第3話 次元の行く末
あと大体2分半、向こうは終わったかな。流石に早過ぎか。
「よそ見してんじゃねぇよ!」
オレが相手をしている男がバトンを振り下ろしながら言う。こっちの男はテーザー銃を破壊された後、バトンを代わりに振り回している。不幸中の幸いであったのは、ヤツが銃器の類を持っていなこと。
くそ、それでもこっちには武器なんてないから脅威になってることには代わりない!
「畜生ッ!」
間一髪で振り下ろされたバトンをかわす。こっちは丸腰なのに容赦なく攻撃しやがる。緊張と責任感で疲労も爆速で溜まっていってる。
「後もう少し耐えろ。オレ…」
3分が1時間くらいに感じてしまう。こちらの攻撃手段が拳だけってのもキツいモノがある。間合いは完全に向こうが有利な上に一撃くらったらかなりヤバい。
「くらえ!」
おおきく振りかぶってきた攻撃を回避し、この隙をものにしようと拳を振るう。
「グゥウ…」
自身の拳は相手の横っ腹にめり込むように入る。これならギリギリ時間が稼げる。そう思った一瞬の油断が自身の隙を生んでしまった。
「油断したなぁ?」
男が少し間合いを空けるようにオレを突き飛ばす。バランスが崩れたオレは、よろけながら後ろに後退してしまう。完全に安心しきっていた自分に腹が立つ。自身の攻撃が良いところに当たったと思い込み、喜んでた。しかし、向こうの耐久力というか防御力はオレの攻撃力では崩し切れないくらいに固かった。そのことを想定せずに喜んで、隙を見せた。
「オラァ!」
重い!
男の攻撃がオレの左腕に命中し、骨が軋むような嫌な音が鳴る。バランスが崩れたところに放たれたこの重たい一撃で軽く吹き飛ばされた。
あまりの痛さに声が出なくなる。オレはヤンチャな方ではないが、喧嘩を売られることが多く、痛みには慣れている方だと思っていたが、これをくらって今までの痛みが甘いものだったことを思い知らされた。
「オルト!」
「来ちゃ…、ダメだ…ッ!」
トリラが駆け寄ろうとしたため彼女に静止をかける。これはまずい。意識を保っているので精一杯だ。
「おいおい、お姫様を守れてないぞ!」
「クソ…」
軽い挑発でも敗北寸前の状況だと心理的に結構くるな。
「そいじゃあおじさんと行こうか?」
「来ないでください!」
ジリジリと男はトリラに寄っていく。くそ!動けよ、オレの身体!ヤバい!トリラが訳のわからない奴に連れ去られる!
「少し実験に嬢ちゃんが必要なだけなんだよ!」
「じっ…けん…?」
男が彼女の目の前まで行っているのが見える。まだ攻撃の痛みで立てずにいる。実験なんて単語が出てきたがそんなことが今はどうでもよくなっている。必死に這いつくばり、一刻も早くトリラの元へと駆けつけるために少しずつ前へ前へと身体を前へ押し出す。
「マズイ…」
もう時間がないと思ったその時、彼女から不思議な力が渡ってくるのを感じる。
「オルト…。私は信じてるよ!何があっても助けてくれるって!」
ああ、そんなこと言われちゃぁ、この身が滅びたって助けなきゃいけないって思ってしまうだろう。
「だから!立ち上がれる?オルト…」
トリラが言ったその言葉が終わると同時に、自身から力が漲るのを感じた。信じられないほどの強い力。そして、彼女から力を受け渡されている感覚が、自身に巡るこの想いが感じ取れる気がした。
分かる。今ならトリラを守るなら何でもできる。そんな気がする。
「喰らえ」
オレでも分からないくらいに素早く男の元まで詰め寄る。そして、攻撃しようとした瞬間に男を殴り飛ばしていた。自身の脳が今起こそうとした情報を理解する間を与えないくらいの速度でこの一瞬を蹂躙する。
「オルト、大丈夫なの?痛いところ無い?」
トリラの近くにいた男を殴り飛ばしたので、配置的にはさっきと逆。一応形成逆転ってところだ。
「ああ、大丈夫?になってる」
不思議だ。さっきまで左腕が上がらないくらいの痛みを伴っていたのに。それよりも動けていること自体不思議である。あの力が湧いてきた瞬間、動かなければと考えていた。外傷もほとんど癒えている。
「これは…。トリラ、トリラの力みたいだよ」
「そんな力、私にはないと思うんだけど…」
「でもな、感じるんだ。トリラから色々な想いが」
「でも…」
オレはこの時、「EOE」という単語の意味が分かった気がした。この力がトリラを連れ去ろうとした原因なんじゃないかということを。
「おい騎士さんヨォ?痛ぇじゃねぇか」
殴り飛ばした男が力無く立ち上がり、ヨロヨロと向かってくる。
「まだ終わりじゃねぇよな?」
まだやる気かよ。流石に勘弁して欲しいものだ。大きく負傷した左腕が癒えたと言っても、痛みまではすぐにカバーできないらしい。と、その時、大きな音を立てて天井のガラスが辺りに飛び散るする。
「いいや、終わりだ!」
カレアがドヤ顔で戦闘機のキャノピーをあけ大声で叫ぶ。天井を破壊した張本人がドヤ顔で叫んでいる絵面はなかなかに狂っていて流石に乾いた笑いが出てしまう。
「オルト!トリラ!あの船に乗れ!」
カレアがそう言いながら近くの出口の外に来ていた貨物船を指さす。
「カレア!お前はどうすんだ!」
「後で合流する!」
本当かよ。
「オルト、とりあえず向かおう?」
トリラがオレの腕を掴み一緒に向かう。すると出口に近づくにつれ貨物船のハッチが開き、中からカレアと同じくらい久々で懐かしい人影が見えた。
「オルト、久しぶりだなぁ!」
「ティル!お前も居たのか!」
ティレビア・ナーファード。彼もだいぶ昔に会ったっきりだったから再開は少し嬉しい。状況が状況なだけあまり素直には喜び辛いけど。
「そら、手だせ。手!」
トリラから先に船に上げながらオレも続いて乗り込む。大きな船なのに出入りするハッチはこじんまりとしているのだなと思いながらも中へ入っていく。
「カレアは大丈夫なのか?」
「アイツは大丈夫だろ。どーせアレで帰ってくるさ」
ティルにカレアがどう帰ってくるか聞きたいが多分大丈夫みたいだ。
「ナノ!そのまま軌道上に添うように上昇だ!」
『了解です。キャプテン!』
オレらが乗った貨物船は高度を上げるように進み始める。小さな窓から今までいた地面が遠ざかるのをみて少し不思議な感じがした。
あれ?冗談だと思ってたけど本当にカレアを置いていくのか。
「カレア君置いていっていいの?」
トリラが心配そうにこの船のホログラムに映る住人に聞く。
『ええ、大丈夫ですよトリラさん。カレアさんなら多分もうそろそろ上がってきます。食堂にいきましょうか』
「そろそろって」
多分心配しなくても良いんだろう。そう思うことにした。
「本当に少ししたら帰ってきた」
「だろ?」
「カレア君帰ってきたんだ」
『カレアさんお疲れ様でした』
少しの間、食堂で今まで起きたことの頭の整理をしようとし、落ち着こうとしていたら無事カレアが帰ってきた。
「はいお疲れさん」
ティルの元にテロテロ歩きながら言葉を返してくる。
「カレア、情報みたいなのちゃんとゲットしたか?」
「ああ、少し痛めつけたら色々吐いてくれたわ」
『後で情報を整理しますね』
何やら物騒なことを3人で話している。多分、あの3人は今数多くの情報を求めているんだろう。本当にありがとうございます。
「ああそれと、オルト達は初めてだったよな?この船」
「そうだな、そうなるかも」
「そうね」
「なら言っとくか?」
「やっとこか」
「セーのッ」
「「「
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