第38話 狂喜
手始めにと言わんばかりにビーム弾をヴェルへと浴びせる。本来なら仲間だからといって手加減をするものだがティルは全力でいかないと負ける相手だと確信したから撃った。ただその一閃は、太刀を一振りした剣圧だけでそれを防いでいた、
「ハァ!そんなのありかよ!」
ティルがつぶやくのも無理はないと思う。普通は防御困難な一撃だ。基本シト戦では防がれてはいたが、普通は防ぎ切れない。だがそれを剣の一振りで消滅させた。ありえないことが目の前で起こっているのは火を見るよりなんとやらだ。
「こちらからも仕掛けるぞ!」
ヴェルの後ろをとる形に位置を持ってきたが、こちらが攻撃を放つと同時にいつの間にか巻きついている謎のもので攻撃を防いだ。
「な!ヘビ!?」
左腕に巻き付いていたのはヘビの形を模った金属状の防具だったが、確かに俺は見えた。あのヘビを模った防具は俺が攻撃を放つ瞬間高速で腕に巻き付いていた。正直信じられない光景がいくつも続いてる現状に呆気に取られている。
「ありゃ動くのかよ」
正直強さが未知数すぎる。シトも強かったが段違いと言ってもいい。
「これはやばいかもな」
とその時ヴェルの動きが止まる。本来の意識を取り戻したかと思っていたが違った。
「ーーーーーー!」
うるさい!金属を引っ掻いたような音が爆音でこのエリアに響き渡る。まるで笑っているかのようで例えるならゲスな人間が発しそうな笑い声とも言ったところか。何かを喋っているようにはまるで聞こえない。ただ発しているだけとも言い難い。なんなんだよこれ!頭が割れそうだ!
「があああ!ッるせえ!」
この騒音の中では動くこともできないほどに音圧と音量で押しつぶされる。
「動けない、なんだこれ……」
徐々にこの騒音は小さくなっていき、ついに終わる。ヴェルはひと息ついたかと思ったが、今度は騒音攻撃ではなく普通に太刀で攻撃してきた。
「速い!」
鋭い金属音が鳴り響く。またもやギリギリで防御し鍔迫り合いのような形にもってはきたが力負けしている。ジリジリと押し込まれているのは目に見えているがこれを弾いたところで次の攻撃がどうくるかがわからなかった。
「
ティルから再度ビームが放たれるが、左腕に装備しているヘビの防具によって防がれる。その隙に距離はとれたが未だヴェルへの攻撃はダメージゼロ。こちらへの攻撃は避けられない騒音攻撃によってかなりこちら側の体力を削っている。
「厄介だなコイツは」
鍔迫り合いだとこちらには部が悪すぎるため一旦バックステップで距離を取ろうとしたが、ヴェルの力が思っていたよりも強く弾き飛ばされる形になりバランスを崩す。
「カレア大丈夫か!」
すかさず援護の射撃によってヴェルは進行を止めるがどうにもと言った感じだ。
「いたぞ!」「あいつらだ!」
さっき巻いたと思った帝国兵が俺たちがきた廊下からワラワラと湧いて出てくる。が、その帝国兵の軍団の方から悲鳴が聞こえた。
「ウソだろ!?」
帝国の大軍は瞬く間にヴェルの一振りによって壊滅的被害を受けていた。そこにいた帝国兵だった残骸は無惨にも散り、あたりに大きな血の池が出来上がっている。
「どうでる?」
キツイと覚悟はしていたがこんなにも大きな力を見せられるとどうにもならないと感じてしまう。
〜
ヴェルのことは心配だがカレアたちに任せ、オレたちはクラウンを追っていた。
「長いなここの廊下。しかも変な装飾だ」
まるでひとつ次元が違うようなそんなどうしても今のオレたちでは理解できないタイプの代物が壁や床に装飾されていた。
「不気味ね。この先に行ったのは確かなのに」
まだまだ先は長そうだと思っていたがいきなり大きな広間に出る。
「うお!さっきまで変な廊下にいたのに」
瞬間移動でもしたんじゃないかと思ってしまうほど一瞬で視界の景色が変わったためにびっくりして身構えてしまう。
「そう構えないでくださいよ。私は今オルトくん、君と話がしたい」
奥の方にクラウンらしき人の影を見つけ、少しずつ注意を払いながら近づいていく。
「オレと話がしたい?バカいうな!ヴェルをあんな状態にして!」
正直コイツの顔を見ていると腹が無性にたってくる。ヴェルの怒りの理由はわからないが、同じ気持ちを味わっているから少しわかる。コイツは生きていたらまた新しい事件を起こすだろうと。
「そうカッカしないでくださいよ。ああそうだ、その怒りのお詫びにここにくる要因全てをお話しましょう」
「何を訳の分からないことを言ってるの?」
普段優しく誰でも仲良く話せるトリラでさえクラウンには拒否反応が出ている。
「まず聞きたいことと言えばヴェールのことですね。アレはスパイですよ。私への怒りを矛先にして簡単に操ることのできる人形」
「何を…言ってる?」
「オルトくんたちのことを監視するためのホムンクルスなので戦闘用には作っていなかったのですが、あの次元の狭間の怪物ラプチャーの因子とちょうどいい反応をするんですから使わない手はないですよねぇ?」
「な…そん…な…」
吐き気を催した。トリラも口を手で覆って顔色が悪い。コイツ碌なことをしていない。
「自由なんて甘い蜜を吸わせておいて、わざわざティレビアくんたちに近づけとプログラムされていても分からないまま今に至るなんて滑稽ですよ。まぁでもそれで君たちの居場所を随時把握できたのは良かったんですけどねぇ?」
怒りが頭の半分まで進行してくる。ああ、クソ!呑まれるなよ。まだ足りない。
「アレの話はもういいですね。あとは
色々な部位に血走る感覚がわかる。
「UNIONなんかも出てきましたがアレは特例でしか出てきませんし、そもそもアレらの始末はついてます。ダグナスでお会いしたときがちょうど最後の一人を始末する間近だったりもしたんです。ああ、またあの悲鳴が聞きたいですね」
「なんて人なの!アナタは極悪人よ!こんなことが…許されるとでも…!」
そろそろ我慢の限界だったが先にキレたのはトリラの方だった。
「人の命をなんだと思って…アナタは!」
あの時と一緒の覚悟と責任を抱いて毅然とした態度でクラウンに立ち向かっている。
「命ですか、そんなの粘土細工と一緒ですよ?練れば形が出来上がる。それが肉になっただけですから簡単なことですよ。ああ?そうでした一応君たちは災害孤児でしたねぇ?それでオルトくんはこの世界でひとりぼっち。この世界のオルトくんは死んで今は傀儡と化している。トリラさんは偶然能力に目覚めてくれて大変助かりましたよ!あははは!私好みの主人公になってくれて嬉しいですよ!」
嬉しいダァ?こっちはそのせいで人生狂わされてるんだよ。オマエだったのか、オレもアイツもトリラでさえも巻き込んで。
「いい…ご身分…だな…」
全てを奪って自分のしたいことが叶ってよ。オレは、オマエを。
「なんですかぁ?」
「聞こえなかったのか?いいご身分だって言ってんだ!!オマエは絶対にここでここから先の全てをオレが止めてやる!」
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