第17話 在り方の食い違い
皮膚をチクチクとつつき、ぬるくぬめっとした感触が全身に伝わってくる。
なんとなく意識が戻ってきたという感覚が薄ら薄らと戻ってくると同時に、気色悪い感触が全身を襲う。
「うわぁぁ!気持ち悪い!」
あまりにも嫌な感触だったから飛び上がるように体を起こしてしまう。その瞬間めまいで吐きそうにもなった。
『あ、起きましたよ』
「おあ、起きたのか。安静になー」
目を覚ました場所は、さっきまでカレアたちが浸けられていた医療ブロックのいわゆる「棺桶」と言われる場所だった。
「うおえ。カレア、これどうにかならないか?」
この全身気持ち悪い感触はどうにも人が入っていい場所じゃないんだよな。
「目覚めの棺桶の感触は気に入ってくれたみたいだな」
「冗談でもそれはないね」
ケラケラと笑いながら椅子を後ろ向きにして背もたれの部分に肘をついているカレアを見て、さっき沈められてた時、二人ともおかしなテンションだったのはこの気持ち悪い感触があったからかもなあと勝手に解釈できた。
『バイタルは一応正常値ですので安心してくださいね』
「だとよ」
そうじゃないと困るんだよなぁ。ここに浸かったままは流石に正気度ではいられなくなる。
『ただ、もうあと10分くらい入っててくださいね』
「マジかよ…」
ほとんど死刑宣告というような内容でぐったりとしている体がもっと沈むような感覚に陥る。
「そんでだな、この時間に色々伝えることがある」
「なんだよ、急に改まって」
少し、声色が真面目になったカレアに不安を覚える。
「まぁ、緊張すんなって」
「どっちなんだよ」
「今回のお前の多分一つ大きな疑問。なぜこうも気絶するのかについてだ」
「それか」
オレもどうも引っかかるところがあった。今までいきなりぶっ倒れるように気絶するなんてことはなかった。心当たりがあるとすれば…。
「EOEの影響下だろうな。今断定できる情報からの推測にはなると思うけどな」
「そうだよなぁ」
最近の状況から察するに、EOEが起点で副作用のように気絶するとしてみると違和感がない。そうなるとトリラだよなぁ。トリラはオレが気絶する原因に自身の能力に起因すると気がついてる可能性だってある。
あれ、待てよ?
「トリラはどこに?」
起きた時にいないということをこの思考の流れで行き着いた。正直いうと頭の中をかき混ぜられているような感覚で、視覚もまともに機能しないくらいに目が回り、眼球の奥がとんでもなく熱い。そこに誰が目の前にいるとか、誰がいないとか、苦しい言い訳になってしまうがどうでも良くなるくらい気分が悪く、自分自身のことしか考えられなくなっていたのだ。
「トリラなら頭冷やしてるってよ。本当に冷やしてるかは知らん」
「後でちゃんと向き合って話してみるよ」
果たしてそんな時間があるかどうかなんてわからないが、トリラがどう思っているかは知りたいんだ。
「あ、そうだ」
「まだあるのかよ」
空気が抜けるように出している今思い出した感満載な言葉に少したじろいてしまう。
「オマエ、この世界の住人じゃないかも」
何言ってんだよ。
「そんな冗談は今は笑えないよ」
カレアが急にそんなふざけた冗談を言ってくるやつではないことを知っているため、何か引っかかる感じを残していたのを振り払おうとするようにこちらもおどけてみせる。
「半分冗談だけど、半分本当だ」
かなり強く鋭く発せられたその言葉はオレの脳に刺さる。
「!??」
信じたくはないが今の言葉はかなり真剣に発せられているものだということを感じ、声にならない叫び声のような音が室内に響く。
「今わかってることは、オルトを構成する細胞などの有機物質と、ここの世界の有機物質は、構成の仕方がほんの数ヨクトメートル違うってことだけだから。半分冗談で、半分本当」
ますますわからなくなってくる。
「どd、ど、どういうことだよ」
正直、動揺という動揺の感情が湧き上がってくる。
だって、今の今まで別の世界で過ごしていました。なんて言われてもピンともこないし、そもそもみんなだって普通に接していたじゃないか。違和感なんて微塵も感じられていなかった。
「ちょっとここから仮説を話すから長くなると思うぜ」
「わかった」
今にもどうにかなりそうな気持ちを抑えながら、それでも抑えの効かない感情を飲み込もうとしながら挑もうと思った。
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