第8話 邂逅

「起きた。オルト大丈夫?」

 意識が少しずつはっきりしてきたところにトリラの声が聞こえてきた。気絶していた時、ひどく昔の影を見ていた気がする。それがなんなのかもうよく覚えていない。

「ああ、そうだな、多少頭が痛むくらいだよ」

 少し間をあけ、下手な笑みを作ってみせた。

「そう、よかった」

 急性ショックってやつなのか、脳の処理がパンクしたのかな。

「んで、オレはなんでおぶられてんだ」

 おぶらなくてもあそこで待機でよかったろ。

「んま、あそこで待機でもよかったけど、一旦は船に戻っておきたいってのが本音でね」

「それはいいけど、カレア?下ろしてくれ」

 このままおぶられるのは流石に恥ずかしい。

「歩けるならそうしてくれると助かる。流石に疲れた」

 ゆっくりとカレアから降り、船へ向かう。

「こういうのよくあるのか?」

「気絶したことか?」

「そのこと」

 ティルが少し考えながら問う。これまでこういう気絶していたということはないと言っても等しい。昔のことを考えてもそんなことはないと再認識する。もし、あるとすれば、あの時空断裂以来になる。

「いや、ないな」

「そうか」

 彼なりに気遣いだろう。迷惑かけてすまないね。とその時だった。

「すまない」

 船まであと半分のところで知らない人物から声をかけられた。スーツをしっかり着ており、それでいて、深く被った帽子、厚手のコート。かなり上層の人間だと見受ける。

「なんでしょうか?」

「いえ、道に迷ってしまってね。ディクターファクトリーは何処ら辺ですかな?私ここの土地勘がなくてね。」

 急なエンカウントでびっくりしたが、ただの迷い人だったみたいだ。こういうのトリラ弱いんだよな。

「でぃくたーふぁくとりー?って何処かしら?カレア君?」

 この星はオレらも初めてだ。とりあえず土地勘のありそうな人間にパスしておけばなんとかしてくれるだろうなお二人さん。

「任せとけ。えっとディクターファクトリーは、っと。あそこの通りを右に行ったら真っ直ぐで着きますよ」

 カレアが大体の位置をかなり正確に伝え始める。優しいのか、お節介なだけなのか。

「すまないね。道まで丁寧に教えてもらって」

「いえいえ」

 とその時、ティルの方から物凄い迫力を感じる。よく見ると体の後ろに銃を隠している。

「おい、テメェ、帝国のモンだよな?」

「何言って…」

 いや、コイツ。今気づいた。襟元に帝国の上層部のピンバッジがついていた。帝国の上層部、政府や軍などの主要人物は襟元にピンバッチを付けるのが規則になっている。それを気づかず、こんな近くまで接近を許してしまった。

「はい、帝国のものですが、ああ、名乗りでもしましょうか。私、EOEの研究部門で主任を任せられてるクラウンと申します」

「おいおい、そう易々と名乗って良いもんかよ」

 しかも、EOE能力の研究主任だって!?ほとんどオレらが追い求めている黒幕的なポジションじゃないか。ティルは冷静に相手を試すような言い方をして探っているけど。良くもそんな冷静になれるな。

「ああ、そうか。今回は偶然だよ。君たちの捕獲、抹殺の件ではないんだ。そう構えなくていい」

 カレアの方にも目線をやっている。カレアが剣の柄を持ち、戦闘態勢に入ってることも察知されているようだ。ん?今回(は)?

「争いごとは今じゃあない。そうだろう?そこの少年は本調子ではなさそうだからな。この世界の抑止力にでも当てられたような顔して大丈夫かい?」

 男は意気揚々とした雰囲気を漂わせ答える。それはオレのことかな?変な言い回しをしやがる。

「言ってる意味はわからんが、見逃してくれるならありがたくそうさせてもらう」

 そうだ。今ここで戦っても意味なんかないし、変に騒動を起こしてもこの星を敵に回すだけだ。

「そうですか、では一つ警告を」

「警告ぅ?」

 臨戦体制のカレアがかなり疑っている。あまりコイツはいい印象ではないけど、すごい剣幕で睨んでいる。

「ええ、この先の帰路気をつけてくださいね?最近は何かと物騒ですからね」

「ご親切にどうも」

 男はそう告げるとコツコツと靴音を鳴らしながらこの場を去っていく。

「妙な人ね。良い印象も悪い印象も持てなかったわ」

「いけ好かねぇ、癪に触るようなやつだな」

「殺したいのは山々だが、さっさと帰るぞ」

 カレアがティルを冷静に諭しながら歩き始める。めっちゃ物騒なこと言ってるけどね!

「カレアってこういう時冷静だよな」

「そうですね。私の時でもカレアさん冷静でしたね」

 こんな騒動になった時でも、冷静に確実に助かる方法を導き出している。視野が広く、頭の中で色々考えてやってるのかもな。

「ああ、それか。俺でも不思議なんだよな。ピンチの時とかだと視野がブワーって広がるんだよ。そんで頭が思った以上にスッキリすんだ。俺が思った以上にね」

「「へぇ」」

 思ってた以上に思ったことだった。

「はん。思った以上にドライな相槌だな」

 トリラと変な相槌が被ってしまった上に、ティルからの鼻で笑う攻撃。

「お前らなぁ」

 カレアが呆れたように先に歩みを進めていく。



 5分程度歩き、TenClyの間近に近づいた時だった。

「「!!」」

 先に歩いていたティルとカレアが何かを感じたかのように止まる。

 その刹那、

「「危ねぇ!」」

 ティルとカレアが一番近かったオレを突き飛ばす。その後に鈍くそれでも鋭い音が聞こえる。その音は、何者かによって振り下ろされたモノであるのは間違いなく、その攻撃を二人で防いでいる音だった。

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