第26話 儚き放浪者
「ティル!メディカルストレージだ!」
カレアから慌ただしい声が出される。
「オルト!ダメ!そんな!」
トリラも少しパニックになりながらもオレのそばによってきてくれた。
いてぇ。傷口はまぁまぁ広く、まだ射出されたニードルが刺さったままだ。
「今から傷を塞ぐ。少し辛抱してくれよ。まだ刺さったものは摘出できないがなぁ」
ティルがそういいながら服の一部を少し破き出血している部分に当てながら、怪我用の医療パックを準備している。
「いいですね、それでいいんですよ!私が求めていたものが見れました!」
クラウンのヤロウは相討ちだというのにやけにテンションが高い。
「いいものが見れたのでもう少し教えてもお釣りは出るでしょう。そこに転がっているシトはこの世界のオルト君と言いましたがもう死んでますよ。骸を無理やり動かしているだけ。オルト君もご存知あの五年前の災害ですね死因は。面白いですよねぇ。因果なものですよねぇ。まぁ、それでも一応意識のようなものは副次的な効果によってあるみたいですけど誤差みたいなもんですよ誤差」
クラウンはケタケタと汚い面で笑いながらそう告げる。告げられたとき、一番そのことを気にしていたと思われるカレアがシトの顔面に被せられているフェイスシールドを剥がす。
「.......、すまない.......」
カレアは噛み締めようとしたであろう言葉を吐く。
そう、仮面を外したシトの顔は所々を機械や人工的なもので補ってはいるが間違いなくオレだった。
この世界のオレは本来あってはならない状態だったのだ。覚悟していないわけではない。色々な可能性は少し考えていたんだ。本来オレがいる世界に入れ替わったとか、せめて生存してほしいという願望があった。
「それで、オルト…いやシトを使って俺たちを襲っていたのか」
カレアは憤りを表面上見せてはいなかったが、声音で怒りと殺意が伝わってくる。
「そうですよ!全てはこの災害を奇跡的に生きたオルト君を私の作品とするために!あは、でもその災害を発生させた原因は私ですけどね」
クラウンからたくさんの情報が渡ってくるが、やはり全て殺意が湧くような答えになる。
誰も彼もクラウンへ殺意を向けていたがオレが負傷しているため、下手に動けなかった。だが。それをぶち壊すように一発の銃声が部屋に響き渡る。
「が…あぁあ?ヴェール?どうして私を撃っているのですかぁ?」
クラウンは混乱し撃たれた腹を押さえながらヴェルを見ていた。
「黙ってろよ!クソヤロウ!お前が!お前のせいで!お前を!アタシが!」
いつものヴェルとはおおよそ似ても似つかないような口調と態度だった。
『ヴェルさん、ヒットです!』
多分だが、ずっと機会を見計らっていたようだ。ヴェルはナノの情報端末へのクラック中ずっとナノの近くにおり、終わるまでナノの事を守っていてくれたらしい。そして終わった後に、ナノの手助けを経てクラウンに一発お見舞いしたらしい。
「ヴェール?なぜ君は私の邪魔をするのかな?□●%&△...!」
クラウンはなぜかヴェルの名前を知っている。いや、違う名前なのか?最後の方はまるで聞き取れない。
「オマエェェ!」
ヴェルは怒りのまま持っている拳銃をまたクラウンへ数発発砲する。
「ヴェル!落ち着け!」
カレアが割って入りヴェルを宥めようとする。だが、元から弾倉に多く弾が装填されていなかったのか、チャンバーがすぐに下がった。ただヴェルはずっと怒り任せにトリガーを弾くことをしていた。
「カレアさん!アタシは…」
やっと正気に戻ったのか拳銃を下ろしながらクラウンを見た。が、
「痛いじゃナイか、ヴェール?ソんなのでワ私ハ死ななナいよ?」
撃たれ、致命傷を負ったハズのクラウンが緑色の血を流しながら起き上がる。もはや顔の原型は銃弾の跡によって捻じ曲がっている。
「なんで動いて…。いや、ヴェル後ろに来い!」
カレアが咄嗟にヴェルを守る体勢に入る。
「カレア!クソ!」
ティルもオレの応急手当てで動けないでいる。オレがこんな状態じゃなければきっともう少し上手く立ち回れていたかもしれないのに。
「クッ…ソォ」
応急処置のおかげでだいぶ楽にはなってきているが如何せん痛みで体が動かせない。
「オルト、分かるけどまだ動いちゃダメよ」
そばにいたトリラに肩に手を添えられ力なく持ち上げようとした身体を戻す。肩に触れていたトリラの手は震えているのがわかる。
「コイツなら」
そう言いながらティルは拳銃を取り出しクラウンへと向け発砲する。
「おやおや、もうその手は通じませんよ」
そう言いながら振り返ってくるクラウンの背中には触手のような奇妙なものが飛び出ていた。その飛び出した触手でティルの放った弾が受け止められている。
「なッ…ニィ!」
ティルは拳銃を握りしめながら苦悶の表情を噛み殺した笑みを浮かべる。
予想外の出来事に色々なことが起こりすぎてもう何が何だかだ。
「シト、一度撤退です。さあ起きなさい」
そう言いながら手に持った装置のボタンを押す。すると、倒れていたシトが一瞬強い電極に触れたような動きをしたのち、すぐに起き上がった。
「嘘だろ」
ヤツにはこれまでもないくらい全てをぶつけたんだぞ。それでも尚あんなあっさりと。いや、傀儡となっているからなのかそういった処置で起き上がるのは納得なんだが、それでもあっさりと起き上がられると驚愕し落胆するのは仕方ない事だと思ってほしい。
「ではまたお会いしましょう。ああそうだ、いいことをお伝えしましょう。今から帝国の人間がたくさんきますよ。頑張ってくださいね」
そう言いながら目にも止まらぬ速さでクラウンを抱きかかえ、壁を破壊しながら遠くへ消えていった。
電光石火の如くいなくなった敵を目の当たりに少しの間唖然としてしまったが、すぐにカレアとティルが根回しをし始める。
「ナノ、TenCryをこっちにまわせ。その途中に他ファイター2機を射出」
『もう全部実行済みですよ』
「流石だなぁ!こっちはオルトの応急処置は終わり。運搬はおれとカレアでハッチまで運べばなんとかなるだろう?」
『そうですね。オルトさんの運搬はナノテクに任せるとしましょう』
手際が早い。びっくりするぐらい。
「悪いな。こんなザマで」
自虐まじりに感謝を述べる。
「いいや?オマエはよくやったぜ?だよなぁカレア!最後能力なしでしっかりキメたじゃねぇか。それでいいんだよ。オルト、オマエは成長してる」
ティルから手放しに褒められると少し照れるな。
「ああ、ありがとう」
照れもあるがそういった言葉というのは嬉しいし泣きそうになる。
「そろそろだ。来るぞ」
カレアが奴らの開けた穴から外を見ていたが振り返りそう伝えてくる。
すると、先ほど空いていた穴が船体によって塞がった。少し強めの風が室内に吹き荒ぶ。
「行くぞ、せぇーの!」
カレアとティルに肩を預けながら船へと歩みを進める。
「トリラは早く入ってな」
ティルが非戦闘員であるトリラを先に船内に入れるために促す。
「うん」
トリラも一つ返事で頷き小走りで船内に入る。
と、その時だった。今まで戦っていたエリアに帝国の奴らが集まってきたのだ。
「クソ!ヴェル、とりあえず撃て!狙わなくていい!」
「はい!」
カレアからの指示によりヴェルが発砲する。一定間隔で撃ったり、数発連射したりして追っ手を牽制する。しかし、向かうも負けじとこちらに銃弾を放ってくる。
「うお!アブネ。ウオォ、がんばれぇ」
銃弾が風を切る音が顔の近くを通りすぎていくのが感じられ、背中に冷ややかに走るものを横目に船へ急ぐ。
「着いた!ッて、うわあ!」
着いたと同時に二人に放り投げられたが、ナノマシンでできたストレッチャーでキャッチされる。
「ヴェルも入れ!あとで追いつく!」
カレアが相手の銃弾をコスモスで弾きながらそう告げた。最初のこの船に乗った時のやりとりを思い出すような会話だった。
「ああ、待ってる」
そう告げると二人は不敵に笑い、やがて船のハッチが閉まると共に大勢の追っ手の方へ構えた。
「
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