第12話 共に
1発目から仕留めるつもりで顔面に合わせて振りかぶる。
「ッ!」
鈍い音と共に、自身の拳から腕にまで電撃のように痛みが走る。あの鋼鉄の腕部で防がれたせいで、手の甲から血が垂れる。
流石にあの金剛のような武装を生の拳で殴るのは自滅行為だった。襲撃者のあの吹っ飛び方ならだいぶ消耗していたと思い込んでいた。この力があれば打ち壊せると思った。完全なる驕りと油断。
ヒリヒリと痛む右手を横目に、身を翻しながら左脚で襲撃者ごとこのでかい鉄塊を蹴り押す。
「タイミングを合わせろ!」
後ろからティルの声が聞こえ、端からカレアが目にも止まらぬスピードで詰め寄っていく。
頷き返し、オレも奴に向かって走り出す。
「ー!」
詰め寄ったカレアから放たれる一閃を右腕一本で防ぐ。だが、カレアの方も負けじと刃を絡ませジリジリと鍔迫り合いのように互いに競り合っている。
「今だ!」
カレアからの合図が降りると同時にティルはニヤリと笑い引き金に指を掛ける。
「
ティルから放たれた閃光は眩しく煌めきを放ちながら襲撃者を捕らえる。狙いは弱点の本体ではなく、カレアと競り合っている右腕を支えている左腕だ。オレが不意に与えた一撃で少しは消耗していたらしく、踏ん張る力が自前の脚では追いつかなくなっていたらしい。
「ここか!」
オレは脚に思いっきり力を入れて踏み込む。
ここで奴に1発でも入れなければ多分このチャンスは訪れない。もう二人は消耗しきっている。奴をオレ一人では撤退まではさせられない。一つの希望があれば何とかやれる。1発入れるだけで状況は反転する、このヤバい状況をぶち壊せるのは、今だけなんだ。
「イッケェェェ!」
狙い通りにティルの放った光弾は奴の左腕に着弾し、花火のように火花を散らしながら左腕が地面から空へ手が離れる。襲撃者はバランスを崩したと同時にカレアも右腕にもう一撃を加え右腕を空へと弾き飛ばす。
好機と言わんばかりにすかさずオレは宙を舞う襲撃者へ内臓を破壊するが如く渾身の一撃を腹部へお見舞いする。
「ァアアアアッ!」
抉るように入った拳を思いっきり振って吹き飛ばす。
襲撃者は悲鳴も上げず、ただ土煙をあげ、殴られた反動でゴロゴロと勢いよく転がっていく。
これで終わってほしいという願望が身体を巡る。
「まだ、気ィ抜くなよ!」
ティルからの警戒と共によろよろと襲撃者が立ち上がった。
「まだやるのか…?」
オレが恐怖と共に驚いていると襲撃者は両腕の武装をパージした。
「!?」
「「伏せろ!」」
ティルとカレアが一緒になってオレを屈ませるために覆いかぶさる。すると、武装が爆発し、大量の煙が噴き出てきた。瞬く間に周囲が濃霧と化し、襲撃者の姿さえ認識することができなくなるほどだった。
「自爆ってわけじゃなさそうだ。ティル、周囲の警戒頼む」
「ああ」
オレを取り囲むように二人が警戒体制を組む。
「まだオレは戦えるぞ」
「いや、もう時間切れのようだ」
「あそこでの対応ができねぇ時点でもうオメェの認識能力の低下、つまりもうトリラの強化の時間は切れてるってことだ」
そういえばそうだ。もうトリラとのパスが切れている感じがする。最後の一撃で能力の時間切れがきていたらしい。今回の戦いではとりわけ受け取る力が強かった。この強い力のおかげでかなり善戦できたが、リスクとして能力の強い力は強化時間を縮めるようだ。
トリラとは離れすぎてもいないし、やはりトリラの扱うEOE能力には時間制限があるようだ。
「すまん」
「なに、お前はよくやったよ。ここくらいはカッコつけさせてくれや」
ティルは警戒しながらも微笑みながらいう。
「お、段々煙が晴れてきたな」
少しずつ煙の濃さが薄れていき、視界が開けてくる。襲撃者がいた場所に目を配ると、そこには爆発した武装の残骸だけが残っていた。
「撤退していったか」
「まあ、ここで撤退してもらわなければ、ワンチャン負けてたし、いいじゃねぇか」
「それもそうか」
二人の全力と、トリラの全力のパスとオレの全力。みんなの全力でギリギリ撤退まで追いやったが、完全な勝利とまではいかないのは目に見えて明らかだ。
「ふは〜〜〜」
張っていた緊張が大きなため息が出ると共に切れる。
「とりあえず帰ろうぜ」
「そうしよう」
「そーだな」
オレから出た大きなため息を合図に三人は船へと歩みを進め始めた。
「「クッソォッガァーー!!」」
船に入るなり二人が膝から崩れ落ち感情を吐き出すように吠える。
この二人はあの怪物を死ぬ気でただ先に行かせず、あそこの場で留めておくだけでは納得などいかなかったのだろう。多分、責任を感じていたのだと思う。オレたちを守るという責務があり、それを純粋に全うする責任。そして、明らかな戦力差による敗北は彼らにとって屈辱的なものであるのだろう。オレはただそれを眺めているだけだった。
ただ一回の敗北、それでも責任があった彼らには重い敗北。
「怪物かよ!あのヤロウ!」
「あの腕なんなんだよ!硬すぎるわ!」
戦った相手の愚痴がポロッと流れ出ると、そのまま大洪水のように二人がやいのやいのと騒ぎ出し、ドボドボと吐き出していく。
『はい!そこまでです』
その大洪水をまるで引き裂くかのように止めたのはナノだった。
『大怪我はしてますし、泥だらけ、応急処置を早急に!キャプテン、「OS-XX」の残弾は?』
「からっきし」
『なら再チャージを。いいですね!』
「「はーい」」
ここの船長はナノだったと思わせられるような統率力。二人はぐちぐちと吐き捨てながらこの場から去っていった。
「助かったよ」
『いえいえ、私はここのサポートATですから』
ホログラム体でも少し照れたようでくるりとその場で一回転をする。
『それより、貴方もです。応急処置にシャワーを忘れないでくださいね?』
「は、はい…」
威圧感がすごい。
幸いにも負傷はあまりしていない。オレが受けたダメージは少し擦った程度の軽傷。
ただ、疲労感がとんでもない。今まで味わったことのない疲労感が身体を制圧している。
足を引き摺りながら談話室へ歩みを進めた。
「オルト!」
長い廊下をずるずると歩いているとトリラが駆け寄ってきた。
「大丈夫?なわけないよね!お疲れ様!怪我とかしてないよね?いや、戦ってきたのだもの怪我くらいは…」
うお、トリラからの心配の圧が…。
「ああ、怪我はあの二人ほどではないさ」
「そう…、よかった」
そっと胸を撫で下ろすトリラを横目に少しカレアとティルのことを考えていた。
あの二人は一体どれほどの戦闘経験を積んだのだろうか。どこまで行けばトリラの力なしで横に並んでいられるのだろうか。
「まぁ、最初から続いてでも上出来だったかもな」
少し落胆しながら誰にも聞こえない程度に声に出す。
「送り出した身で勝手で悪いかもだけど、あまり無茶しちゃダメよ。これはオルトに限ったことじゃないけどね」
落ち込んでいたのが顔にでていたみたいでトリラが気を遣って励ましの言葉をオレに投げかける。
「そうだな。あいつらにもいっとかないとな」
「そうね。あの人達が一番無茶するからね」
二人で微笑みながらカレア達がいるエリアへと歩みを進めた。
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