ドッペルさんと本体ちゃん

哉子

序章ってゆーかご挨拶?

本体ちゃんの初見語り

 ある日のこと、その時、あたしは料理をしていたのねぇ~。


 心を込めて、安く買ってきた謎のひき肉をコネコネして、大きい塊に固めて。そのまま勇気を持って、フライパンへドーン!フタなんかしないで、強気な強火でジュージュー!


 あれあれ?どんどん黒く大きくなってきてきたよぉ?なんて思ってたらぁ~…


 ばぁぁぁぁん!


 すんごい音がして、フライパンの中身が爆発したのぉ。


『あれぇ?なんでぇ?おかしいなぁ?調べた通りに作ってるのに~?』


 キッチンに散乱した黒い物体が片付けようとしてた、その時なんだけどぉ。


〝ピンポーン〟


 んん?チャイム?誰だろぉ?


 ドアスコープから覗いたけど、よく見えないよぉ…

 とりあえず出てみたのねぇ~。


『はーい、どなたぁ?』


 ドアを開けたらね、女性が立ってたぁ。


 鏡で見た事のある顔。

 毎日選んでる服。

 お気に入りのヘアスタイル。


 無表情にあたしを見る〝彼女〟は…


〝あたし〟だったよぉ。



 ……えぇ~?



 鏡じゃないよねぇ?どこから見てもあたしだぁ…?


 なんで?

 どうして?

 もしかして、よく聞くアレ?


 ドッペルゲンガー?


 びっくりしすぎて声が出なくなって、ぐるぐると頭の中で考えてたら、目の前の〝あたし〟が不気味に笑いながら喋り始めたよぉ。


「ふふ。不用意にドアを開けてくれてありがとう」


『あ、いえいえ、そんなそんなぁ~、お礼を言われるほどでは~』


「私と会ってしまったからには、さあ、消えなさ……」


 え、こういうのって、唐突にくるのぉ?


 よく聞く話だとさぁ~


 友達が他の場所であたしを見たとか、知らない人が〝この前はどうもね〟って話しかけてきたりとか、ジワジワってこう、なんかしらの兆候ってあるよねぇ?


 こーゆーのって、いきなりウチに来るもんなの?イミフすぎないかなぁ~?


 ???


 ま、細かいことはどうでもいっか!


『わぁ~!〝あたし〟がいるぅ~!喋ってる~!すごーい~!』


 あたしと1ミリも違いがない姿をした目の前の〝あたし〟は、訝しげな顔になったのぉ。


「いやなに、楽しそうにホッコリしてんのよ?」


 だって~こんなの~奇跡でしょぉ!


 なーんて、思わず目の前の〝あたし〟の顔をペタペタ触っちゃったよねぇ。


『マジであたしだぁ~!うわわ、ホクロまで同じとこにあるぅ~!』


「え、あ、ちょ、何してんのよ触んないで…って、なんであんた、消えないのよっ!?」


〝あたし〟は、興奮気味に聞いてくるけど…?


『消えるってなんでぇ?あ、そういえば、ドッペルゲンガーに会ったら死ぬんだっけぇ?』


「そうよ!ここは本体が、悲鳴上げながら消えるシチュでしょっ!いつまで悠長に触ってんのよ!」


『兆候が一切無しで、いきなり来た人に、シチュがどうのこうの言われてもなぁ~?』


 言い返された目の前の〝あたし〟はもう、戸惑っちゃって戸惑っちゃってぇ~。


 マジ草ァ~☆


「え?え? こんなの事前に聞いてないわよ? なんでこんなイレギュラー起きてんの?」


 目の前の〝あたし〟がずっと疑問に思ってるみたいだから、なんとなーく答えてあげたのぉ。


『なんかこう、すごい奇跡の力が働いてるんだよ~たぶん~』


 答えてあげたのに、目の前の〝あたし〟はプンスカしちゃってるぅ~。


「そんな抽象的な概念で!? ドッペルゲンガーのセオリーを超える気!?」


『超常現象なんてそんなもんじゃない~?』


「え、まって、やだ、なにもう、泣きそう」


 最初は無表情で悪者っぽくしてたくせに、やたら勝手にヒートアップしてる目の前の〝あたし〟


 見てて面白いなぁ~。


 あ、でも、流石にあたしが二人もいる所を他の人に見られたら、ビックリされちゃうよね~。


『まぁ~おうち入ってよ~?』


「あんた、大胆すぎない……?」


『他の人に見られたら、困るよね~?はーやーくー』


「さり気なく脅迫じみてるわね……えーと…あーっと…、まあ、お邪魔します」


『やったぁ~、捕まえたっ』


「え、何この子……」


 どんどん怯えた顔になってくる、目の前の〝あたし〟


 そんなに怖がらなくていいじゃない~?ぷんぷん!


〝あたし〟をおうちに入れて、キッチンに戻ったら、さっきの爆発したお料理が、再び目の前に現れた~。


 あ!あまりの惨状に〝あたし〟がドン引きしてる!状況説明しとかないとぉ!


『あ、あのあの~、さっきね~、作ってたお料理が爆発しちゃって~』


「はい?」


『お買い物してこなきゃなんだ~』


「えっと、なに、この飛び散ってる黒い物体?」


『ハンバーグだよ~?』


「はぁ?」


 はてなマークが頭に飛んでる〝あたし〟をよそに、机に置いてたお財布とエコバッグをカバンに入れて、近所のスーパーにお買い物に行こうとしたよぉ。


 その時〝あたし〟が、あたしを引き止めた。


「まってあんた!それお財布じゃなくてリモコン!」


『あれ~?ほんとだぁ』


 あたしはお財布と間違えて、テレビのリモコンを入れていたのぉ。よくあるんだよね~。うっかり、みたいな?


 でも、目の前の〝あたし〟はよく気が付くみたい~。優秀~!


「もう、見てられない!私が買い物に行くから、あんたは片付けしてなさいよ!」


 あれ? なんか、助けてくれるかんじ?なんだかんだ良い人ぉ? ここは元気よく返事しとこっと!


『はぁ~い☆』


 その瞬間、〝あたし〟は、ハッとした様子になった。


「え? 私、なんでこの子のペースに……?」


 気が付かない方が、幸せなことってあるよね!それならそれなら、言いくるめておかなきゃ!


 あたしは笑顔でゆっくり説明したのぉ。


『大丈夫だよ~? 何も心配いらないよぉ~? さあさあ、いってらっしゃ~い!よろしくおねがいしま~す』


 はてなマークをずっと頭に飛ばしてる〝あたし〟は、よく理解していないまま、近くのスーパーに出かける準備を始めた~。


 んっふっふ!なんか上手く行きそう!


 こんな機会、二度とない~!捕まえておいて、あたしの生活を支えてもらおう~。


 うふふふ☆


 姿はぜーんぶ同じ人なんだから、順番にお外に出れば、何も困らないもんね!


 そうと決まったら、早速いろいろ聞いておかなきゃ!


『ねぇ~、名前なんて言うの?』


「は?名前なんて捨てたわよ。強いて言うなら、あんたの名前でしょ。入れ替わるはずだったんだから」


 ん~、それは困ったぞぉ?それじゃ、ここはストレートに……


 ドッペルさん!


 スーパーに行こうと玄関から出ようとしているドッペルさんに、あたしは声をかけたの~。


『ドッペルさん~☆ ずっとここにいていいからね!』


 それを聞いたドッペルさんは、ハッとして、頭を抱えながら叫んじゃったよぉ。


「なにこれぇ!なんでぇ!予定と違うんだけどー!? ドッペルゲンガー責任者ぁ!出てこーーーい!」

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