第41話 その先で待っている。

「ーーーーーーーーーーーー!!」

 グゥゥゥ!重いしうるさい!

 またヴェルは大きな叫び声を上げる。かなりヴェルに近い位置にいるためもろに音がくる。そろそろ鼓膜が破れそうだ。耳につけているデバイスも故障してしまってノイズが走り始める。不幸中の幸いと言えるのがこの叫び声をあげているときはヴェルは行動できないということ。

「ティル!上だ!」

 ティルにそう指示すると、ティルは意図をしっかり読み取った上でヴェルの頭上の天井に何発か撃ち込む。すると、天井が崩落しヴェルへと落ちていく。それが効果あったのか崩落を察知したヴェルは叫ぶのをやめ、崩落してくる瓦礫に狙いをつけ目にも止まらぬ速さで瓦礫を斬撃で破壊する。

「これをだな!」

 あたりに破壊された瓦礫から生じる埃によって視界が悪くなる。これを死角にしてまたヴェルへ攻撃を放ちにいく。

「八式・蒼竜」

 攻撃を放った刃は流れるような軌道でヴェルへと吸い込まれていく。俺が視界に入ったからか、咄嗟に防御の体勢を取ったがそれすらこの技は超えていく。ヴェルも何かを悟り躱す体勢に入るが動いた瞬間に刃がしっかりとはいった。

「ーーッ!」

 届いた。これまでの浅い一撃とは違うちゃんとしたダメージになった攻撃。なぜ入った?さっきとの違いは?どこで状況が変わった?そうか、叫ぶと鈍くなるのか。あの全方位をカバーする音圧攻撃ならばエネルギー消費が激しいのだろう。しかも、ヴェルと因子は一見相性が良さそうに見えるがクラウンのヤツは次元の獣といった、ならこの次元の人間ではエネルギーの効率が悪いということだろう。

「いいぞカレア!」

 ヴェルは攻撃が入りすぐに抵抗をするために切り返してくるが、今はそう簡単に俺に刃が届くとは思わないでほしい。攻撃を避けがてら必要だと思い間合いをとる。

「ティル!今からヴェルを怒らせる!あの叫び声の先が弱点だ!」

「その先?いや、わあったよ。援護してやる」

 ここからヴェルの猛攻が始まった。先程よりも増して剣圧が飛んでくる。体感三倍くらいの量が俺とティルを殺すために畳み掛けてくる。

「ッブネェ!」

 俺もティルもこの剣圧を捌くのに必死になっていた。さっきとは攻撃の量が明らかに増えており、弾幕が濃くなっている。攻撃する隙が見当たらないくらいには攻撃の隙間の間隔が足りない。

「これは予想以上だ」

 舐めてかかっていたわけではないがここまでとは思えないくらいにはやはり強い。格上すぎて限界の蓋を3回くらい開けないと勝てないかもしれない。そう思いながらヴェルから放たれた剣圧を捌く。ティルもビーム弾で相殺して防いではいるがかなりきつそうである。何せ壁や柱に隠れようとしても剣圧がそれさえ斬りながら向かってくるためずっと走っている。

「そろそろ仕掛けないともたないぞ」

 結局のところどれだけ攻撃を当てて喜んだって消耗率はいまだにこちらの方が上なんだ。どうにかヴェルに叫び声をあげてもらわないことにはこちらが先に死ぬ。

「九式・疾切シッセツ

 ヴェルへと攻撃を仕掛ける。向かう途中で何回か剣圧をもらったが、避けたりコスモスで弾いたりしてノーダメで間合いを詰めた。一撃目はこの移動している勢いを保ちながら切り抜けようとするが、簡単に避けられてしまう。

 まぁこれは直線的すぎるから避けられても仕方ないけど、まだまだこれからなんだよ!

 すぐにターンをし、お得意の瞬発力で勢いそのままの二撃目を繰り出す。これは太刀で防がれるが、そのまま三撃目、防がれれば四撃目と高速で切り抜ける蓮撃を放つ。これが九式・風切の連撃だ。

「ウアアアアア!」

 正直言ってこれはかなり諸刃の剣ではある。手数を無理やり増やしてスピードでの対応と相手への牽制、攻撃の二つを噛んでいるが、それゆえにスタミナがごっそり持っていかれる。

「ー!」

 何かに気付いたのかヴェルは間合いを取ろうとするがもう遅い。弱体化し始めている状態を逃すわけないだろ。

100%砲撃フル・ブラスト!」

 ティルから放たれた光弾は援護で撃ったものではなく、確実にヴェルを仕留めるためにバレルが白熱するほどの一撃を放った。しかも、俺がつくった一瞬の隙に差し込むほとんど魔弾の領域に達した光弾。それに気付いたヴェルは身体を回転させヘビで防御しようとするが、この光弾は当たるギリギリのところで分裂し、六つの光弾となってヴェルに向かっていく。分裂したうちの三つは太刀やヘビによって防がれたがそのうちの三つが命中し、うち一つがヘビの防具の付け根に当たりずり落ちる。

「ーー!ー!」

 その時ヴェルを助け出す算段を思いついた。ティルの放った光弾の命中している場所には肉が抉れている部分があり、そこをよく観察すると先ほど着ていたヴェルの衣類のようなものが見えた。もしかすると完全に同化できておらず、まだヴェルはあの怪物体の中で形を保っている可能性があった。

「なるほど、な!」

 以前として連撃をしている最中だったので、確実に救出するためヴェルの本体がありそうな部分を避けながら肉を削いでいく。弱体化しているのもあったがティルからの攻撃によって先程よりも増して攻撃が当たる。

「見つけた!」

 肉を削いで行った先にようやく本来のヴェルの顔がみえ、安心とあと少しの体力を振り絞りヴェルをラプチャーから引き剥がそうとする。だが、ところどころ癒着してしまっている部分もあり、これではヴェルを引き剥がすことが不可能だ。

「なら!これで終わらせてやる!」

 ラプチャーの顔に向けてコスモスを向ける。かざしたコスモスからはいつも以上に輝きを増し、コスモスから流れ出る星の奔流を持ち手に受ける。目指すはティルの光弾。この一点を貫くはこの刃。

「奥義・百花繚乱」

 そう口にするとコスモスから信じられない光量とともにラプチャーの顔面へと刃が突出する。セイルの特性、使用者のイメージした形や重さを模倣する。これを活かすための母親から教えてもらった奥義。

「ッ!」

 突出した刃はラプチャーの顔面に突き刺さり、そのまま貫通した。頭を失ったラプチャーの身体はボロボロと崩れ落ち、癒着していたヴェルの皮膚なども解放されたようだ。ただところどころに痕がついてしまっている。

「ヴェル。助け出したぞ」

 ラプチャーの体から放り出されたヴェルをうまいこと掴み安静の状態にさせる。

「カレア、大丈夫か?ありゃオメェの身体でさえ…」

 ティルが駆け寄ってこちらに声をかけてきた瞬間、利き手だった左腕が音を立てながら腐り落ちる。

「おあ、まじか、まさかここまでの出力じゃないとあの怪物を殺せないのか」

 セイルの詳細な性質はいまだに解明されておらず、もしかしたらあのラプチャーと同じような類なのかもしれない。だからか、出力されるエネルギーは俺の身体のほとんどを持って行ったのか。

「カレア、そうか。アレは使奥義なんて言ってたが…なるほどな」

 母親から剣を教わり同じくセイル使いとしていたが、この奥義については使い方とその使用後の末路だけだった。

「ああ、たく。これで終わりかよ。クソ、デバイスもぶっ壊れちまったし、まさかだよ」

 俺に残された時間はそう残されていないと感じていた。いやわかっていたという方が妥当なのかもしれない。なら、やることは一つ。

「なあティル。あとは任せてもいいか?」

「任せとけ。餞別なんていらねぇよ」

 ヴェルを抱き抱えたティルは凛とした態度で俺に目を配る。俺はそんなティルに微笑みかけこう伝えた。

「じゃあな。兄弟。ツケに回しといてくれ」

 そう言いながらオルトたちが向かった方向へと進んだ。

「じゃあな。兄弟。忘れてやんねぇよ」

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