第23話 激情

「どうも、ダグナスでご対面したクラウンです」

 礼儀正しくクラウンと名乗る男が頭をさげ挨拶をしてくる。

「ああ、そうだな。いるとは思っていたが、できることなら二度と会いたくは無かったのだけれど」

 冷たい口調でクラウンに投げかけるカレアからは信じられないくらいの殺気と視線が繰り出されている。

「そう構えないでくださいよ。そうだ、先日助けてもらったお礼を兼ねて君たちの求めるものをお教えしましょう」

 クラウンから出された提案は最初聞き間違えかと思うようなものだった。

「そいつはよぉ、ありがてぇ申し出だがな、そうホイホイと教えられるシロモノじゃねぇだろ」

 よりこちらの警戒が強まる空気が立ち込める。

「いえいえ、せっかくの客人だ。もてなしをしなければ無作法だろう?」

 本当にそう思っているのかと頭によぎったが、まぁここは言わないほうがいいだろう。

 そういえばさっきからヴェルの様子がおかしい。殺意のこもった眼差しとどこか悲しげな雰囲気を纏っている。気のせいだろうか。

「じゃあ、そちらの言い分を飲もう。情報が合致していない場合は即殺す」

 柄を再度クラウンに向け直し振り払うように収めた。

「ええ、ここからは少し長話ですよ」

「そのようね」

 クラウンがEOEについて語り始める。

「皆さんが今し方まで躍起になって追っていたEOEといのはもう知っていますね」

「ああ、何もかもを強化する異能力というのは概要で知っている」

 カレアが紺野姉弟から教えてもらった情報を開示する。

 するとクラウンは続けて話し出す。

「ええ、そうですとも。EOE、正式名称【Enhancedエンハンス Only オンリーExistenceエグズィスタンス】能力。生物から石ころまで幅広く強化できる能力。最初この能力を発揮した人間は高ランクの能力だったためにモルモットになっていましてね。そこからたくさんわかったんですよ」

「胸糞悪りぃな」

 ティルがサラッといっていたモルモットという単語を聞き逃していなかった。

「実験を進めていけばたくさんのことがわかりましたよ!名前の通り、無数を唯一へと昇華させる能力!単純なパワーはもちろん、身体のあらゆる機能が桁違いに高くなるのです!肉質はより強固に!たとえ骨が粉砕していてもものの数分で元に戻る!この能力、素晴らしいと思いませんか?思いますよねぇ!」

「なんなの?」

 急にクラウンがはしゃぎ出し、その狂気じみた笑い声でトリラが一歩退がる。

「ただですねぇ?残念な点もあるんですよ。この能力は信頼している人間にしかパスが通らず、それ以外の強化には本来の力が発揮されないんですよ。笑ってしまうでしょう?」

 急に冷ややかな口調になったかと思いきや、急にまたあのニヤニヤとした笑顔が張り付く。

「だから、そのパスの条件を破るために実験をしているのか?」

 正直聞いたところで多分予測している答えになるのは明確だった。思っている答えがあったら頭に血が昇ることは重々承知しているつもりだった。

「そうですねぇ、そう。その本来の力を兵器へ、いえ、戦争のためにあらゆることをしましたよ。薬でどう反応するのか?精神的になぶったらどうなるのか?肉体的に酷なことをしたらどう転ぶのか?ええ、そうあらゆる手を試しましたよ」

 殺意が湧いた。純粋な悪に対しての憎悪と怒り、オレは今までこのような感情になったことがなかった。

 背中が冷たくなっている感覚。冷静な感じだがどうも冷静じゃない感覚。

「オルト!呑まれんな!」

 ティルから呼ばれた声でふと正気に戻った。正直戻った一瞬、自分が悍ましかった。あんな感情になるなんて思わなかったのだ。

「兵器へのその強化能力の供給。ブースタリアンの更なる強化。もっと、もっと!できたら夢が広がりますよねぇ?わかりませんかオルトくん!この素晴らしいものが!」

 なぜ!なぜ!

「なぜオレの名前を呼ぶ!」

 ここからは止まらなかった。ガントレットを展開し、一目散にクラウンの元へ走っていた。カレアやティルからの静止の声が聞こえていたが、冷静になんていられなかった。

 だがその時、壁から仮面を被った身の丈ほどある拳を携えたあのいつかの宿敵が自身の障害物をよそに突っ込んできた。

 咄嗟の出来事であったために防御が間に合うか間に合わないかの瀬戸際だった。変に防御したせいで軽く吹っ飛ばされ身体が二転三転した後で勢いが止まった。

「ッ……、アイツもいるのか」

 思ったよりも打ちつけた場所が悪かったのか息の仕方を忘れる。

「抜刃」

 カレアが目にも止まらぬ速さでヤツに詰め寄っていく。ティルもビームをチャージしている。

「まだ、戦えるハズなんだ」

 痛みで力の抜けた身体を無理やりエンジンをかけさせる。

「オルト!」

 あまりにも簡単に吹っ飛ばされたため、大声でトリラが駆け寄ってくる。

「大丈夫だ、なんていえないな」

 一撃でボロボロなんてザマ、かっこ悪すぎて死にたくなる。

「無理してほしくはないけど、それでもオルト戦うんだよね」

「ああ、心配かけてすまない」

 正直に謝ると首を横に振り、トリラ自身の思いを語ってくれた。

「ううん、この状況を打破してくれるためだもん。私のわがままでどうにかなってたらこうはならなかったでしょ?だから、お互い様ってことでいいよね?」

「ああ、悪いないつも」

 そう告げるとトリラからのEOEのパスがくる。

「オルト、今から能力を使うけど一ついいかな?」

 トリラが改まったように聞いてくるからこちらも少し姿勢を良くしようとする。

「あ、あんまり動かないで。まだ痛むでしょう?」

「ほんと申し訳ない」

 不甲斐ない自分に嫌気がさしそうだ。

「オルト。この力は強いわ。これからもっと強くなるかもしれない。もしかしたらオルトにもっと危険が及ぶかもしれない。だけど、だからこそ責任というものを、この力を使っていく上で持っていかないといけないものを持たないとね。だから私はその責任を果たすため力をオルトに使うわ。オルトといつかの平和を掴み取るために」

 トリラから発せられた強い覚悟の思いがオレの身体を巡ってくる。

「トリラ、その責任オレも果たすために片棒を担がせてもらうよ。一人で持つよりも二人なら少しは楽だろ?それに、この力はトリラのものだ。借りてる身だからこそ、その責任の片棒くらい持たせてほしい」

 トリラに笑ってみせる。それくらいしか今はできないから。

「ありがとう、オルト。じゃあ、頑張ってね」

 先程受け取った能力の力によって、攻撃で負った痛みが徐々に和らいでいくのがわかる。

「行ってくるよ」

 そう告げ、拳を握り締めカレアとティルが戦っている場所へと足を運んでいく。

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