第43話 訣別
「スキが見当たらない!いや、まだ!」
こちらも負けじとクラウンの連撃の中にカウンターとして拳を放つが、お構いなしと言わんばかりに全ての攻撃を弾き返し連撃を続ける。
まだ足りないのか!一撃一撃は大したことはないがどうしても量で圧倒されている。それでもまだ諦めることをやめない!
「オルト…!まだ…私は!」
トリラは能力を倍プッシュしようとしていたが、それをいつの間にか追いついていたカレアに止められている。
「その先は…だめだ」
そっとトリラの肩に手を置き、後ろに下げるようにカレアが前に出る。
「カレアくん腕が!」
トリラはカレアが左腕を失っていることに気づき驚愕した。
「追いついた。これで…俺の役目を果たしてやる!オルト下がれ!」
カレアはそう告げるとクラウンに対してコスモスを掲げる。まだクラウンはオレとの距離が近く、カレアから言われた通りに間合いを取ろうとして蹴りを入れながら衝撃波で遠くに飛ぶ。
「カレア!?何をする気だ!」
カレアから感じる気配は以前のものとは違い、どこか薄いというかもうギリギリという形で保っている。そんなカレアが何をするかは心のうちではわかっていたが頭で考えるのを拒否していた。
「奥義・百花繚乱」
カレアから放たれる一撃はティルの放つビーム弾のような光弾と同じかそれ以上の光量を放ち、クラウンに向けてコスモスの刃から射出される。
「はああああ!」
クラウンに見事命中し、腹部に大きな風穴ができるのを確認した。放たれた光の刃は徐々に光を失っていく。まるでカレアの命の灯火が消えていくかのように。
「カレア!大丈…」
予想は当たっていた。もうすでに身体が腐り崩壊しかけている。
「まだ…終わってない…ぞ。あとは…頼んだ…オルト」
そう告げると同時にカレアの持っていたセイルのみが残った。崩壊した、カレアは最後の命の奔流をクラウンに対して放ち一矢報いたのだ。
「そんな…カレアくん。なんで……」
そこまでしなくても良かったと思いたいが、そこまでしかできなかったと考えることもできる。だから最善を選んだ。この選択が最善だと信じているから。
「いひひひひ!あの男が私に!これはそういうことか。同じ性質をぶつけたのか!」
カレアの最後の一撃を喰らってもなお生きていた。腹に大きな穴があったはずだが、そこに黒いモヤと背中から腕のようなものが生えてきているのがわかる。
「ついに本性を現したか」
カレアの一撃は確実なダメージになっている。それでも足りないのか。いや、足りてはいるがもっとちゃんとした部分にダメージが入っていない。それなら、
「カレア、ありがとう。いくぞ」
再起不能になるまでオレが叩き込むだけだ。異形と成り果てたクラウンに身体を向け、大きく息を吸い込む。
「いひひひひ!オルトくん!あと少しですよ!」
そうだな、オマエを倒すのにあと少しなんだ。もっといけるところまで行ってやる。
クラウンに向かって足を進める。能力の限界地点もすぐそこといえるギリギリの状態。必ず倒すために拳を握り衝撃波を地面に当て加速をかける。全てを振り切るように加速をかけたあと飛び込むようにクラウンに拳を振り上げる。
「ああ!そうきますか!」
後ろから生えている腕を駆使して迎撃しようとしてくるが、それを弾き飛ばしながら本体へと間合いを詰めていく。弾き飛ばしても尚後ろから追ってくる執着はコイツの本性丸出しだな。
「オマエを!」
地面に着地し、今度は地面を這うようにクラウンに詰める。ところどころで衝撃波を使い加速をかけつつ、追ってくるヤツの黒い手を遠ざける。ついにたどり着いた時にはクラウンの手で包囲されているような形になっているが、そんなことは関係ない。
「ベッツ・ファング!」
周りに包囲している黒い手をまず乱雑に弾き飛ばし、次に獲物であるクラウンへと加速をかけ蹂躙しようと間合いを詰める。するとクラウンも負けじと迎え撃ってくる。迎撃しようと拳を放ってくるがそれを間一髪で避け、やっとの思いで懐に入った。
「これで終わりだ!」
クラウンにぶち込んだ拳をさらに銃の激鉄が落ちるように加速をかけて抉り込ませる。まだ足りないと感じてもう一方の拳を衝撃波で加速をかけ打ち込んだ。
「があああ!いひひひひ!いい!いいですよ!それでこそ私が求めている主役だ!がああぁ!」
殴っているはずなのに、ダメージが入っているはずなのにまだ喋るのか!
「もう黙ってろぉぉぉぉ!」
クラウンに抉り込ませている両手を振り抜くように衝撃波をかけ真上に飛ばした。クラウンの空中に浮かんだ身体は力なく落ちてきたが、まだまだ動いていた。いや、もはや人型の動きをしていない状態、背中から生えている腕を使って動いていたのだ。
「まだ動くのか……ッ!?」
ここにきてタイムリミットがきたらしい。体の力が抜けきり、顔から崩れ落ちる。もうどうにもならないくらいに動けなくなっている。今までの能力より多くの強化を受けていたために反動がこれ以上にないくらいに四肢が痺れて感覚がなくなっている。
「マズイ…!トリラを守らなければ!いけないのに!」
こんなところで寝そべっている場合じゃないのに、もう身体の言うことが聞かない。疲労もあるだろうが、能力でのデメリットが大きくここにきて出てきてしまった。
「ああ、かわいそうに。オルトくん今から見せる光景はきっと貴方の中で鮮烈なものになるでしょう」
そう言いながら黒い手で身体を支えながらトリラの方へと向かっていく。
「やめろ!あああああ!クソォォォ!動け!!なんでだ!」
這いずってでもトリラのところへと行かなければいけないのに身体がそれを許さない。託されたんだ、もうここで失うのはダメなんだ!
「オルト、今から君に全てを渡すわ。思いも覚悟も力も」
クラウンがトリラの元に辿り着き、トリラの首を閉めながらこちらに掲げてくる。
「やめろ!ダメだ!アアアアア!」
動かない身体とは真反対に目の前で本来あってはならないことが起きてしまっている。
「ねぇ?オルト。貴方に全てを託すね?だか…ら、私の責任…果たして欲しい…な?」
そうオレに告げるとトリラの身体は優しい光を放ち、その光がオレを包み込んでいく。
「待ってくれ!まだ!」
少しずつトリラの身体が砂になって崩壊していくのを確認する。少しずつ少しずつクラウンの手の中でトリラの命が尽きている。
「オレは…!守る力さえないのか……!?」
手を伸ばし届くはずのないトリラの元へ精一杯伸ばした。涙で視界はぐちゃぐちゃだが、それでもトリラの元へ少しでも近くに行きたかった。
「全てをあげる。だからクラウンを、アンサインを倒してオルト!」
体の中でそうトリラに言われた気がした。多分もうすでにトリラの身体は散り散りになって崩壊しているであろう。でも、まだ諦められなかった。
「ああ、わかったよ」
指の一本さえ動かすことさえできなかった身体が動くようになり、まず涙を拭った。現実は非常だ。そこにはトリラの姿はなく、トリラがつけていたメガネだけが地面に残っていた。
「全てを請け負った」
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