第34話 餞別

「そろそろ行くのか?メルグリアの件、大丈夫か?」

 セーフハウスを出たすぐのところでメノアさんに声をかけられた。

「メノアか、ああ行くよ。ありがとうな」

「そうだな、私が勝手にやっていることだ。気にするな。また、帰ってくるのか?」

 メノアさんは慎重に顔を見て聞いていた。

「さあな。でも、またくるとだけ言っておく」

 カレアはそう伝えるとスタスタと先に行ってしまった。

「オルト、結局稽古は終わらずじまいだな」

「ええ、そうですね」

 結局メノアさんに勝てずじまいだったな。そう考えているとメノアさんの空気が変わった。

「そうだ。これでもう終いかもしれない。だから、行くぞ!」

 そうメノアさんが言い切った瞬間メノアさんが目と鼻の先にいるのを確認した。

「な!」

「メノアさん!」

「なにして…」

 咄嗟の防御が噛み合い、ギリギリのタイミングで攻撃を防げた。

「これは手向たむけだ。安心して受け取れ!」

 視界で捉えるのがやっとで追いつける気がしない。でも、ここで負けたらこの先は無い。

「そうですか!なら、こっちからも仕掛けますよ!」

 メノアさんを視界から外さない。いや、外せないんだ。この状況下で視界からメノアさんが消えたら負ける。

「ようやく様になってきたな」

 そう言いながらもひたすらに攻撃を仕掛けてくる。素早い上に手数が多いのが本当に厄介だ。

「右!」

 メノアさんの拳が頬を掠める。危ない!さっきからギリギリの場面が多すぎる。

「今」

 軽く、それでも鋭い一撃を入れに行く。それでもメノアさんに当てるのは困難だ。また軽くあしらわれる。それなら、もう1発。

「いや」

 連撃と見せかけたフェイントからの、開店を利用、大きく体勢を落とした回転蹴り!

「ふ、面白い」

 ここで決めれたらよかったが、そう容易く行く相手ではない。タイミングよくバックステップで躱され、次の攻撃につなげてくる。

「あっぶない!」

 防御した腕をそのまま沿っていくようにメノアさんの放った攻撃による圧をうける。けど、これで見えた。攻撃の当たるギリギリ。角度良好。

「そこか!」

 攻撃を放ったわずかな隙、これを見定めろってことか!

 防御していた腕を無理した体勢で攻撃を放つ。放った攻撃はメノアさんの咄嗟の防御を抜けて見事命中した。クロスカウンターという形になっている。

「見事だ。オルト」

 メノアさんに当たった攻撃は頬に手を触れた程度だったが、これを攻撃とみなし敗北したと手をあげる。

「ほんの少ししか届きませんでしたけどね」

 本当に触っただけなのだ。正直悔しい。もう少し力が、経験値があればもう少しダメージのある一撃を打てたのに。

「いや、ここまでくるスピードを考えるとよくやったほうだ」

「ありがとうございます」

 しっかりと褒められるとどこか照れてしまう。

「私に決闘で触れた人間は幾度も戦って両手の指を数える程度だろうな」

 それに入れたということはかなり成長できたということなのではないか。

「ただし、これで終わりだとは思うな。今は私が相手だったが、次は違うだろう?だからその都度で闘え。その先にお前の求めるものである何かを掴めるはずだ」

 その先、か。求めるものはなんであろうと、掴み取るものは決まっているかもしれないな。トリラを守るためにその先に進むために。

「ご教授感謝します。師匠」

 そう呼ばざるを得ないほど研鑽を積ませてもらった。

「師匠か、いいだろう。ならばここに帰ってこい。そして、この戦いの話を聞かせてくれ」

「ええ、わかりました。必ずまた」

 そう言って師匠に手を振り別れを告げる。いつの間にかトリラとヴェルは船へ戻っていた。なので一人トボトボと船へ足を運んだ。



「メノアのやつと戦ったぁ?よくそれで怪我がなったな」

 開口一番それかい。

「まぁそれで少しは強くなったと思う」

 それだけは言える。確実にこの前とは段違いで強くなれている。

「オルト、結局目のあのところで戦ってたって聞いたぜ?おれ言ったよなぁ、戦うこと以外のことやれって。トリラとヴェルですらおとなしく街中にいたりとかしてたのによぉ?」

 ティルからお叱りをうける。

「わかってたけどさ、それでもトリラを守るために必要だったから」

 ティルはため息をつきこう告げた。

「この戦いの後、オメェもトリラもまた元の生活になったらこんなこととは無縁の生活を送ることになる。そんな中で戦いの残滓を残しておいても意味がない。だから」

 そうだった。この先この戦いが終わった後で元の生活に戻ったところで本当に元に戻れるかどうかなんてわからない。

「ありがとうな。その先まで見つめてくれて」

「まぁ決めるのはオメェら次第だ。さ、次はガラウーヴァだ」

 声を高らかにあげ、次なる冒険に心を弾ませる少年のようなテンションで船員の全員にこの船の船長は告げる。

「ここから先は死と隣り合わせだ。ま、必ず誰かはかけるだろうな。それでも、売られた喧嘩は買ってやるのがおれたちの流儀だ。いくぞテメェら」

 そう船員に告げるとすぐさまDLOに入った。

「さぁ、歯ぁ食い縛れよ」

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