』

 身体が興奮して汗が出てくるほどに暑い。今まで気にならなかった呼吸も疲弊で荒くなる。

「ブースタリアンが単純なやつでよかったよ。これで視野も広くて頭のキレがあったら間違いなく負けてた」

『ブースタリアンの大半がそれでよかったな』

 命令を言われた通り単純にこなし、自身への攻撃に対して敏感に反応するって話をどこかで聞いて思い出せなかったらヤバかった。

『さ、帰ろうぜ。ここに留まる必要もないからな』

「ああ」

 ティルとともにTenCryの方へと方向を合わせ向かう。

『良くもまぁおれらの位置が分かったよな』

 ぼやくように引っかかっていたとろをティルが突いていくる。

「それだけこの星系に敵が集められているんだと思う」

『そいつはあれか?ファナラスの研究所がアタリってことでいいんだよな』

「そうみていいかも。ただ少し異常に警戒しているってことだな」

 ブースタリアンなんて兵器は帝国でしか配備されていない。しかも、そのブースタリアンを中心に小隊が組まれている。多分この星系の全ての小隊はこのカタチで配備されているのだろう。星間同盟が統括している星系にわかってはいたが当然のように帝国の連中がいる。多分EOEの研究情報欲しさに帝国の自由を許している。十中八九ファナラスの上層は腐敗しているな。

『まぁ、なんでもいいわ。っと、そろそろ着艦する用意だけしとけよ?』

 コイツはなんも考えないタチなのホント尊敬するよ。考えることに夢中でいつの間にか俺らの船に着いていた。

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