第44話 無限の入り口

「全てを請け負った」

 オマエだけは許さない。アンサイン。道家クラウンを演じ、この世界に寇をなす存在。もとより何もないものが、オレを語るな!

「ああ、やっと、それが見たかったんですよ!私は完成させたんだ!」

 勝手に喜んでろ、今のそこにいるオマエに用はない。その先にいる操り人形クラウンを操る人物アンサインに用があるんだ。

「おい、わあわあと喋るなよ。さっさと出てこい」

 指をさし示し、クラウンの先を見つめる。

「おや?なにを言っているのでしょうか?私はここに…」

 どこか困惑した様子でこちらに問いを投げかけてくるがとうにそんな演技に引っ掛かるほど見落とすわけない。

「わかってるんだよアンサイン。オマエの姿もどんな手を使ってこちら側に干渉しているのかを」

 オレの目の前にはもう以前の景色はなく、全く新しい景色に変わっていた。そして、そこにいたのはクラウン、もといアンサインというこの次元の住人がオレの目に映っている。

「おや?私が想定している以上に上回ってしまいましたか。いえいえ、こちらのことです。どうもこの姿では初めてましてですね?オルトくん」

 黒く濁った腕が6本あり、一応人のカタチはしているものの顔はお面をつけているような模様が刻まれている。

「つべこべほざくな」

 すぐさま戦闘態勢に入ろうとしたが、どうしてかアンサインはまだ駄弁を垂れるようだった。

「流石私が見出した主役だ。素晴らしい!ようこそ無限の入り口エントリーオブエタニティへ!もっと私を楽しませてください!」

 流石にイライラしてきたので拳を握り構える。

「望み通り楽しませてやる」

 望み通りにしてやるために早速アンサインの元に向かう。向かうは何かしら抵抗してくると考えていたがそうでもなく、何もしてこずに棒立ちしていた。

「さあ!来てください!」

 振りかぶった拳をアンサインはオレの力を吟味するように両手で防御した。周りの空気は瞬時に入れ替わるほどの衝撃波により風が発生する。

「今のは避けれたはずだぞ」

 すぐに放った拳を引っ込め、回し蹴りを放った。が、またしても避けようする動作がなく防御の体勢をとり、オレからの攻撃を受け止める。

「すごい威力ですねぇ、この威力ならアバターの身体はバラバラの肉塊になってますよ」

 違和感はあるが先程とは打って変わってしっかりとした手応えがあり、確実にダメージは入っていると思う。だが、まだ足りないと感じるこの感覚はなんなのだろうか。

「なんなんだオマエは?人の心を逆撫ですることしかできないのか?」

 正直言うと憤りを感じていた。コイツにしてやられたことが多すぎてコイツに、自分にさえ苛立ちとそこからくる焦りなどを含めて。

「ほう?そこまでおっしゃられるのならこちらからも仕掛けましょう」

 やれやれといった感じでこちらに仕掛けてくる。しかし、思った以上に向かってくる速度が遅かった。例えるとすると普通の人が小走りする程度の速度。ただ、アンサインは全力を出しているといえる。

「どういうことだ?」

 すると突然時間が加速するようにアンサインが加速し始め、6本の腕で交互に連撃を繰り出してくる。防御は間に合っているもののここからどう切り返すか困ってしまう。

「やはり!これに対応するとはもう貴方は十分な素質を手に入れているということですね!」

 連撃を繰り出しながら悠長なことを言ってやがる。それにしてもさっきの加速はなんなんだ?アンサイン固有の能力だろうか。厄介なのはわかりきっていることだし、対応策をどこかしらで見出さなければ面倒だ。

「それにしても更に速くなってるいるな。この!」

 対応はできているが6本の腕からなる連続した素早い攻撃で、加速しているとなると少々捌くのは骨が折れるので少しの隙を見てカウンターを放つ。鈍い音がなり、攻撃が命中したアンサインは少しずつ後退しながらよろよろと足をもたつかせていた。

「いい切り返しですねぇ。もっと楽しませてくださいよ!」

 アンサインはそう叫ぶと少しずつ身体が変容していった。どちらかというと怪物によった風貌になっていき、大きさも先程とは段違いに大きくなっていた。

「次元の先っていうのはコイツらみたいなのばっかなのか?」

 ヴェルが変容した時と同じような変容の仕方で既視感を覚える。ヴェルの場合はまだ人の形をしていたがもうコイツは獣のような姿だ。

「ーーー!」

 もう何を喋っているのかもわからないほど汚い叫び声をあげこちらに突進してくる。ありゃもう思考する能力を失っているんじゃないかと思うほどだ。下手に相手できないので回避をするための体勢に入り突進を避けようとしたが、予想以上の挙動をして突進を喰らってしまった。

「なッ!!」

 あの不思議な挙動は多分加速する能力によって生み出される挙動だろう。曲がったりすると減速してしまうところを加速でカバーしている。あの状態で使ってくるとは思わなかったので、かなりのダメージを負ってしまった。

「クソ!まだ考える余力はあったのか?いや、本能か」

 確実にオレを殺す気できている。師匠から教えてもらった殺気の有無は最初はわからなかったがこの状態のアンサインに対してだとよくわかる。本当にオレを殺す気でいる目と気迫だ。それならこちらだって。

「オレだって今オマエを殺すために戦う」

 そう覚悟を決めた瞬間、目が痛みを感じるほどの熱を帯びる。ただ痛みといっても悶え苦しむような痛みではなく、どこか違う感覚と接続を果たしたような変な痛み。

「なんだ?」

 視覚から伝わってくる情報は最適化され、アンサインの核と言えるような部分まで見える。そこに触れてみろと心のどこかで言われている気がして、それが正解なのかもわからないのにそれが答えなのだと感じた。

「いくよ、トリラ!」

 真っ先にその核となる部分に向けて走り出す。獣状態のクラウンは何かに気づいたようで黒い腕を展開し抵抗しようとする。

「それはもう通じない!」

 展開された腕は動きが単調になるという弱点を先程までの戦いで感じたから対処も簡単だった。4本同時にくってかかってきた腕を蹴散らしていく、いくら加速したって動きが直線的ではわかりやすすぎて簡単に防ぐことができる。

 オレを迎撃するための攻撃を防ぎながら向かってようやく近くまで来れた。だが、まだまだアンサインは諦めきれないといった態度で暴れ始める。

「おとなしく…しろ!」

 暴れながらもこちらを捉えてくる攻撃を避けながら更に核へと近づく。腕の包囲攻撃や脚部で蹴散らしてこようとしたりするのを回避しようやく目的の部位に来れた。

「喰らえ!!」

 オレがその部位に触れて止まれという思いを頭で強く考えた途端、獣状態のアンサインは時間が止まったように固まってしまった。

「動かない?これが答えなのか?」

 ぴくりとも動かないアンサインを見てこれが新しいトリラがオレにくれた能力だということを感じ、どこかしんみりとした気持ちが浮き上がる。

「託された思い、確かに果たしたよ」

 コイツはもう動けない、もう一生命が尽きるまで、いや死んでも尚そこに留まり続けるはずだ。

「ああ、たくさん失ってしまったな」

 戦闘を終え気持ちが落ち着いてきたら視界もいつも通りの景色に戻る。絶望を味わって、でもその先を求めて掴み取った結果は呆気なく、解決したのはEOEの兵器を止めることだけ。代わりにトリラとカレア、そしてこの世界のオレを失ってしまった。

「守れなかった。でも、トリラの願いは絶対に守るよ」

 大きく息を吸いゆっくり吐いた。次はもう失わないと誓って。

「おい!オルト!」

 入口の方からティルの声が聞こえ振り返り返事をする。

「ああ、大丈夫だったか?」

 ティルはここで何が起こったかを瞬時に理解し肩を叩いてくる。

「オレは大丈夫だ。カレアは活躍したみたいだな。トリラも」

 泣きそうではあったがギリギリで堪えた。まだ終わっていないとそう考えて次に備えようとする。

「大丈夫だ。もう件のB-S.L.R.Gは破壊した。ヴェルも救出できた。今は船で安静にしている。後はオメェとここを出れば終わりだ」

 少し力んだことがバレてしまいティルから宥められる。もうすでにティルの手でほとんど終わっていた。なら、後はそうだ。

「ああ、帰ろう」

 そういって船の方へと二人で向かった。

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