第31話 辺境の惑星
「メノア・ジュラーク=ラスタムだ。メノアでいい。よろしく頼む。随分とティルが世話になっているようだな」
ティルと会話していた時の剣幕はどこへやら、オレたちに喋りかけてくる口調はなんとも優しい口調だ。男勝りな感じで肌が褐色系、眼は紅く、顔の一部は何かの紋章が塗られている。しかも、身長が高い。オレは男の中では標準的な大きさだと思っていたが、それに近いくらいの高さだ。
「どうも、オルト・ゲラリオです」
「トリラ・クレバーです」
「ヴェルです」
相手がしっかりとフルネームを提示してくれたんだしっかりと返そう。ただ、ヴェルだけいつものように名乗った。これがフルなのか?そう考えたがまぁどうせ後々わかるだろ。
「そうか、少しの間だがよろしく頼む。カレアビスのヤツはどうした?」
当然のことではあるがティルと知り合いだということはカレアのことも知っているであろう。そのカレアがいないことをおかしく思うことはおかしくない。
「アイツは今棺桶に浸かってるよ。アイツ珍しく大怪我したんだぜ?」
ティルが面白おかしく語っているが、正直なところあの状態で継戦しながら最後まで戦っていること自体かなりすごいことだと思う。
「あのカレアビスをそこまで追い込むとはな。手合いをしてみたいものだが」
この人もしかして、かなりの戦闘狂かもしれない。
「アイツはやめとけ。死んでも尚動く怪物だ。どうしようもないね」
ティルがいつにも増して苦い顔をしていた。
「まあいい、あとでカレアビスのヤツは合流するんだな。じゃあここを少し案内する。滞在すると聞いているからな」
そう言いながら着いてこいというジェスチャーとともに歩いていく。オレたちもそれに続くように着いていった。
歩いているとわかるが、すれ違う人がファナラスに比べて少ないと感じた。本当にティルの言っていた田舎という意味ではそうなんだと思う。
「わかるか?人は愚か、ろくにインフラが整ってもいない。貨幣は宇宙共通になっているが電気は今も繋がらない部分もあるらしい。この星は本当に田舎と言われればそうだな」
キョロキョロしていたのをみられていたらしく、しかも思っていることを当てられた。
「すいません、珍しかったので」
すかさず頭を下げるが、やめてくれとメノアさんがいう。
「ここの星の発展が遅いのは敵性生物が多いという要因に起因するからだ。昔は基本狩りで生計をしていたくらいだからな。今になってきてやっと街らしい街もできてきたが、畜産できる生物が少ないのと水場に多くの敵性生物がいたりしてな、ここの星の開発はかなり難航しているんだ」
難しい話だな。ファナラスは比較的住みやすく、近くにも大きな都市星があったりしたが、ここは真反対の環境で新しいものの見方ができたと言ってもいいのかもしれない。
「あそこをみてみろ」
メノアさんが指を刺す方向を見てみると、大きな壁が建っているのがわかる。
「ああでもしないとここの街の安全が保障されないんだ。肉食生物や、防衛のために襲ってきたりする生物がここの星にはたくさんいる。たまに壁に登ってこようとする奴もいるな。そういうヤツに限って頭がよくキレる」
本当に別の世界に来たような気分だったが、確かにそういった情勢も見つめなければいけない問題なんだなと思う。
「そこでメシの材料とかが買えるぞ。基本ここの店しか毎日やっていないからな。ここの肉は狩人が仕留めた生物もいるから今度買ってみるといい。因みになんだが、一応私も狩人をやっている。また今度大物を捕まえたら一緒に食べようではないか」
ニコニコとした表情で肉の話をしているのを聞いていて、なんだか無性に食いたくなってきた。本当にこの人はここの土地が好きなんだなとわかるくらいには説明が丁寧で、しかも、面倒見がいい人だ。お姉さんがいたらこんな人がいいのかもしれない。
「最後にあそこがお前たちの滞在場所だ」
滞在場所はすごくいいところだった。しっかりと手が加えられており、綺麗で丁寧な作りをした家だ。しかも家具まで付いている。
「久しぶりにきたが、いいところだなまったく」
ティルがソファーに飛び込みながらいう。
「手入れをしておけと言っていたからな。いつ来るかは分からなかったが、しっかりとしておいてやったぞ」
この人ものすごいいい人だ。口調は男勝りな感じではあるものの、面倒見が良く、義理をしっかりと果たす人なんだ。
「助かるわ。ここのセーフハウス、とっくに壊されてるのかと思ってたかんな」
「そうはしないさ。ここの星に来た大事な人間だ。外部の人間はなかなか来ないからな。少しでも固定客は確保しておきたいのだよ」
辺境の星というものは大変だと思う反面、こんなところに住んでみたいという思いも出てくる。きっとここだと大きな変化はあれど、悪い方向には向かわない気がするし、空気も澄んでいる。遠い星に来たけれど思ったよりもこういうのも悪くないと言った感じだ。
「では、私は戻らせてもらう。今日の晩飯の用意がまだなのでな」
そう言ってメノアさんはこの場を後にした。
「すごい人ね。自分の日常と星や街のこともしっかり気にしていて」
最初の印象と打って変わって、すごい生真面目で面倒見の良い人というイメージにすっかり変わってしまっていた。
「ここに初めて来た時もあんなヤツだったなぁ。お節介ばかりで」
ため息混じりにいうティルの姿はどこか懐かしさを感じているようだ。
「少し寝る。自然に起きるから起こさないでくれ」
まだ疲れが抜けていなかったようで、またすぐに眠ってしまった。
「お疲れ様。ヴェルちゃんちょっと歩こう?」
「いいですね。行きましょう」
トリラとヴェルはそう言ってこの場を後にする。残されたのはオレだけか。
部屋に残されたオレはこの暇な時間をどうするか考える。散歩するでもいいし、カレアの様子をみに行ってもいい。
考えて唸っているところでセーフハウスの扉が開く。
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