EP5 アームズゲイン -Arms Gain-

第14話 これからは

「ヴェル、準備はいいか?」

 ごくりと喉が音を立てる。

「はい」

 緊張したヴェルの顔を見てこちらも内心ハラハラだ。

「行きます!」

 自分の掛け声と共に銃声が数回感覚を空け鳴り響く。少し経つと銃口から立ち込める硝煙とその匂いが静けさと共に匂いがきた。

「ふぅ、どうでしょうか?」

 にこやかに聞いてくるヴェルに顔を引きつらせながら答える。

「せめて自分の身は守りたいと相談してきたから拳銃を握らせてみたが、撃った弾が全弾外れてる。どうして…!」

 見事に一つのデコイの数ミリを沿って外れている。どうしたらそんな外れ方するんだ!撃った場所から大体5メートルくらいの間隔にデコイが置いてある。このくらいなら外すことも少ないはずなんだけどなぁ。初めて撃ったからといっても5発撃ったら1発はどこかしらの部分に当たるはずだし、構え方からしっかり入ったんだけどなぁ。

「実弾だから反動の問題かなぁ?」

 この船に来てからというもの、家事はもちろん俺たちの医療の処置もしていたから器用でなんでもできると思っていた。

「あはは、これアタシに向いてませんね」

 近くにあった机にコトっと音を鳴らしながら拳銃を置く。

「そんなこともないと思うよ、結局は経験値的な問題だからな」

「やっぱりカレアビスさんはかなりの時間、剣を振るっていたのですね?」

 戻った後、また改めて正式に自己紹介したが、その呼ばれ方は予想外だった。普段はカレアとしか呼ばれていないからか、しっかり名前を呼んでくるとこそばゆい。

「カレアでいいぞ。みんなそう呼ぶから」

「これからまたそう呼ばせていただきますね」

「あんまし畏まらないでほしいけど、まあいいや。今は剣のことだっけ。剣は幼少期から握ってるんだ。母親が俺と同じセイルの使用者でね。小さい頃から教わってきたんだ」

「だからなんですね。変な人に絡まれてしまった時や襲撃された時にあまりみたことのない剣で敵の攻撃を受け止めていたので、あの身のこなし方だとやはり経験を積まれてるんだなぁと」

「そうだな、ある意味これしか握れない。銃器での戦闘はティルの方が上手いし、経験なんてないようなもんだよ。だからかな、戦闘は経験なんだと思えるのは」

 この剣は武器でもあり、自身を表す象徴でもある。このコスモスはこの運び屋仕事の前から長い間持ち合わせているため、ほとんど体の一部といってもいい。そして、ティルもあの銃はこの剣と同じくらいの時間を費やしている。

「あの時、アタシにもできることがあるなら、あの場に残りたかったんです。でもその力はアタシにはなくって、でも、あそこの場で戦うという選択肢があれば」

「悔しいのはわかるよ。あの場から離れるのも一つの勇気だ」

「そう言ってもらえると助かります」

「無理すんなと言いたいところだが」

「練習あるのみですかね?」

「そうだな。弾薬は死ぬほど余ってるし、撃てる時に撃って命中率を上げてくしかないな」

 背中をポンと叩き励ます。

「じゃあ、続きやるぞ」

「わ、分かりました」

 さっき机に置いた拳銃をまた手にし、強張った表情でまた構える。



「オルト、コイツをつけてみな」

 多分ここの工房だと思われるエリアで待つこと数分、金属が擦れ合う音を騒がしく奏でながら運ばれてきたカートを押してティルが渡してくるものに驚く。

「これ!籠手か!?」

 これでどうしろと。という考えを見透かしてニヤリとする。

「そんなもんじゃないぜ?」

 籠手を片手に装備してみせ、機能を解説し始める。

「この籠手はただの籠手じゃない。まぁ要するにパンチンググローブみたいなもんだな。これを装備して殴ると衝撃波が出る。ただの衝撃波じゃないぜ、弱弱パンチが手榴弾の爆風並の威力に早変わり。しかも内臓リアクターによってほぼ無限に稼働できる。さすがに使いすぎるとオーバーヒートするがな」

 なんて機能をつけてやがる。いや、ありがたいのはこの上ないんだけど。

もう一方の籠手もといパンチンググローブを手に取り装備してみる。

「防御面でも一級品だぜ?銃弾でもへこみもしない」

 手につけた感覚は本当にわからないくらいフィットしている。重いという感じもあまりしない。

「おお、感じましたお客さん。装甲には超硬質でも重くない素材を選んでるんですよぉ。しかもですねお客さん、手にフィットしやすいようにナノテクを使ってるんですよ」

 そんな悪徳業者みたいな言い方しなくても。

「こうしてみるとあの仮面ヤロウの武装はホントにバケモノクラスってことなんだよな」

 籠手を装備した状態で手を握ったり開いたりを繰り返して襲ってきたヤツのことを考える。力というものでねじ伏せられ、ねじ伏せ返した後、真っ先に死にたくないと考えた。死にたくないから戦った。多分それはいいと思う。死んだら元も子もないって、トリラのこと守れないって心の底で思ってるから。じゃあ、あいつは何の為に襲ってきたんだ?もしオレがヤツに殺されてもあいつにはメリットがない。

「落ち込まない!負けてないんだから、また今度きたなら追い返してやりましょ!」

 俯き感情が顔に出ていたのかトリラが背中を2回叩いて励ましてくる。

「ありがとう」

「どういたしまして」

 拳を硬く握りしめる。迷ってても仕方ないんだ、動悸は自ずと分かってくる。今は渡された戦う力に向き合うだけだ。

「これでトリラの力がなくても戦えるな」

「ああ、そうだな。ありがとうティル。でもさ、いつの間にこんなの作ったんだ?」

 当然の疑問だ。だって、いつの間にか作られているんだ。不思議に思わないわけない。ティルが籠手を外しながら答え始める。

「治療用ポッドに沈められてる時に思いついたから、その場で設計してデータこっちに送って、沈められてる時間に完成って感じよ」

「すごいな、普通に感心してるわ。じゃあさ、さっき戦ってる時に使ってたレーザー銃もティルが作ったってことになるよな」

「これのことか?」

 懐から例の拳銃のような形のレーザー銃を取り出す。

「コイツは『OS-XX』、レーザーというよりはビーム兵器だな。レーザーとビームの違いはめんどくさいから省くけど、この宇宙で人が撃てるビーム兵器はコイツくらいだな」

「基本撃てるのは何らかの車両だけだもんな。一度見た時目を疑ったよ」

「だろぉ?」

 戦場を一閃する光弾は人を傷つけるとは思えなく目を奪われるほど綺麗なものだった。だが、その光弾は人を一撃で焼き切るには簡単なほど威力がある。だからか、このオーバーパワーウェポンの引き金を人前でその真価を発揮することは滅多にないんだろう。

「ま、これでお前もその程度の兵装を武装する仲間だぜ?」

 ティルがヘラヘラ笑いながら籠手の縁の部分のボタンを押し、さっきまであった籠手がバングルの形状にする。

「うぇ!?これそんなこともできるのかよ!」

 さすがにコンパクトになった籠手に驚愕せざるを得ない。

「ナノテク使ってんだ忘れんなよ?」

 バングル状になった籠手を投げ渡してくる。見ようみまねでオレが着けていた籠手を収納してみる。バングル状に収納された籠手を見て不思議な気分に陥ってしまう。

「これすごいね」

 さっきまでウロウロしていたトリラが戻ってきて籠手をまじまじと見つめる。

「ナノテクとか収納とかで思い出したけどカレア君の剣も同じ感じなの?」

 それはオレも考えていた。柄の部分から光る刃が出る様はナノテクを使っていてもおかしくはない。

「いや、あれは別もんだ。確か光ってる部分は実際質量のある物質ではあるんだが、ナノテクよりも原始的なもんらしい。柄に収まってる鉱物が使用者のイメージをくみ取り、形を変形し形成されるんだとよ」

「まるで魔法みたい」

「実際そういうもんだ。行き過ぎた科学は魔法にしか見えん。そもそも宇宙の定義もふわふわしてるもんだ。その不思議の一部だよあれは。トリラもその一部だってこと分かってるよな?」

「そういえばそうかもね。他人事じゃないわ」

 考えれば不思議なことなんていくつもあることに気づいた。実際今のトリラも不思議状態で今まさに真相に迫ろうとしているところなのだ。

「この世には科学的に証明される魔術があるんだが、トリラの能力はマジで魔法だよ」

「難しいことばっかで困るな…ぇ」

 ここで足に急に力がなくなる感覚がして自分の体が崩れ落ちていくのを視界が捉えていた。あれ、おかしいな。頭がボーッとする。感覚はあるんだけど、頭まわんない。

 ティルとトリラが慌てた表情で駆け寄るのが見える。あ、やば。これはまた。

 そこからまた気絶していることを知るまで少し時間がかかったという。

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