第28話 夢をみた

「ナノ、オルトはどうだ?」

 正直まだまだ不安要素が多すぎるのがネックだ。オルトも多分気絶してるだろうし、トリラの身柄もどうもな。

『ええ、どうにもって感じです。三人を収容した後に気絶しています。データベースのクラックで一応データの照合が取れましたが、やはりEOEのものは劣化が早くなるようです。生物なら寿命でしょうか。今は安定していますが、これからの戦いでまたEOEの影響下に晒され続ければいずれは気絶するように死にますね』

 ちっこいナノから物騒なことが告げられる。

「死ぬか。これからは戦闘のないように努めないとな」

 ここに来てからはずっと気絶したらまた戦闘みたいな形でオルトの身体を酷使させてしまっていた。

『オルトさんもそうですけど、カレアさんも人のこと言えませんよ。なんですかその傷。さっさと治療してくださいね』

 ナノに怒られてしまった。まぁ言いたいことはわかる。正直ここに戻ってからというもの疲労にさっきまで痛みがなかったのがジンジンと熱を帯びてきたのだ。

「とりあえず応急処置するか」

 かすり傷部分にメディカルペンを当て傷を埋める。これがあれば大抵の傷は塞げるし隠せるが、根本の治療にならないので医療エリアに足を運ぼうとし、重い身体を動かしコックピットから出ようともがく。

「ボロボロじゃねぇか」

 ティルがこちらのハンガーに来たらしく肩を貸してくれた。

「そりゃまぁ今回はオレのほうが喰らったからな」

 ティルの肩を遠慮なく借り医療エリアに足を運ぶ。

「それもそうだ。前衛が二人いるとおれは助かるんだが」

 ティルは幸い今回あまり攻撃を受けずに行けたらしい。

「だろうな、いてぇ。なぁティル。メルゲデルに行かないか。あそこなら帝国の連中はいないし、それに休息は必要だ」

 重たい身体を横に次の進路の提案をする。

「ああ、ナノから聞いてる。戦いは避けてぇよな。あそこなら知人もいるし、何せクソ田舎だからな。とはいえ、あそこの整形ならメルグリアでもいいんじゃなねぇのか?おれたちの母なる星だぜ?」

 先程から名前が上がっているメルゲデルとメルグリアは同じ星系でありかなり星同士も近いのだが。

「そうだな。親にたまには挨拶したいところだが、帝国の件を抱えたまま帰ったら後味が悪い。ほんとは帰りたいけどな。オマエも同じだろ」

「そうだな、またメルモースのアイスが食いてぇ」

 あの見た目からは想像もできない美味さだからなぁ。わかる気はしないでもない。

「ただ、これが終わったらさっさと帰って一旦ゆっくりしようぜ」

 これが終われば少しは楽になるのかな、なんて考えちまう。まぁ、誰にも知られずに終わる戦いではあるし、これに勝ったからといって世界情勢が変化するわけでもないと思う。

「カレア、もうそろそろで終わらせるぞ。こんなこと長く続けてっとおれらが爺さんになっちまうからな」

 笑いながらティルはそう告げる。

「ああ、そうだな。着いた。もういいぜ相棒」

 借りていた肩から離れ、壁をつたって医療ポッドの中に入る。すると、ここでセコセコと動いてたヴェルに見つかった。

「カレアさん、とりあえずそのままにしててください。スキャンしますから」

 そう言いながら付属している端末でスキャンを開始する。

「ヴェル、何か聞かれると思ってそうだから言っておこう。気になりはするけど聞かないよ。君に何があったのかは知らないし、これからどうするかは君自身で決めればいい。ただ、話したくなったら話してほしい」

 正直なことを言うと、めちゃくちゃ気になってるし、クラウンとも確実に繋がりがあるのはわかってはいるのだが、あの時クラウンを撃ったヴェルはクラウンにとてつもない憎悪を抱いていた。裏切るか裏切らないかで言えば裏切らないと思う。でも、気になるなぁ。

「ありがとう……ございます……」

 ヴェルは拍子抜けしたような顔をしていた。まぁ、普通は問い詰めるとは思うが、そんなことをしたってあの時のヴェルを見れば敵ではないことは明白だし、仲間としての信頼を築くならこういうコミュニケーションは大事だろう。

「持ちつ持たれずでいこう。あと、別に敬語じゃなくてもいいんだぜ?あの時クラウンに言ったみたいにタメ口で全然、モガ」

「わあああああ!」

 いいかけていたところ、顔を真っ赤にし慌てたヴェルがオレの口を塞ごうと詰め寄った。

「アレはアレですって。アイツにはそういった態度でないと気が済まないっていうか」

 慌てすぎて最後の方はタメ口になっている。

「ま、気が変わったらで全然いいよ」

 すぐに口調が変えれるってことはないと思うし、ヴェルのタイミングというものがあるからそう慌てずに待つとしよう。

「もう、しっかり休んでくださね!」

 この気色悪い感触にはなれないがもうそんなことでさえ考えられないほどに疲弊していることがわかる。

「悪い、少し眠る。ナノ、ちょうどいい時間に起こしてくれ」

『はい、おまかせを』

 少しずつ意識が遠のいていき、気づけば深い眠りについていた。



「だあああ!」

 この地獄みたいな感触は医療ポッドの中か!

『あ、トリラさん、ヴェルさん起きましたよ』

 ホログラムで投影されたちいさなナノが医療ポッドの縁に投影されている。

 あのあと気絶したようでこの中に入れられていたらしい。身体は少し痛むものの、まあこのくらいは筋肉痛みたいなものだと思うことにしよう。

「オルト!良かった、気がついて」

 トリラに心配されるのはもうなれていたつもりだったがやはりまだまだなれそうもないな。

「大丈夫、だと思うけどやっぱりこうなるのか」

 能力での気絶はこの能力の副作用みたいなものだと思っておいたほうがよさそうだな。連続で使えるようなものじゃないのは前々からわかってはいたが、戦いの場で気絶することが確定するようなことは避けたい。

「オルトさん、もう出てもいいですよ。まだ痛みはあると思いますけど、すぐに治りますから」

 ヴェルが端末をいじりながらそう伝えてくる。

「わかった。ん?カレアもいたのか。それもそうだよな。オレと一緒に前線で張ってたんだからな」

 能力ありきで前衛をしているオレに対して、カレアはコスモス一本で戦っているのは普通におかしいとは思うが、戦闘の経験値で言えばカレアはずば抜けているのかと感じながら棺桶から出る。

「そうね。でも、こんなしっかり休息をしてるところなんて見てなかったからちょっと安心するわ」

 この件が始まってからは二人がしっかり休めている様子はなかった。感謝はしているが休んでほしいという思いもあった。最初のシトとの遭遇での怪我の時でさえ、各々がそこでできる最善の行動をしていた。

「そのおかげでオレたちは助かっているんだもんな」

 本当に助かっているのを身に染みて感じる。

「ティル君が話があるからって、行こう?」

 何やらこの船の船長がオレをお呼びらしい。正直不安しかないのだが選択肢なんてないものだから行くしかない。

「わかった、あとは頼むよヴェル、ナノ」

『任せてください』

「大丈夫ですよ」

 もうここの人間は頼もしい仲間という感じだ。ほんとにオレなんかって思えちゃうくらいに。

「はい、いくよオルト!背筋しゃんとして」

 少し自嘲気味になっていたからか姿勢が悪くなっておりトリラに正される。

「ああ、行こう」

 ティルがいると思われる船橋ブリッジへ二人で足を運んで行った。

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