第10話 勝ち目は悉く
「ティル!?」
襲撃者は俺を狙わずにまず、レンジが不利になるティルを叩きにいっていた。攻撃の反動でかなりの距離を吹っ飛ばされている。追撃をさせないためにすぐに詰め寄り割って入ろうとするが、もう一本の腕からの攻撃が飛んでくる。反応はできたものの、単純な力の勝負で勝てるはずがない。寸前でガードはできたもののティルと同様に吹っ飛ばされる。
「クソ!」
着地時はしっかりと受け身が取れたため、取ると同時に次の一手を取るためにすぐに詰め寄ろうとする。
「大丈夫だぁ!」
吹き飛ばされたティルが手を振りながら上体を起こす。ギリギリのところで回避に成功していたため当たりどころがよかったらしい。ティルの無事を確認し、どうにもならないと感じるような標的に目をむける。
「ッ!!」
その時、詰め寄っていた俺はそこで何処かコイツを不気味だと感じた。奴の顔が見えない。反撃しようとしていた相手の腕をできるだけ重めに弾くが確実にノーダメ。やはり腕以外の部分を叩かないといけないが、そこまでにこちらの攻撃を届かせる手段がない。
完璧に連携した攻撃を全て受け止めて尚、ダメージを負っている様子がない。頭で考え巡っていた負の感情やそんな負けるような思考を放棄するように吠える。
「まだ、ダァァ!」
奴に今できるだけの攻撃を叩き込むんだ。消耗戦では確実に負けるのは目に見えてる。ただ、その先にある勝利を見出す行動をするしかない。
ガードされていない箇所へ一撃、防がれれば二撃目、これも防がれれば三撃目、相手が崩れるまで攻撃を止めない。いや、止められないっていうのが正解か。もう奴が防戦一方なのかもわからない、機会をうかがっているのか?いつ切り返されるのかわからない、決め手はない。止めたら多分殺される。思考をできるだけこの連撃にさくことしか今はできない。一回でも多く攻撃に集中して消耗させなければいけない。
「
ティルからの後方支援の射撃が放たれるが、これも虚しくありえない挙動でビーム弾を防ぐ。その防御の姿勢を逆手にとって利用し、首を狙い相手の拳を踏みつけながら斬りつける。が、見事な海老反り、俺の体勢が大きく崩れる。空中で大きく体勢を崩してしまえば大きな隙が生まれるのは火を見るより明らかだ。
次の瞬間、素晴らしいと思えるくらいに、見たことのない挙動から放たれた左拳からの一撃を喰らった。
一瞬何が起こったかわからなかった。知覚した時には既に痛覚による熱が攻撃をもらった部分から高速で広がっていく。
「ッつあ?!」
鈍い音と勢いを殺しきれずにいたため大きな砂埃を立てて大きく吹き飛ばされる。悪あがきで取ったガードで少しでもダメージを軽減したと思いたいが、そんなこともなく鈍痛が身体を駆け巡るのがわかる。
「カレア!」
「まだ、大丈夫」
吹き飛ばされた時に額を切っていたらしく、血が左目に覆い被さるように垂れてくる。
「クソ!」
「このバケモンどうにもなんねぇぞ!」
「ああ、同感だ!」
強すぎる。一撃で体が悲鳴を上げ、熱を帯びたかと思えば時間が経つにつれて痺れるような痛みを与える相手だ。攻防一体とはこのことをいうのか?いや違うな、あれは狂戦士の類だ。ただ任務をこなすだけの奴隷、知能も碌に回ってないだろう。
よろけながらも自身の上体を起こす。足に力が入らずとも空元気を出すしかない。
「だがな!ここでどうにか奴には退いてもらわないとだな!」
フラフラでも虚勢を張ってでも立ち上がる。
「わあってら」
流石にダメージがダメージだ。戦闘開始から少ししか経ってないのにも関わらず、俺もティルもボロボロだ。襲撃者を退かせることは正直いってキツい。というかあまりにも素のストレングスが段違いすぎる。これだけの力の差だと崩されるのは時間の問題か。
痛みにも慣れてきたのか、それともアドレナリンで消えているのかもわからなくなってきた体の重みを尻目に踏み込もうとした、その時だった。
鈍い音を立てながら正面にいた襲撃者がピンボールのように壁に跳ね返りなが吹っ飛んでいく。
「「!?」」
あまりにも異様だった光景に声にならない驚きが声に漏れた。
視界正面に一撃を放った張本人が映る。それは、
「イケる!渡りあえる!」
オルトだった。
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