第13話 生きる実感

「腕取れる!いや、取れてるって!」

「少し、我慢してください!」

「足動かねぇ、おいカレア〜、おれの足ついてるか?」

『冗談は治ってからにしてくださいね』

 一応医務室だと思われるエリアに着くと怪我人が我儘やらなんやらで騒ぎまくっている。

「調子は悪そうだな」

「「見ればわかるだろ」」

 二人揃って元気だな。でも、身体的なものは満身創痍という感じだ。二人揃って浴槽のような治療用ポッドの中に沈められている。さっきまでよく歩けていたと思えるほど今の状態は良くないと一目でわかる。

 治療用ポッドの近くにあるモニターを覗くと二人の状態が記録されていた。二人とも筋肉の裂傷、どこかしらの骨折、内臓のダメージ、肉離れや切り傷など、二人によってまちまちだが基本的な怪我の具合は一緒のようだった。

「これは…、その…」

「予想以上だね」

 トリラと共にモニターの前で固まる。

「久しぶりだよ。こういうの」

 ぶくぶくと音を立てながらカレアがうめく。

「あんま声出さなくていいぞ。安静にしてな」

 再会した時ではほとんど圧勝に近い形で勝負を終えていたので、ここまでひどいとなると、やはりあの仮面のヤロウは一味も二味も違うように思える。

「声出すのでも響くぜ」

「そりゃ、オマエ肋骨逝ったもんな!」

 安静にしろと言ったのに、言った側からケラケラと笑い出すなよ!

「そんなに騒ぐのなら麻酔流しますよ?」

 すごい剣幕で二人をピタリと止める冷たい声がこの場を制圧する。

「あ、ハイ。大人しくします」

「すんませーん」

 せっせと応急処置などを頑張っていたヴェルが冷たい笑みで二人を睨む。

『ヴェルさんすごいですね』

 ホログラムでふわふわ漂うナノもこの空気に慣れていたせいか少し驚いているようにみえる。

「安静にしていないと治るものも治りませんよ!」

 この場はヴェルに任せよう。そうトリラにアイコンタクトで伝えると応答する様にくるりとその場を後にした。



 治療用ポッドに二人が沈められてから数時間ほどが経過していた。船は惑星ダグナスの衛星軌道上をくるくると回っている状態で、今いる談話室のようなエリアの窓辺で二人一緒になって窓にひっついていた。周りには大きなフリゲート艦や中くらいの貨物船など色とりどりのスターシップがあらゆるところに浮かんでいる。その光景はオレらにとっては新鮮なもので、本来ならばファナラスから出るはずがなく、井の中の蛙だったオレたちは時間すら忘れてその光景をずっと静かに傍観していた。

「あの船一隻一隻に人が乗ってて、それで、私たちがまだ知らない星からもきているのかな」

 トリラがポツリと呟く。

 そう、オレらにとってはここに見える景色が全てではないと分かっていても、広い宇宙の中ではここの景色が全てに思えるような、そんな栄え方をしていた。オレらの故郷の星はそこまで田舎でもなければめちゃくちゃに栄えてもいない。ここまで人が往来する光景を知らなかったんだ。

「本当に、果てしないな」

 オレたちがこの壮大な景色で色々な感情に浸っていると、

「完全復活だ!」

 静寂を切り裂く雷鳴の様にティルが叫ぶ。

『完全とは程遠いのですけどね。比較的安静でお願いしますよ?キャプテン』

 不安しかない。と、考えていた矢先、カレアとヴェルの姿が見えないのに気づいた。

「あれ?カレアとヴェルは?」

「ああ、それなら問題ないぜ?ちょっとした訓練みたいなもんだよ」

 さすがにカレア相手の訓練はヴェルでは相当きつそうなのであるが、それはそれとしてという考えを持とう。

「んで、オルト、オマエにはこっちに付き合ってもらうぜ?」

「ああ、いいけど何するんだよ」

 多分ヴェルと同じ道を辿るのかな。オレもポッドいきになるのかな。

「ナノ!TenCryは今からファナラスへ向かう!ただDLOは使わずにだ!」

『了解しました!』

 ファナラスに帰るのか?それはそれでなんか変な感じなんだけど。

「帰るの?ファナラスに?」

 トリラもいきなりの進路決めで困惑している。無理もない、オレだって困惑している。

「あの姉弟の言葉を真に受けるならあそこにヒントがあるはずなんだ。なくても、ま、それでよかったって言えるようになるためにな」

 そういえばそんな話あったな。あの情報屋がいうことを真に受けるならファナラスにEOEに関する研究所がある。トリラが狙われる理由もわかるかもしれない。

「分かった。たださ、なんでDLOを使わないんだ?」

「今回はちとこちらの時間がかかるってことだからよ、DLOだと早く着いちまう」

「そういうことね」

 ちょっとした疑問が解決したので、ティルが付き合ってほしいというエリアまで一緒に歩き出す。

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