EP3 アサルトフィクサー -Assault Fixer-

第7話 新しいこと

「で、どういう経緯なんだよ」

 帰ってきたと思ったらいきなり女の子一人増えてるし。

「「だからさ」」

 いまいちよく分からない経緯を二人が事細かく話し始める。



「いえ、助けてくれてありがとうございます。私ヴェルって言います」

「いや、礼はいらないよ。それじゃあ、行くぞ、ティル」

「あいあい。そんじゃお嬢さん、じゃあな」

 一仕事終えた後はさっさとズラ狩るのが俺たちってもんだ。

 ここの治安はあまりいいとは言えない、けど悪いともいえないし、ただこの女の子はかなり引きが悪い、というか、目につきやすいというのか?まぁそこはどうでもいいか。


 ダグナスは貿易が盛んであるのは知っているのであろうが、たくさんの星から企業や人々が流れ込んできているということでもある。そして、星間同盟とガラウーヴァ帝国に属さないこの惑星近縁では中立という名目で戦闘は禁止されており、この惑星は惑星政府の直属の衛兵が取り締まっている。が、たまに衛兵の目を盗んで犯罪をする奴が現れる。仕方ないことでもあるな、光が強いところには必ず影ができる。この子のように被害に遭う人がいるのも実際に上の方でも問題になっているらしい。


「次回からは気をつけるんだぞって、なんでついてくるんだ?」

 警告を告げて去ろうとしていた矢先に、ヴェルと名乗った女の子はついてくる。

「いえ、少し気になったのですが、あの身のこなし方、戦い方、相当な手練れとお見受けするのですが、宇宙船とかって所有しておられます?」

 妙な聞き方をするな。

「そんで?おれたちにまだなんかあったり?そりゃうちは最強のもんをもっちゃあいるがな」

 何かを察したティルからヴェルへ軽いジャブのような質問を刺しこむ。

「えっとですね。単刀直入に申しますと、お二人のお仲間に入れて欲しいと思いまして」

「それは何故?」

 俺が理由を求めると彼女はうーんと唸り仕方なさそうに答える。

「それはですね。その事情が複雑でして、要因の一つとしては家の問題で」

「家出って訳か。あまりそこに首は突っ込まないけど親には連絡入れとけよ」

「まあ、そんな感じです」

「ウチで雇うんだったらしっかり働いて貰うぜ。働かざるものなんちゃらだ」

「ええ、契約成立ですね」



「っという感じで仲間になりました。ヴェルと申します。これからよろしくお願いします」

「私はトリラって言うの。よろしくね。えーっとヴェルちゃん」

「オレはオルト。よろしく」

 って感じでぽっと仲間がって、急に仲間ができてもよく分からん。社交的で礼儀正しい子だが、どこかの令嬢ではないかと思うくらいには礼儀正しい。ただなぁ、今現在こんなやばい状況なんだ、帝国がどうので少し疑ってしまう。

「アタシらは別にいいんだけどさ。アンタらは状況的に大丈夫なの?」

 史那さんが的を得た質問を二人にぶつける。

「まあひとり増えた程度なら充分補えるさ。なあそうだろうカレア?」

「そうだな。そこまで金欠なわけでもないし、これからの予算も考えて案外大丈夫そうだ」

 コイツらがいいならいいんだけど、少し彼らの認識のズレを感じる。彼らのなかでは、初対面で仲間になるということに抵抗が無いのがオレにとっては少し不思議だ。案外こうやってやってきたから安定した収入があるのかな。このズレはこの職業だからできたズレなのかもな。

「んで、アンタらは現状を理解しているけど、そこのお嬢さんはどうなの?」

 あまり喋らない紀伊斗さんから彼女への心配がでる。

「そうよね、でも、少し重たい話になるかもしれないし、ヴェルちゃんにも罪のない罪を被せることになっちゃうけど、いい?」

「そちらも複雑な事情があるのですね、ええ、大丈夫ですよ」

 トリラもかなり慎重に今現状どのような状況に自分たちが置かれているのか、そのせいで追手が来ている可能性が高いだとか、事細かに教えていた。


「ガラウーヴァ帝国に追われていて、トリラちゃんがなんかやばい能力持っていて、誘拐されそうになって、帝国に喧嘩を売ったと」

「「「そういうことで間違いではない」」」

 オレ、カレア、ティルがハモるくらいには客観的なヴェルの解釈でヤバい状況だと再認識する。

「そんなこと教えられてたらついてってないんですけど」

 ヴェルが少しプリプリしているように拗ねてみせる。

「教える必要性、というのか聞かれてなかったからな」

 そこは教えろよティル。

 帝国にはまだ喧嘩は売ってはいないとは思うけど、オレらの置かれている立場を知らぬまま仲間になってしまっていたことに、少し彼女のことを同情してしまった。

「いえ、私的にもう決まったことなので覚悟しましょう」

「へえ、すごいね君。肝っ玉が据わってる」

 史那さんの言う通りすごいな。オレらと年はあまり変わらないと思うんだが、自身の通す筋というのを曲げない彼女の意志が伝わる。

「上部を装ってるだけですよ。カレアさん…でしたっけ、みたいな戦闘とかできないのでそから辺はおまかせ状態ですけど、他は頑張ります」

「意気込みや良し、いいなぁカレア、おれの目に狂いはねぇってことだ」

「そういう問題かしら。アタシとしては何にも言えない立場だからツベコベは言わないけど」

やれやれという感じにトリラは言葉を吐く。

 流石にこの気迫ならへんなことはしないと思う。現状から考えると状況的に。たださ、

「お前ら頭冷やしてこいとはいったが、空っぽにしてこいとはいってないぞ」

「「確かに」」

 謎のハモリとガキみたいなノリをやっていたせいか、女性陣がクスクスと静かに笑っている。

「まあ、この件はまた今度しっかり話そう。ここに来た理由、そろそろいいだろ?」

 カレアが場を整えながら史那さんに詰め寄る。

「ええ、頭も冴えてきたようだし、いいわ。アタシらが持ってるあなた達が欲するデータをあげる」

 オレら一行にまた緊張した空気が張り詰める。

「本来、EOE能力者のデータはあまりにも情報として世に出回らない代物なの。さっき話したのでほとんどアタシらの持ってるちゃんとした詳細はあれだけ。ただ、出どころというか、データの目星はついてるの」

「それはどこに?」

 知らなければいけないことが近くなってきたことで、力が入って身を乗り出してしまう。

「落ち着けオルト」

「ああ」

 さっき話された内容だとどうも能力の全貌が掴めない。なぜ奴らがトリラのもつこの能力に執着するのかをオレらはもう少し見定める必要がある。そこで、当の本人が今どうするべきかをそこで判断してもらう。喧嘩売るだの、そのままどこかの星に隠居するでもいい、ただトリラには。

 そんなことを考えていたら答えが史那さんから出ていた。

「そこはというと、ファナラス」

 予想外の答えだった。トリラやカレア、ティルはあまり驚いてはいないが、少しだけ動揺しているのがわかった。

「ファナラス……か…」

 しかし、腑に落ちる点が何個か存在する。同盟圏なのに帝国側の重要人がいたり、能力者のトリラを的確に当ててきたこと。

「…?……」

 あれ、なんか視界がぼやけてきたぞ。

「灯台下暗しってやつか」

 もうあの星を離れてからかなり経っているなと。変なことや簡単なことしか考えられなくなってきた。

「ぅあ…」

 その時確かに自身へ向けられる何かのズレを実感した。

「オルト!?」

 そこで記憶がプッツンだ。

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