第32話 回り道の先に

 考えて唸っているところでセーフハウスの扉が開く。

「やっと追いついた。メノアのヤツにあったか?」

 そう言いながら入ってきたのはおいて行かれたカレアだ。

「もう大丈夫なのか?」

『一応バイタルも安定してますし、痛みはないと思われます。結論もうフルで動けるってことです』

 ホログラム体で浮かぶナノからカレアの状態を伝えられ、説明が面倒くさそうだったカレアからグッジョブとハンドサインが送られ、ナノもそれを返す。

「ま、そんなとこだ。ティルのヤツ寝やがったな」

 カレアはそう呟きながらティルを見る。何かやらなければいけないことでもあるのだろうかと思ったが多分この前の戦闘による船の補修か何かだと思う。

「そうだ。メノアさんにあったよ」

「そうか、アイツは色々と気にするタイプだからな。変に心配されるのが一番困る」

 カレアもティルもメノアさんの印象はあまり変わらないようだ。

「これからどうするかな。一気に色々なことがあったからこういう別の星でゆっくりするって言っても何するか分からないや」

 戦闘したり、ぶっ倒れたりと戦った先の景色とでもいうのかな。今手元にある安寧がいつもの日常よりもずっと静かで退屈なものに感じてしまっている。

「まぁ、それはいい考えじゃねぇな。さっさと外行って色々みて回ってこい」

「ティル。起きたのか」

 寝ていたはずのティルからそれではダメだと忠告された。

「カレア、じゃあやるか」

「ああ、お互いの補修と機体の強化だな」

 あの戦いでお互いの機体に傷をつけあったみたいだったが、思ったよりも敵につけられた傷も深かったようでかなり機体に負荷がかかっていたらしい。しかし、修理するにもナノマシンが足らなくなってきているという。なので改修を込みで直すらしい。

「ま、オルトも少しずつここに慣れてくれや」

 そうかもな。今は時間がある。いつまでも分からないこの時間を大切に過ごさなければ損するだけだもんな。

「じゃあ、また晩飯で」

「ああ」

 そう言いながら二人は船に戻って行った。

「さてオレも何かするかな」

 この街を守る壁の上にいくでもいいな。外の景色はまた違うのだろうか。思っている以上に楽しみなことが多い。

「もう少し強くならなきゃな」

 シトを倒せたが、結局のところ腹を貫かれて相打ちに持ち越されている。そう、勝てていないのだ。オレ自身にさえ勝てていない。

「そうだ」

 メノアさんに戦い方を教わるのはどうだ?あの人なら戦闘経験も大いにありそうだし、強くなれるようなことを知っているかもしれない。


「無理だ」

「な」

 街を練り歩き、どこにいるかを聞いてまわってやっと辿り着いて、断られた。

「いやなんだ?そもそも私は戦士ではない。たまに決闘ということはするが、本業は狩人だ。強くなる秘訣は知らない」

 それもそうだ。この人は狩人で人間とあまり戦うことがない。だからこそ、断りを入れたのだろう。

「いや、そうだな。稽古をつけてやろう。ただし、基礎だけしか私にも分からん。そこだけはわかってくれよ?」

「ありがとうございます!」

 なんとか取り付けられた。戦闘の経験値は時間だ。今のこの時間をたっぷり強くなるために使うことにするんだ。

「じゃあまず」

 メノアさんがそう言った瞬間目の前から消える。咄嗟にガントレットを展開したが。

「不意打ちの位置を感知できるようにならないとな」

 すでに背後に回られていた。とんでもなく速いと感じた。攻撃されるとわかっていながら攻撃される方向がまるで分からなかった。

 防げなかった代償として首の付け根をつねられる。

「いで、速すぎて分からない……」

「相手をしっかり見ろ。私は視界に外れただけだぞ?」

 この人、カレアと同等かそれ以上に強い。狩人だから強い秘訣を知らない?いや、この人の強さというハードルが高すぎてそれが麻痺しているだけだ。一応対人戦もしてるって言ってたよなこの人。どれだけの戦いを積んだらこうなれるんだ?果てのないものを追いかけてる時点でもう分からないけど。

「次だ。いくぞ」

 そういうと今度は真正面からきた。少し間合いが空いており、まだ攻撃される範囲ではないと思っていたのだが、そうではなかった。いつの間にか間合いが詰められており、正面を見ていたはずが空を視界がとらえていた。

「いだ!なんだ?触られたところはあまり痛くないのに」

 大きく仰け反りながら空を舞い、上半身から落ちる。そう、痛くなかったのだ。殴られたと思ったがそうではない、指先一本でこんな宙に浮かされた。

「力任せでは何もできないぞ。力がだけが全てではない」

 ほんとに強いなこの人。単純な強さもそうだが、自身の身体の使い方を熟知している。

「私に1発でも当てれたら稽古は終わりだ」

 正直当てられるか分からない。だけど、その先にある何かを掴むためには絶対にこの壁を超えなければいけないことは明白なんだ。

「こっちからも行きますよ!」

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