第5話 貿易都市星ダグナスにて
「着いたぞ~」
もう着いたのか。もう少し掛かるかと思ったけど意外と一瞬だったな。
「これがワープの感覚…」
トリラも初めての感覚にワクワクしていた。
「厳密にはワープとはまた違うんだぜ」
「それ以上話すと止まんなくなるからそこでよしとけよ、ティル」
「んだとぉ?」
「んだぁ?」
急に喧嘩を始めるなよ。
「そ、ん、な、ことより!」
「これからどうするの?」
トリラの遮りにより、少し2人が唸った後問題点を提示する。
「とりあえずは手分けして色んな奴に聞いて周りたいが…」
「ただ、トリラがまた連れて行かれない保証もない」
できるだけ早く情報を集めるには手分けして情報を収集するのが最も効率的だ。だが、またトリラを連れて行かれそうになるのは些か骨が折れる。
「ここで留守番してようか?」
「「って言うわけにもいかないんだよなぁ」」
トリラの留守番は却下らしい。
「どうして?」
却下された理由をトリラが聞くと、それをティルが答える。
「それがねぇ。うちの船っておれらがいなくて誰かがいるとアラームが鳴っちゃうんだわ」
なんとまあ用意周到なことで。ちゃんとした警備システムがこうも噛み合わないとは。
「まあそう言うことだし、みんなで固まって行こうか。観光がてら情報集めって感じで」
そんな感じで固まって動くことになった。
貿易中継星ダグナスの首都グラバラを観光しながら色々な人に情報を持ってそうな人がいないか聞き回っていた。
ここの星は貿易の集結地点であり、町中のありとあらゆる場所に色とりどりの企業の広告があり、見事なまでに活気に溢れている。宇宙船停泊所から少し歩いてみて圧倒されている自分がいたが、カレアとティルは慣れているようでスタスタと先に歩いて行っていた。
「と言ったもののどこが一番情報が集まりやすいかなんだよな」
ティルが唸りつつどう行動するか思考を巡らせている。
「
カレアが行く場所を提案するがティルはまだ唸る。
「あそこねぇ?いいけどねぇ?治安悪いじゃん?」
治安悪いのか。まあ、酒飲み場だし仕方がないかも。
「迷ってても仕方ないし、行ってみる価値はあるかもよ?」
「まぁ行ってみようか」
あまりいい印象は持てなかったがトリラが賛成しているみたいだしオレも賛成する。
「それにしても賑わってるよな。ここ」
貿易が盛んだとは聞いたけど人も賑わっていてファナラスとはまた違う雰囲気に少し驚く。ここは都市らしいから人の流れは凄まじいものだ。ファナラスでもネオ・ネクサスはかなり発展していて星間同盟の中でも5本指には入る都市だが、ここも引けをとらないくらい発展している。街の空は物流を円滑に進めるレールで敷き詰められ、都市の中央にはここからでも見える大きな建物へ物流のレールが集まっている。
「そりゃ、ここはここら辺の星系の物流が一度に集まってるからな。なんならこの星にいりゃぁ周辺遠方含めて沢山の星の物品や店やらが並んでるぜ」
ここは昔、工業系を主に営んで生計を立てていたらしい。ただ、ここの物流管理が思ったより高品質であったため、ここの星にある今や大企業の一人が物流を主にしたらどうだということで少しずつ星から星に貿易網が張り巡らされ、物流を円滑にするための工程を幾らか踏んで今のように栄えているらしい。
「そろそろ着くぞ」
カレアが指さした方を見るとなんともまぁやばそうな連中が屯してるって感じの建物だった。
「安心しろ。話の分からないヤツはいないはずだ」
そんなこと言われてもな?ティル。こんなとこ入るのは流石に抵抗があるってもんなんだよ。扉が開くとそこには賑やかにどんちゃん騒ぎをしている酒呑みたちがたくさんいた。
「ここの地下に居る奴らに用があるから、あんま飲んだくれに絡まれんなよ」
カレアからの忠告で少し緊張する。
「この人たちに絡まれるとどうなるの?」
「スンゲェ面倒臭い感じになる。だからあんま離れんな」
「まぁ、もし絡まれてもティルとオレでなんとかするよ」
こういうところに入り慣れている彼ら二人が近くにいると本当に心強い。スルスルと飲み場の人間を避けて進む二人をトリラと共についていく。多種多様なヒューマノイドが集まり、楽しげに話し合い、そんな日常がここでは紡がれているのだろう。そんな考えを持ちながら地下室への階段を降りる。
「ここからは奴ら情報屋の領域だから、まぁ変に絡まれることはないさ。それより、楽しそうだなお前ら」
カレアがはにかみながらそう告げる。
「そうね。あまり自分達が住んでいた惑星圏から出るっていうことがなかったものね?」
「ああ、オレらの惑星あまり他の惑星から来たっていう人も長くこういう感じで滞在する人もいなかったからかな、物珍しかったのバレてたか」
カレアは人の心情の変化に敏感だ。多分そういった感情が顔に出てしまい、他の人間から不審な目で見られないように工夫したルートでここまできていたのだと思う。
「カレア君いろいろありがとう」
「気にすんな」
彼らなりの気遣いなのだと思う。オレらが初めての場所で、場所も場所だからかなり考えての行動なのだと感じる。
「経験不足なのかな」
ぽつりと呟いてしまうくらい彼らとの経験差を感じる。
「最初はそんなもんだぜ?おれらはよく来る場所だから楽にことが運んだってだけだ」
「気遣い感謝するよティル」
「そろそろ着くぞ」
カレアがそういうと階段の終わりがみえ、何やら怪しい扉が少し先に聳えている。
「さ、行くぞテメェら、変に弱さを見せるのはここまでだ。ここからは取引だぞ!」
「ああ、分かってるティル。精々いつものように気張れよ」
「カレア、お前もな!」
二人が仕事モードに切り替わったのがわかる気迫だ。とそんな空気をぶち壊すかのように扉が開き、一人の女性が出てくる。
「外でうるさいよ君達!」
地下室にこだまする大きな声で一瞬怯む自分がいる。情けないなと感じつつ扉の先からもう一人でてくる。
「姉さんも充分うるさいよ」
「アタシは元から声がデカイっての。って、君達ティルにカレアじゃんか。後ろの子たちは新顔かな?」
「久しぶりだな
ティルたちは知り合いのようで、この姉弟を今回頼る人間だと彼らは確信したのだろう。
「こいつらは順にオルト、トリラ」
「「はじめまして」」
「初めまして、アタシはさっきもティルから出た名のように紺野史那っていうわ。そこのひょろいくて喋らないのがアタシの弟の紀伊斗よ。一応情報屋としてやってるわ」
「どうも」
ティルとカレアが変に気合い入れていたからか、中からこんなフレンドリーな人間に対して少し拍子抜けしてしまった。
「なんか気まずそうだから話を早めに振っとくか」
「そうね、中に入って頂戴。おもてなしは出来ないけどね」
「いえいえ、お構いなく」
中へ誘われるとそこは薄暗く、コンピューターの光がよくわかる部屋というわけでもなく、ただそこには取引する用の机とソファのみが存在するシンプルな部屋だった。
「じゃ、ここにきた訳を聞いてみてもいい?」
そこからはティルが重要な点をかいつまんで話していた。
「EOE狩りの被害にあったのね貴方」
「ええ、まあ、その、はい…。」
「そんでな、そのEOEについて情報を頼むよ」
「EOEね、かなり気密な情報が多いの。報酬は高くつくわ」
「そのつもりだよ」
そこからはかなりオレとトリラにとっては少々重い話だった。EOE能力というのは全てのものを強化できる異能力らしい。生物もそれ以外でさえ例外なく強化ができる能力は後天的に授かるらしく、能力には軽度、中度、重度とレベルがあるらしい。そしてこの能力を軍事利用しようと企むのが、あそこで襲ってきた奴らが所属する帝国の連中だという。そうしてそのまま発展していったのがEOE能力者狩りらしい。そいつらに捕獲された能力者は人体実験や兵器化の非人道的な行為が帝国内で横行しているらしい。
「ふむ、それでトリラが狙われていると」
「ティル、コイツは商売どころの騒ぎじゃないな。トリラをどうにか匿う場所を探さなくちゃだ」
「落ち着けカレア。トリラは渡さんとしてもオルトの身もかなりまずい状況だぞ」
オレの身も案じてくれているのは嬉しいが、少し二人は少し落ち着いた方がいいと踏み、
「とりあえず、カレア、ティルは落ち着け、というか外で一回空気吸ってこい。トリラだけじゃなくオレのことも心配するのはいいが、こちらも状況整理が難しいんだ」
と少し強めに告げた。
「わーってるよ。なぁカレア?」
「ああ、だが、こういった話に友人が巻き込まれるとなると話が別だ」
「ティル君もカレア君も変にお節介なのは昔からだね」
本当だよ。と首が自然に頷いてしまう。
「アタシ腹へったからカレアとティルは買い出し行ってきなよ。外出るんでしょ?」
「僕アイス」
「私お茶にしようかな」
「オレは簡単に食える物とジュース」
問答無用。頭冷やしてこいや。
「コイツらちょっとは危機感持てや」
「ティル、ほら行くぞ。考えるときは歩くに限る」
あっと史那さんがいうと二人に近寄り紙切れを渡す。
「これ買う物リストね。んじゃお願い!少しお駄賃は軽くするからさ」
「へーい」「はぁーい」
この二人お人好しのくせに面倒な性格してんな
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