EP9 ペイル・ブルー・ピルグリム -Pale Blue Pilgrim-

第25話 オレとオマエ

「それ、オルトくんですよ?」

 クラウンの放った言葉によりオレとカレアが一瞬怯んだ。その怯みを利用されシトの腕部で薙ぎ払われる。

「ぐあぁ」「うお」

 カレアはうまく受け身を取れていたが、それでも充分なダメージが入っていたようで膝をついていた。一方オレは勢いが殺せず数回転がってようやく体勢を起こせるようになるまでバランスを崩していた。

「なんだって?なんて言ったんだ!オマエは!」

 先程のクラウンの言動に少しの焦燥と本当にあってはならないことを予想してしまう。

「ええ、そうです。オルトくんの今考えてる通りかもしれないですよぉ?」

 クラウンはふざけた笑みでこちらをずっと捉えてくる。

 ああ、ヤツにってることは正しいのかもしれない。ここにくる前のカレアの言葉がずっと残っている。もし、オレが別の世界の人間だとしたらここのオレはどこにいったのだろう。もしかしたら5年前のあの日に入れ替わっているのだろうと思ったりもした。

「シト、オマエはオレなのか」

 そうなるとあの殺意は本当にオレに向けたものになるのだろう。オレを恨んでいても仕方ないのかもしれない。人生を奪ってしまったようなものなのだから。

「面白いですよねぇ?自分自身と殺しあうなんて」

「ふざけたことを言いやがる」

 そうだな、ふざけたことだ。もう一人の人生を奪って、恨みを買って殺されるなんて。

「オルト、動け!そっちにヤツが行ってる!」

 少しずつ体勢を立て直しているカレアからの警告によってハッとなる。

 今は悲観して浸っている場合じゃない。命のやり取りをしているのだ。

 そう覚悟を持ったとき、目の奥で何かが燃える感覚と思考が鮮明になる感覚が走る。

「オマエもオレも被害者ヅラはもうできないな!」

 向かってくるシトを正面に身構える。まだ幸いにもトリラとのパスは繋がっているようだが、そろそろタイムリミットが近づいてくる頃だろう。その前に無力化する!

 シトから鋭いタックルが放たれるが、ガントレットの衝撃波の機能を地面に撃ち込み、反作用で空を舞いながらシトのタックルを避ける。

 今までの被弾が嘘のように頭が回る。さっきまで怒りを振り回していただけで、その力を制御できていなかったのだ。今は怖いほど冷静だ。

「行くぞ」

 空中に待っている状態でもう一回衝撃波を撃ち、そのままシトの近くまで空中を這うように動く。その勢いを殺さずに殴りかかる。

「援護いくぞ!」

 ティルからの正確な射撃によってシトの体勢をいいタイミングで崩してくれた。

 鈍い音が響く、手応えが大いにあるこの感覚。

「命中ゥ」

続いてのけぞったシトにすかさず蹴りを入れる。防ごうと大きい腕部で薙ぎ払おうとするが、その薙ぎ払い攻撃に蹴りをいれながら身を翻す。この動きによってまた空中に浮き上がるが、また衝撃波を使いしっかりと着地する。

「ゥゥアガァァ……!」

 シトは一瞬の内に数回の攻撃をうけ混乱したのか室内に響き渡るほどの大きな雄叫びを上げる。

「あははは!これはこれは。いいものが観れますね!そうです。そのまま殺し合えばいい!」

 相変わらずクラウンは高々と笑いこちらを見つめてくる一方だった。

「そうはさせない。誓ったんだトリラに。ここからはオレの戦いだ」

 強い決意が身体を隅々まで駆け巡り、トリラの思いと覚悟が力となって駆け巡る思いが血潮となり能力がそれらと共に蹂躙する。

「いいでしょうとも!その覚悟まさしく主人公のような眩しさ!私が求めていたものです!」

 もはやクラウンの声なんて届かないほどに目の前の敵に集中している。

「ツ!」

 部屋中に鳴り響くほどの足音を出しながら地面を蹴る。今までにないほどの加速を体に受けながらさらに衝撃波を後方に撃ち加速させる。おおよそ普通の人間が一気に受けるGではないほどの加速を身体に乗せ大きく振りかぶる。

「連携いくぞ!」

 カレアもすかさずシトに一閃を放ち斬り抜ける。そして、そのままオレの射線に滑り込みながらコスモスを振り。それをガントレットの衝撃波で受け止めさらに加速をかける。

「装填、射撃」

 さらにティルからのビーム射撃により守りに入らざるを得ない状況をつくらされ、さらに動けなくなる状況にシトが立たされる。

「ッラアァ!」

 最初の一撃は防御されたが、この勢いを利用しさらに攻撃の数を増やしていく。金属同士が強くぶつかる音と共にもう一撃さらにもう一撃とシトへ詰めていく。確実に防御の膜は薄くなってきているが、その一撃一撃の速度が落ちていくのがわかった。

 もうそろそろなんだ。もう少しだけもってくれ!

 もうこのチャンスは訪れないであろう。強く祈るように反撃を弾き少しでもシトの近くへと行こうとする。

「もうすぐなんだ!」

 シトの防御している腕をどかそうと踏ん張りめくろうとする。が、風船がゆっくり萎んでいくように段々と力が抜け押し負ける。

 もうダメなのか!

「まだ終わってない!」

 諦めかけたその時にかかったカレアの声が背中を押すと同時にカレアが目にも止まらぬスピードで防御していた腕を斬り上げた。

「?!」

 シトも何が起こっているのかわからないといった表情になり混乱している。

 カレアはさらに仕掛ける。斬り上げた腕を左右に弾き、腕を開いた防御が不可能になる状態にさせる。

「まだ、まだだ!」

 足をコスモスで振り払おうするふりを見せつけ、躱そうと空中に上がったところに柄を入れる。鈍い音を立てながら撃ち落とされるがまだ立っていた。

「まだ動くのか!」

 カレアが吠えるように叫ぶとそのままシトへと突っ込んでいく。

 オレも走った。たとえ追いつけなくともせめてあと1発くらいヤツにお見舞いしておかないと気が済まない。殺されても構わないがこちらだってその気でいかなければ一方的にやられるだけなんだ。

「くぅ、がああ!」

 カレアがシトからの反撃に対して防御したが、単純な力勝負に押し負け後方に飛ばされる。

「そう、まだだ」

 少し空いている間合いを衝撃波を利用しすぐさま懐へ潜りこんだ。能力の補助がないので着地はちょっとミスったものの、絶好の好奇を手に入れれた。人間離れした回避を警戒しつつ、反撃へ気をまわしながら拳を振るう。シトからも反撃が放たれていたのを確認し、攻撃をしていないもう一歩のガントレットの衝撃波を放ち引っ込めさせる。

「喰らえ!!」

 鈍い音と共に鋭い何か射出された金属音が鳴り響く。

 オレの攻撃はヤツに当たった瞬間衝撃波を放っていたためダメージは相当なものになるだろう。

 その目論見は思い通りにいき、シトは力なく後ろへと倒れた。一方オレの方はというと。

「痛ぅぅ!あああああ!」

 激しく燃えるような熱が腹から広がってくる。痛みに我慢ができず後ろにのけぞるように倒れた。どうやらシトから何かもらったようだ。太いニードルのようなものがヤツの腕部の武装から射出され命中していた。所謂相打ちだ。

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