EP4 パワーアンドテラー -Power and Terror-

第11話 力の保証

 TenClyに到着し、すぐさま状況確認をする。

「トリラ、ヴェル大丈夫だな?」

「オルト?無事だったのね!」

「ええ、大事ないです」

 近場ではあるが戦闘があった場所からこの場所まで少し距離がある。ここなら一応安全は確保されてはいる。

「他のお二人はどうなさったのですか?」

「そうね、カレア君、ティル君は大丈夫なの?」

 そりゃ心配になるよな。知ってる。オレだって今飛び出して助けに行きたいのを必死に押さえている。

「今、まだ戦ってるよ」

 やるせない気持ちを抑えながら伝える。

「そう」

 空気が重くなりかけていたその時、目の前からぴょこんと出てきた。

『おや?カレアさんたちがいないですね。新顔さんはいるようですけど』

 この船に搭載されている人工思考体の【ナノ】だ。

「うひゃぁ!」

 ヴェルが驚いて尻餅をつく。何もない空間で後ろから突然出てきたので無理もない。

『あちゃー、ビックリさせて申し訳ないです』

 ペコリと一礼すると続けてオレを見つめてくる。

「カレアたちは戦闘中だ」

『そうですか、順調ならいいのですが』

「多分、無理そうだ。相手のレベルが違う、というか次元が違う」

 トリラたちは何も言わなかった。実際彼女たちも悔しいと思う。こんな状況なのに手も足も出ない自分が悔しいのはオレも同じだ。

『ええ、それでもカレアさんや船長は戦い抜きますよ。たとえボロボロになろうとも』

「知ってる。ティル君もカレア君もお人好し過ぎるもの」

 少し表情を柔らかくしたトリラが愚痴るかのようにこぼす。

「私もあの人たちと戦いたいです。でも私にはその力がないのはわかってるつもりです」

 俯く彼女を今の自分と重ねてしまう。

「オレも助けたい。でも敵う相手じゃないのは明らか、か」

 あの時のように戦えれば、あの瞬くような時間に溢れた力があれば戦えるのに。

「あの時…」

「オルト、一緒の考えだと思うけど、もしかしたら違うかもしれないから聞かせてほしいな」

 トリラにもれていた言葉を聞かれていたようだった。

「ああ、「あの時のように同じことができたら」って」

 考えていた部分をトリラが重ねる。

「同じ考えね」

「でもどうやって?確かにあの力があればなんとでもなる筈だが、トリラは力の使い方をまだ把握し切れてないだろ?」

 一か八かの大勝負はトリラの特異な事象に任せっきりなのが悔しいし、焦りも出てくる。それでもその異能力を頼らなければ、あの大きな拳を持ったやつには渡りあえない。そもそもカレア達がかなり押されている時点で異能の強化の恩恵を受けた状態で挑んでいったところで返り討ちにあうことはあるかもしれない。

 それでも、

「それでも試す価値はありでしょ?」

 どこから湧くんだよそんな自信。ただ、その思いはオレも同じなんだ。

「ああ、そうだな」

「お二人とも何の話をしてるのかは分かりかねますけど、策はあるんですね」

 瞼を閉じ、深呼吸をしながら焦った心を落ち着かせる。思いは一つ、強くそれでもと踏み締めるように落ち着いた心に唱える。

「いくよ」

「ああ」

 トリラの合図で互いにパスを繋ぐように、ただ一点の思いを胸に。

「「ここからみんなで助かるんだ」」

 その瞬間、自身の身体に巡りに巡るエネルギーがトリラから繋がれることがわかる。温かく、 柔らかい、それでも力強く、生きる力を繋ぐ力。

 ああ、そうか。やはりこれはトリラから受け繋がる力。儚くも強固な意志の力。

「いってくる」

 トリラは軽く頷き、ヴェルは

「死なないでくださいね」と返してくる。

「もちろんだ」

 外へ出て地面へと踏み込む。トリラからオレに力が繋がるように、パスが体全体を纏っている感覚。急ぐ気持ちが脚の筋肉に置換され地面へ力が渡る瞬間、身体がまるで風船が萎む時の浮き方のように跳んだ。

「うえぇ?!」

 身体が戦いに行くことに緊張していたのか強張っていたようだ。それでも、前よりも力が増していることがわかる。上手く地面を蹴っていればかなりの速度で目的地に行けそうだった。

少しずつ地面に近づいてくに連れ、身体を上手く次の一歩で目的地に瞬時に行ける算段をつけ、次の一歩を自然に着地させる。

「!!」

 ああ、良し!!これならイケる!速度も高度も十分。会敵まですぐ!

 空中に飛び上がり、標的へと一直線に攻撃を当てるために拳を溜める。

「ッラアッ!!」

 右拳を相手の顔面に突き出す。

 襲撃者は守る動作も無く無抵抗で攻撃を受けた。受けると同時に襲撃者は近くにたくさんあった貨物コンテナに吹っ飛ばされる。貨物コンテナに何度かぶつかって失速したのちに最後に宇宙船ポート用コンソールに打ち付けられ止まる。

 意識外からの攻撃と凄まじいスピードで相手の意表をつけたらしく、思った以上にしっかりとした手応えが感じられる。

「イケる!渡りあえる!」

「「オルト!」」

 ボロボロな二人が驚く声が周りに響く。

「間に合ってよかった!二人とも大丈夫か!」

 驚いている二人に近寄っていこうとすると、後ろから瓦礫をどかす奴の動く音が鳴る。

「まだ、動くのかよ」

 土煙とコンソールが壊れた火花と、奴がつけている趣味の悪いマスクから怪しく漏れ揺れ動く光とで不気味だと思うと同時に威圧感から嫌な感情を身体の奥の奥で掻き立てられる。

 ああ、クソ!変に怖がっている自分がいる!嫌な汗も、背中に巣食う悪寒も、全部アイツからくる恐怖なんだ。

「今更なんだよ、怖がって」

 自己嫌悪でぼやく。ファーストコンタクトで強烈な殺気を味わって、蛇に睨まれたカエルが動けなくなるように、精神の奥深くに恐怖が刻まれたらしい。

「だけどよ、この思い、『助けたい』って思いを無駄にはしない!」

 ゆらりと立ち上がる襲撃者へ、一歩ずつ確実に踏み締めて進み出す。少しずつ一歩一歩を加速させ、奴に攻撃を仕掛ける。

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