第15話 力の代償

「重症だなこりゃ」

 急に気絶したという知らせを受け、オルトの元へ駆けつけに来たんだが。

「おもろいことになってんな」

「ふざけたこと抜かしてねぇで手伝え!」

 おっと思った言葉が声に出てしまっていたか。だって、力が抜けてだるんだるんで変な体制になって浮いて漂っているオルトとそれを必死に運ぼうとしてる図がどうにも面白くて。

「あいよ」

 ちょうど合流したブロックが無重力エリアだったのが不幸中の幸いなのか、またおぶらなくても済むようだ。

「そっちの腕持ってくれや」

「この向きの方がいいだろ」

 試行錯誤を繰り返し、組体操のように二人で担ぎ上げるような体制になった。

「これはなんかなぁ」

「わかるが言ってはいけない」

 これはそうあれだ、側から見られると恥ずかしいやつだ。ふと、その見て見られてという考えで思い出した。

「トリラはどこに行ったんだよ」

 さすがにオルトがぶっ倒れたら絶対に離れないくらいにはピッタリとくっついていると思ったんだけど。

「ああ、トリラはLeollionレオリオンのハンガーにいるわ。ちょっと落ち着きたいんだと」

「おおなぜまたそこに」

「そこは本人に聞いてくれ。おれは女に探り入れる趣味はねえんだわ」

「遠回しに人の趣味を勝手に書き換えるな」

 まあ、それこそ彼女なりの考えによる行動なんだ。変に聞くのは悪いよな。

「オメェの方こそヴェルはどうしたんだよ」

「まだ訓練してるよ」

 ヴェルは真面目だ。一報を聞いてオルトの元に駆けつけに行く前にキリもいいから中止にしようと思っていたのだが、彼女はまだやると言ってその場に留まった。彼女にとってあの訓練が俺たちの繋がりみたいに思ってるのかな。

「おら、そろそろだぞ」

 医療ベースのセクターまではあっという間に着き、いそいそとドアを開け、オルトを棺桶に投入する。

「目立った外傷は特にないから、テキトーに検査でもするか」

「そうだな」

 備え付けのディスプレイで検査を開始させる。外傷は特にないのなら内臓の損傷も考えられるため、スキャナーにかけてみないことにはってね。

「たく、お騒がせな奴だよ」

「目の前にいたんだっけな。そりゃあ気が気じゃないわな」

「んとだわ」

 緊急で回線繋いでくるくらいには慌ててたからな。少しコイツも落ち着ける時間があるといいけど、現状そうは言っていられない。今はまだ近くに帝国の奴らがいないのが幸いなのだが、これから行くファナラスには駐留している奴らがいる。数はわからんが、本来あの星系に帝国がいることはないと思っていたんだけど、裏でとんでもないことが絡んでる可能性もある。

 あー、てか俺も十分焦ってるなこれ。思考が分散する。

「またお前、変に考えんな」

「バレてたか」

「当たり前だわ。その都度で考えろ、どうせファナラスについてから考えればいい。今はオルトのことに集中しろ」

 ごもっともな意見だ。変に考えすぎるのは自覚しているし悪い癖なのはわかってる。けど、もしかしたらとか、悪くならないようにしなかきゃとか考えてしまう。ティルが言うようにその都度考えるということができれば確実にもっと強くなれる。

「戦略と戦術は必ず不安要素が出るが、今頭ん中で未来見たって実際戦ってるわけじゃねぇ。だから今考えてもしゃあねぇことだろ?」

「ああ、それもそうだ。考えたって今できることじゃない」

「そうだぞ」

 ティルは考える行動をあまり取りたくないらしい。考える時は色々なエネルギーを使うから今起こったことに全力で挑むのがティルの主義なのだ。

「サンキュな」

 ティルに聞こえるか聞こえないかの程度に思っていた言葉が漏れる。と、タイミングがいいのか悪いのか、オルトの身体検査の終わりを告げる音が鳴る。

「やけに時間がかかったな。んあ?」

「そうだな、こんなかかるのは死ぬほどの傷を受けた時じゃないか?」

 それだったらすごい困るな。恐る恐る備え付けのディスプレイへタッチし、画面を検査の結果に進めてみる。

「何じゃこりゃ」

「うえ?」

 そこに記載されていた検査結果の内容は『エラー』。そんなハズはない。この技術の発達した時代にナノという思考体で色々なバグなどをカバーしているんだ。エラーなんて旧時代になくなってるようなもんだぞ。

「エラーの原因は?」

『それがですね、困ったことにオルトさんを構成する物質全てが絶妙にズレているんです』

 ひょこっと現れたナノがオルトの現状とエラーをかいつまんで話していく。

「ズレてるって?」

『そもそもなんですけど、今回オルトさんがこうなった状況についてはEOEの同調率が誘因してきます。これはオルトさん内部が異様に老いているということがある程度分かったけど結論が出せないままでいるという仮結果です』

「どういう?内臓がおじいちゃんになったってこと?」

『近いですね。少し付け足すとしたら、内部がそのまま時間が急速に経ったということが可能性としてあがります。仮定、の話ですけど』

 仮定?仮とかズレいう単語がさっきから出てくるがそこが異様に引っかかる。

『そしてこのオルトさんの状態の話がまだ仮定たらしめているのが、最初に挙げていた物質がズレているということがつながります。正直どうしたらこうなるかは分かりませんが、このズレによって検査の処理がオーバーフローを起こしエラーが出たのだと思います』

「ズレっつたけどよ。何がズレているんだ?」

『疑問としてはそこですよね』

 ナノが何やら深く悩むようにくるくると回転する。

『船長もカレアさんもその他大勢の生命体は色々な細胞や物質でできていますよね。でも、オルトさんの場合、近い謎の物質で構成されてるんです。タンパク質なのに、なんか違う?みたいに。それこそ別の世界から来たように』

「難しいな」

「コイツはまたどういう」

 ひと通り現状を聞いたのだがやっぱり変な感じだ。

「仮の話だけどオルトが別の世界からねぇ」

 コイツもコイツでよくわからん属性が持っていることが判明したが、トリラの言っていたズレっていうのはこの問題かもな。ズレって、そもそも世界が違うかもだろ、そうなると全然違うよなぁ。

「オルトは治るのか?」

『理論的には可能ですね。この世界で治療効果のあるものは効果が落ちるものの効くと思います』

「曖昧だが効くならいいんじゃねぇか」

「実際今まで違和感はあったと思うけど過ごしてきたんだからいけるな」

 ここでの理論上可能は大体大丈夫だから別に気にすんなという意味だ。正直こんなんでいいのかっていう作戦も大体こんなノリで状況を覆してきたからか、もはやこんなことでうんともすんとも言わないくらいには慣れてしまった。ツッコミ不在の恐怖ってあるんだなぁ。

「まぁ、少しは安静だな」

「あとは頼むぜナノ!」

 効くって確信すれば各々のやることへ向かうのが俺たちのスタンスだ。

『ええ、お任せくださいな』

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