代打ドッペル、予習します!

 ごきげんよう、ドッペルです。

 本体ちゃんは風邪で寝ております。ご了承くださいませ┏●


 詳しくは前回をお読み頂ければと(宣伝)


 いや、話が進まないので一言で説明すると、本体ちゃんは風邪をひきました。


 金曜日に断捨離の打ち上げ(?)ではしゃぎすぎて少しずつ風邪の感じになって、昨日、土曜日にヒドイ事になってるわけです。


 本日は日曜日。月曜日から、本体ちゃんは大事な仕事で休めないとのこと。


 でも、とても治りそうもないわけ。声なんてガラガラだし、鼻もかみすぎてるせいで、真っ赤っかになっちゃってるし。


 つまりね?


 同一人物の私、懇願してくる本体ちゃんの代理で、仕事に行く事になるわけです!



 よくですね、ドッペルゲンガーもののストーリーでは、


 双子とかもう1人の自分とさ?

 学校やら会社やら交換してさ?

 そこでトラブってさ?

 激しめなストーリーになっていく


 みたいな事ありそうじゃない?


 …


 私はね、穏便に(?)入れ替わりたいだけで、そんなハチャメチャストーリー、望んでないわけよ!


 本体ちゃんの大事な仕事だけこなして、風邪アピールして休めそうに仕向けて、なんとか早退に持ち込んで、やり過ごす!


 これが、一般的に最大の目標よ!

 ドッペルゲンガーが一般的ではないけども!

 でも、無難に過ごしたいのが心情じゃない!?


 で、


 その為に何するって、まあ、予習よね。この子の仕事のこととか、全く聞いたことないし。


 どうやったらいいかって、本人から聞くしかないけど

 も、体調悪くて寝てるこの子に、どうやって聞けと?


 えー…どうしようかしら…


「いやぁ… 困ったわね… 何を勉強しておけばいいのかしら…」


 独り言を垂れ流していると、半分寝ていた本体ちゃんがくるりとこちらへ寝返りをうち、話しかけてきたわ。


『ドッぺルざぁぁん~… あ゛のぉ~…ケホケホ』


「無理しないで、寝てなさい」


『ちがくでぇ~… あ゛のぉ… あだじの仕事バッグにぃ…』


 いつも仕事帰りにソファに放り投げる、A4サイズのトートバッグを指さしているわ。私はそれを本体ちゃんの近くまで持ってきてやる。


「これ?」


『えっどぉ~ この゛中にぃ~ い゛ろい゛ろ資料と見積案があるよぉ~…』


「あら、とりあえず見るわね」


『本当は゛ぁ~、会社以外の人に見ぜぢゃ、ダメなんだけどぉ…』


「まぁ致し方ないわ。一応、私、あんただし」


『例外中の例外ぃぃ~…』


「ドッペルゲンガーの前例なんか無いでしょ」


『お願いじまずぅ~…』


「はいはい」


 喋ると疲れたのか、また目を瞑って眠りに入る本体ちゃん。毛布をかけ直してやり、さっそく仕事用バッグを見てみる。


 どれどれ…


 クリアケースに入って揃えられている、見取り図の様な図面書類が5~6枚。


 右端に、この子が勤めてる会社では無い、別の会社の名前が印字されている。


 なるほどね… 相手先から貰ったこの図面を元に、概算を出してるのね。


 図面の他には、暫定で作ったであろう見積書が添えられているわ。二重線や丸なんかの走り書きが多数あって、本体ちゃんならではの、癖のある丸文字で、数字の訂正を繰り返した跡がある。 十数行ある各項目の小計に小丸が書かれて、合計金額を大丸で囲んでいるわね。


 なるほど。専門的な内容まではわからないけど、提出する概算は出来ているようね。このデータは会社にあるはず。入力をし直して、印刷するだけの段階のようだから…


 これなら内容が分からなくても、すぐに準備できそう。良かったわ!


 それにしても…


 本体ちゃん、意外と仕事はちゃんとしてるのね… いつもボーっとしてるから、正直、とても驚いてるわ。普段は計算なんかできなぁい~☆みたいな感じなのに。


 それから、


 この子、事務職のはずなのよね…? なんでこんな営業みたいな事してんのかしら? 代理で入力印刷くらいは作る事はあっても、どうやら専門的な概算までしてるのは、仕事の範疇外なのでは…?


 まあ、今は考えなくてもいいけども。 とりあえず、軽く確認だけしておかなきゃ。


「寝てるところ、ごめん」


『ふにぃ~~…?』


 私に声をかけられ、薄く目を開けてこちらを振り返る本体ちゃん。まだ顔が赤いわね。治りそうもないわ…


「この修正した感じの計算を入力して、印刷すれば大丈夫ね?」


『う゛ん~ そう~ さすがぁ~ 飲み゛込むの早ぐでぇ~ だすかるぅ~』


「専用システムかExc〇lか… わからないけど、データのある場所を知りたいわ。取引先の担当の名前と連絡先も… あと、会社の仲の良い人を教えて貰えれば。後は具合悪いフリして、何とかしてくればいいわね」


『わがっだぁぁ~デスクの色々も教えるぅ~』


「ありがと。辛いだろうけど、もう少し頑張って教えてちょうだい」


『ドッペルざんも゛ぉ~頑張っでぇ~お願い゛~~』


 喉が痛くて話すのも辛いのか、無口に戻るこの子、バッグからゴソゴソとノートを取り出すと、デスク周りのことや、人間関係について書き出しているわ。


 少しずつ少しずつ書き埋まっていくノートを見つつ、ぜぇぜぇと息をしているこの子が、少し可哀想になってくる。


「書くのも疲れるでしょ? 軽くでいいわよ」


『あ゛う~~…』


「ね、見積を作って届けて、とりあえず挨拶してくればいいわよね? 詳細の説明は無理だから、風邪ひいたフリしてすぐに客先から出るわ」


『ぞれでぇ~、だいじょうぶだと思う~~…』


「そんで会社に戻ったら、そのまま早退してくるわ。そうすれば、火曜日も休める流れになるでしょ?」


『わがっだぁぁあ~ ありがどおぉぉ~』


 ぺこりと頭を下げる本体ちゃん。いつもこんな姿勢とらないから、本当にびっくりするわ。


 そして、枕元に放り投げていたスマホをいじりだして、写真を何枚か、私のスマホに転送させてきた。


 直属の上司、同じチームの先輩、仲の良い同期、関わってる案件の本来の営業さん。


 本体ちゃんが指をさして説明してくれる。どうやら会社でふざけて撮った写真のようね。おふざけも、こんな時に役に立つわ。


 うーん、なにかあったらこの4人にきけば、なんとかなりそうね。


 本体ちゃんは取引先の連絡先なんかをノートに書き写し、私にそれを手渡すと、力尽きて寝ちゃったわ。


 数ページに書かれたメモを読んで、頭に叩き込んでおこう。


 よし、何とかするしかない!いまこそ、ドッペルゲンガーの利点を生かすとき!


 あ、


 その前に、この子に夕飯作らなきゃね。おうどんでいいかしら。

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