帰宅と風邪っぴきとゴハン

 ごきげんようぅーー☆

 ドッペルですぅーー☆


 はっ


 いけないわ! さっきまで本体ちゃんになりきってたからか、口調がおかしくなってるじゃないの!?


 …


 さて、お見苦しい所を大変失礼したわね。


 改めまして、


 読者 各位


 いつも大変お世話になっております。

 平素は格別のお引き立てを賜り、厚く御礼申し上げます。


 さて、この度、本物語の主人公のひとりである本体ちゃんの代わ…


 はっ


 さっきまで本体ちゃんの会社にいたから、冒頭のご挨拶がビジネスメールに!?


 …


 すーはーすーはー


 あ、ごきげんよう、ドッペルです。冒頭の挨拶に200文字以上使って申し訳なかったわね。


 えーと、


 なんでこんなに色んな影響を受けてるかと言いますと、前回まで読んで下さるかしら?(混乱中)


 簡単に言うとね、


 風邪ひいた本体ちゃんの代わりに、私、ドッペルが出勤。本体ちゃんがアホに労力搾取をされてる事が分かって、色々仕掛けてから、無事に書類を作って提出してきて、アホ相手にガチ切れてから、風邪っぴきのフリして早退し、帰るところです(超ざっくり)


 お昼過ぎのこの時間帯、帰りの電車は随分と空いてるわねー。朝はすごかったけど、これなら座れるわね。


 久々にパンプスなんて履いちゃってるから、ちょっとキツかったのよ。


 私が本体ちゃんの元に来る前、一個人として生きてた頃はね、某地方展開の大きめの会社で、バリバリにキャリアのウーマンやってたから。パンツスーツスタイルでパンプス履いて、どこまでも運転して営業してたものだけどもね。


 懐かしいわねー。こんな事務服着ていると、あの頃をちょっとだけ思い出すわ。


 まあ、感傷に浸るのもここまで。今はドッペルゲンガーなんだから、あの頃を思い出したってしょうがないわよね。


 電車がうちの最寄り駅に着いてからサッサと降りて。改札を出てすぐの所にある、前から気になってたスイーツ屋さんに寄っちゃったりしてね。


 風邪を引いている本体ちゃんのためにゼリーやプリンを買って、私には、自分ご褒美のちょっと良いフルーツケーキでも。その足でコンビニに向かって、茹でて仕上げるだけのおうどんを2つ買って。


 私たちのお昼はこれで良いわね。


 と、なんとなく棚を見上げると、栄養ドリンクがそこにあるわ。


 あら、どうかしら、これ。むしろ風邪の時は良さそうね。


 会計を済ませて、思ったより大量になったビニール袋をガサガサとさせて、帰路につくわよ。


 いつもはインターホンを押してドアを開けてもらうけど、寝ている本体ちゃんを起こさないよう、今日はそっとカギをあけて入る。


 キッチンに買い物の袋をドサリと置いて、リビングのソファにもたれちゃうわ。


 んー…


 どうと言うこともないと思っていたけど、やっぱり緊張したわね。座ったら、どっと疲れたわ…


 と、ベッドの方から、ガラガラした声が聞こえてきたわ。


『おがえり゛なざぁぁい~』


 あらあら、本体ちゃんが起きてきちゃったわ。今朝と同じでよれよれとした姿。The 風邪っぴきって感じね。


「ただいま。大丈夫よ、寝ててちょうだいな」


『ほんどにあ゛りがどぉぉ~』


「あの、鼻声が余計に酷くなってない? ちゃんと寝てた?」


『ん゛ん゛~寝でだ~ でもギヅイ~』


「あー… そうね、何回かLINEして悪かったわね」


『大丈夫ぅ゛~~ 質問の゛内容が不思議だったげどぉ~~』


「う… そ、それは… えーと… あ!あ!そうだ、お昼食べれそう? おうどん作るから食べてお薬飲みなさいな」


『う゛~~~たべる゛ぅぅ~~』


 あー、なんかこれはもう最高潮だわね。寝るしかないのよね、ここまできたら。


 さて、私も事務服からルームウェアに着替えてっと。さっきの袋からおうどんを取り出して、水を入れて煮立たせる。喉がつらそうだから、ネギ多めに追加しておこうかしらね。


 少しして、おうどんがぐつぐつと煮あがったころ、鼻をズルズルさせてる本体ちゃんが、リビングのソファに居るのが見えた。


 出来上がったおうどんを目の前においてやると、半分泣きながら、ゆっくりと食べ始める。


『味゛がぜんぜんわがんない゛よ゛ぉ~』


「あーあーあー」


『ぜっがぐ作ってもらったのに゛~ 美味しいはずのおう゛どんなのにぃ゛~』


「まあ仕方ないわね、栄養を取る事の方が大事よ。しっかり食べなさいね」


『う゛~~… えっぐ、えっぐ…』


「いや、泣かなくてもいいでしょ」


『ぶぇぇぇ~~~』


「いや、本格的に泣かないで?」


『味゛がじない゛よぉ~ ぶぇぇぇ~ 悲じいよ゛ぉぉ~~~~』


「どのポイントで泣いてんのよ」


『食゛べるげどぉ~』


「はいはい、泣かないで食べなさいね」


 嗚咽を漏らしながらおうどんをすする本体ちゃんを眺めていると、さっきついでに買ってきた栄養ドリンクを思いだす。ささっと取ってきて、目の前に出してやるわよ。


「ほら、栄養ドリンクも飲んで」


『風邪のどぎは飲ん゛じゃダメなんじゃ無い゛の゛ぉ~?』


「え? そうなの? 葛根湯よこれ。あったまるわよ?」


『大゛丈゛夫゛がなぁ~?』


「カフェインかしら… ダメなのは。ああ、これは大丈夫ね、ノンカフェインって書いてあるわ」


『あ゛あ゛~、ぞうな゛んだぁ~、飲まぜでもらうね゛ぇ~~』


「はい」


 うどんを食べ終わってから、パキパキと音を立てて蓋を開け、ぐっと飲んでいる本体ちゃん。


 うえーーーっと不味そうな顔をしてから、寝るぅ~…と呟いて、フラフラとベッドに戻ったわ。


 それを見届けてから、私も手早く食べ終え、洗い物を始める。


 あー… それにしても…


 さっきまでの会社の事を話すのは、明日でいいかしらね。まだまだ辛そうだし、余計なことを話せば熱が上がりそうだわ。


 洗い物を終えてコーヒーをいれ、ソファに座ってひと息入れつつ、PCのスイッチを押す。


 ここ2日間は、自分の仕事を疎かにしていたからね。そろそろメールチェックや依頼確認をしなきゃだわ。


 立ち上がったPC画面で、メーラーのアイコンをカチカチっとクリック…


 ん?


 …


 …


 …


 ぎ、ぎ、ぎ、


 ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!


 なんなのこのメール件数!? すすってるコーヒーも吹き出しそうになったわよ!?


 うわ… や、やんなきゃ… こなさなきゃ…


 皆様… また来週… ね…


 ぴえん

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