EP10 アクロスザスター -Across the Star-
第27話 まだ届かない
痛みと疲労で身体が鈍いな。
「おいティル、カッコよく絞めたのはいいが、LeollionとRiseSiXはもう少し掛かるぞ」
ティルはふるふると首を振りながらOS-XXを構えるが、不適な笑みは剥がれていなかった。
「そうかよ、じゃあもう少しこのダンスパーティーを楽しもうぜ」
そう言いながらコスモスを振り払い壁に沿って走っていく。ティルも近くの壊れた瓦礫をカバーにして射撃を開始する。
「カレア、ぶっ放すぞ!100%射撃!」
ティルから放たれた眩く走る閃光は追っ手軍団の一番深い部分に突き刺さる。
「大当たりだぜ!バカやろーども!」
一撃で屠ったことにより追っ手がざわめき始め、士気が下がっていること間違いなしなのが分かる。
「こっちもいくよ!」
足をバネのように使い、瞬間的に相手への距離を詰める。
「七式・霧雨」
瞬間的な速度を出すならこの技だ。速度を急激に加速したために相手は驚き、その何が起こっているかわからない状態で斬りつける。ガードはおろか避ける仕草をさせないくらいの速度だ。
「まず一体」
そのまま滑るように壁をつたい次の技へ繋げる。
「六式・一輪」
壁からの強襲により、ティルに釘付けだった敵二人をまとめて薙ぎ払う。
「にー、さん!」
すると、ティルから放たれたビームが俺の背後を通過していった。どうやら斬りこぼしたやつがいたらしい。そこを援護射撃で仕留めてくれた。
「助かった」
『次だ次』
再び追っ手の中へと歩みを進める。ティルからの援護があるもののどれほどの敵がいるのかと考えてしまうほどまだまだわらわらと出てきやがる。
一人を斬り伏せても二人、三人etc……なんてやってらんないわ!
ちょうどそんなこと考えながら七人目を斬り伏せたところで回線からナノの声が届く。
『カレアさん、船長、もう着きます。準備を』
長くて短いこの一瞬から這い出るような感覚になる。
「了解だ、おい!カレア!撤収する準備だ!」
ティルは俺を大声で呼びながら地面と天井をビームで撃ちながらスモークグレネードを集団の多い場所の近くへ投げる。
「先に行け!すぐに追いつく!」
銃弾を弾きながらティルに告げる。
少しずつ下がれてはいるのだがどうにも敵が多すぎるためまだもう少しかかりそうだった。ただ、ティルが投げたスモークのおかげでかなり進みやすくなった。
ティルから通信が入る。
『先に乗ってTenCryの援護に入る』
「了解」
上も下もどちらも状況的には変わらないようだ。
あっちにいったり蛇行をしながら後退する。たまに銃弾が当たりそうになるのでそれを弾く、だが流石に人が多い、ということは相対的に飛んでくる弾丸の量が多くなるということでもある。
「イッテェ」
体力的にギリギリで避けているのでかすり傷が増える。
もう我慢ならん。
「七式・霧雨」
技を繰り出す時のスピードで一気に近づこうとする。とその時、後ろで大きな音が鳴り響く。どうやらティルが天井や地面を撃ってできたトラップにかかり、そのまま室内は大きな崩落が起きたとみえる。
「ホントにしっかりしてやがる」
そう呟きながら現場を後にするようにシトのつくった穴からRiseSiXに乗り込む。
『システムオールグリーン。機体ダメージ微小。今からなら20秒で追いつけます』
ちっこいナノが状況の説明をしてくれる。
状況としてはあまり良くないのは分かるが落ち着きながらバイザーをかける。
「RiseSiX、発進する」
そう言いながら機体を浮かせ、すぐに音速モードへの切り替えのためにスイッチを弾く。
「おおおお」
大気圏内で使うと流石にGがすごいな。一応Gを軽減できるシステムを乗せてはいるけど内臓がぎゅっと固められるような感覚だ。
「追いついた」
まだまだ成層圏の外は遥か先にあるがそれでもだいぶ高いところまで来ていたようだ。
敵が数機、TenCryの周辺に張り付いているのを確認し、まだまだ敵がいるのではないかと勘繰って周辺をスキャンしてみるがあたりにはいなかった。状況は良いとは言えないが幾分かマシ程度だろう。
『おい、安心すんなよ。ありゃ人員輸送船だ。中にはブースタリアンがぎっちりだろうな』
追いついと言ってもまだまだ遠すぎて敵機の判別がついてないんだ。勘弁して欲しいものだな。
「そうならさっさと追っ払っちまおう。アレの準備はしておけよ」
『わあったよ。ま、精々気張れよ兄弟』
「そっちもな」
まだ船には取り付かれてはいない。さっさと片付けちまおう。
大きく息を吸い込み、吸い込んだ息を長い間隔で吐き出す。
「いくよ」
音速モードのスイッチを切り、通常の状態に戻しながら敵機へと詰め寄っていく。確実に破壊する算段を考え、ミサイルのロックオンへ移行するためのスイッチを弾く。
「さっさと片付けるぞ」
ロックオンが完了したと同時にトリガーを弾く。撃ち出したミサイルはどんどんと敵機へと距離を詰めていく。しかし、敵機の輸送船はフレアを放ちミサイルの弾道を逸らした。
それを見越した上で引き金を弾く。撃ち出されるレーザー弾は輸送船に当たりはしているが如何せん装甲が厚いため浅い。
ティルは既に一機を攻撃し、かなりダメージを与えているようだった。
「いけるかぁ?」
フィーバーモードでは手数があっても火力が不足しているため以前浅いままだ。
「やるしかないよなぁ」
またも音速モードに切り替え高速でさっきまで攻撃をしていた輸送船を追い越していく。追い越したと同時に旋回し通常モードへ移行しながらヘッドオンの体勢に入る。
「みえた」
狙うは正面一番装甲の薄いキャノピー部分だ。タイミングと狙いを合わせてトリガーを引く。
「命中ぅ」
放たれたレーザー弾は薄い部分から一気に内部へと突き抜け内部から爆発する。
「次」
残り一隻の輸送船へ進路を向け再び速度を上げていく。
『こっちも終わった』
ティルからの報告が入る。ほぼ同じタイミングで終了したようだ。
「挟撃いくぞ」
『ああ』
二重の翼が最後の一機を捉えながらフォーメーション組み、確実に仕留めるために連携していく。
RiseSiXがまず敵の進路を塞ぐために牽制のレーザー弾を流す。次にLeollionが攻撃に気を取られた敵の喉元へ獅子のように噛みついていく。
「タイミング!3、2、1!」
そうティルに呼び掛けるとティルは高速でターンを決め、2機の弾幕で敵を沈黙させる。
『OK』
「コイツで終わり」
状況はある程度安定したと思い、周辺をスキャンしたところ何個かの信号が破壊した残骸から出てくるのを確認した。
「ティル!まだくるぞ!」
破壊した兵員輸送船から出てきたのは宇宙での環境下でも動けるようにした宇宙用装備をきているブースタリアンだ。
破壊された勢いでこちらに飛んできた一体が船体にとりつく。
「んな!」
とりついた場所が幸か不幸か主翼だったため敵は視認できるが、そこを破壊されたらかなりまずいことになる。
『オイ大丈夫か!ってこっちもか!』
どうやらティルも取りつかれているようだ。正直取りつかれたらこっからじゃどうすることもできない。何せ外に出ようものなら宇宙空間に放り出されてお陀仏だ。一応生命維持装置は付いてはいるものの放り出されれば自分の死をじわじわと味わうだけである。
「考えがある。ヘッドオンで互いに引っ付いてるヤツをめくりとるって感じに」
『OKいこう』
互いに一度離れ向きを合わせる。
『どっちかが外したらどっちかが地獄に行けるぜ?』
「縁起の悪いこと言うなって」
正直緊張するがこれを決めなければ面倒になることが確定してるから腹を括る。
『いくぞ!』
ティルの合図でお互いに加速をかけ、とりついてる部分に狙いをかける。程よい緊張感によって集中力が増し、まわりの視界がひらけていく。
ほぼ同時に弾が放たれ、とりついているブースタリアンにお互い命中する。弾が命中したブースタリアンは原型を保っているものの弾が当たった部分は貫通し、みるも無惨な姿になって宇宙を漂っている。
「問題発生、取りつかれた部分が損傷した。オイ、もうちょっと火力絞れなかったのか」
被弾した主翼部分は見事に抉れていた。
『こっちも取りつかれてた腹の部分の装甲が抉れた。おあいこだよ』
本当かぁ?そっちの方はまだ全然大丈夫な気が済んだが。
『まぁいい、それはそうとの話だ。さっさと帰還するぞ』
味方同士の攻撃で傷がつくことはもうこれ以上はないと思うがなんだかなぁという気持ちになる。
「あいよ」
極力スピードを出さずにハンガーの前へいき着艦する。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます