反撃開始!

 皆様ごきげんよう、ドッペルです。私はご機嫌がよろしくないですけども。


 まあ、私いま、本体ちゃんの代わりに会社に来てます。そしてトイレでムカついてます。


 詳細は前回をご覧下さい。ムカついてますので。だいぶムカついてるわ。大人を自認してる私がムカつくくらいよ。あームカつく。


 しかし、策を練るのであれば、冷静にならねばいけないのよね。


 さあ、深呼吸して平静を取り戻すわよ。


 スーハースーハー

 スーハースーハー


 よし、アンガーマネジメント完了。


 …ふっ


 自分の顔がニヤリと歪んでいくのがわかるわ。やってやろうじゃないの、あの営業野郎…


 本人は気づいてないとしても、今までの仕打ち…


 反撃開始よっ!!!


 自分のデスクに戻って、さっき探っていたデータのフォルダを見直すわ。とりあえず、今回の見積もりに関連性のありそうな書類を探して…


 ふぅん、沢山あるわね。図面データに、材料の仕入れ価格の一覧。作業をする社員の候補一覧。なるほど、各項目のデータを出しているわ。


 うーん、共有してる感じじゃないわね… 本体ちゃんだけで管理してるわ。


 それ以前も、同じような工事名のフォルダが並んでいるわ。


 なるほど、これ、以前からも押し付けられているのね。そして、営業野郎の手柄になってたわけね。


 …よし、それなら、今回の見積もりを利用してあげようかしら。


 案件の書類をパパっと流し見る。素人考えかもしれないけど、もっと効率的なやり方もちょっとだけ思いついた。これを利用してやろうじゃないの。営業野郎に渡して、上司さんの承認を貰う前でよかったわ。


 見積もりを印刷して、却下されても支障のない範囲で、訂正案の書き込みをいれる。それを持って、上司さんのデスクへちょこちょこと歩いていく。


「お忙しい所申し訳ありませんー」


 書類をチェックしている上司さんが顔を上げ、温和な顔でこちらを見てくる。威厳があるけど、穏やかな感じの人だわ。


「どうかしたのかね?」


「先程、営業さんと確認しました見積書の事で、ご相談がありましてぇー、今一度確認しましたらぁ、変更したい所がございますぅー。一緒にご確認頂いて宜しいでしょうかぁ」


 私ったら、本体ちゃんの真似が上手くなってきているわね。ゆっくりした間延びしてる話し方なのに、適度に敬語を混ぜ込んで、非常識と思われないように。


 職場ではしっかりしているような本体ちゃんの事、恐らく敬語はできるはず。


 我ながら名演技ね。


 私が差し出した書類を上司さんが眺めると、少しだけおやっ?とした表情に変わった


「ん? これは… 君の担当ではないはずだが? なぜやっているんだい?」


 ふふ… よし、かかったわね。少しずつ含み込んでやろう。


「そうなんですがぁー、先方様との打ち合わせ内容で疑問がありましてぇー。こちらの積算の方が両社に負担が無いと思うのですぅー」


「打ち合わせ? 君、同行したのかい?」


「へ? 同行したというよりぃー、私が一人で行きましたぁー」


「なんだと? 営業部のあいつは?」


「さぁ… わかりませんがぁー、私が毎回してますしぃー」


 どんどんと眉をひそめていく上司さん。顎に手をやると、少し考え込んでいる。


 あら、チームの先輩が様子を見に来たわ。少し違う雰囲気を感じとったのかしら?


「聞こえていたのだけど、貴女がずっとこの仕事やっていたの?」


「そうですよぉー? でもぉ、営業さんにぃ、これも事務の仕事だろって言われてますからぁー」


 上司さんと先輩さんが顔を見合わせる。どうやら長年のコンビなのね、それだけで意志を通じているよう。


 二人がこちらを振り向くと、上司さんは温和な顔に戻っており、優しげに声をかけてくるわ。


「なるほど、よく分かったよ。報告ありがとう。とりあえず、その見積もりは私が確認しよう。見せてくれるかい?」


 ふふ… 良い感じね。自然に、事が暴露されるように仕掛けていくわよ。


 書類を上司さんに見せると、眼鏡をかけて、真剣な顔で読み込んでいく。


「…よく出来ているね。訂正案も良いかと思う。これで承認しよう。それから、この案件は以前から先方との仕事を把握してないと、ここまで進められないはずだが… 以前から君が担当していたのかい?」


 キターヾ(°∀° )/ー!


 仕事の出来る人は、そーゆー所にまで考えが及ぶのよ! 先に上司さんを味方につけておく作戦、成功ね!


「そ、そうですぅー… あのぉ、私ぃ、何か悪いことしましたでしょうか…」


 少し謙虚なかんじを見せて、よく分かっていないフリをする。これでもっと、上司さんの気を引けるわ!


 上司さんはチームの先輩さんに声をかけ、以前からの関連書類を出してきてもらってきた。私の前に広げ、ひとつひとつを指さしてきた。


 あ、やば、以前のは分からないわ… どうしましょ?


 ん?


 あ、いや、これ… 昨夜、本体ちゃんのバッグに入っていた資料のひとつだわね。 念の為に読み込んで、質問しておいたんだったわ。


 よし、いける。


「あ、こちらは以前、修正いたしましてぇー、先方さんとの電話会議でしたぁ。営業さんはいつも不在ですのでぇー、いつも代理でお話させて頂いてるんですぅー」


「ほう…」


 その後も色々聞かれたけど、本体ちゃんの説明で理解していたのが幸いしたわね。繋がるように話をする。


 さすが私だわ!


 何点か質問に答えると、上司さんは確信した様子で眼鏡を外し、私に書類を返しながら声をかけてくる。


「ありがとう。この担当欄だが、営業部のあいつの名前ではなく、君の名前に変更してきてもらえるかな? 書き込みしている部分を反映してもらって、それに承認印を押すよ。 体調が悪いのに、手間をかけてすまないね」


 上司さんがそう言うと、先輩さんが横からフォローするように、優しげに話しかけてきた。


「体調悪いんだよね? どうしても代わりになれないから… 提出に行かせてごめんなさい。今日の半休と明日も休んでちょうだい。有給にしとくからね、お大事にね」


「ありがとうございますぅー」


 私は大袈裟にぺこりと頭を下げると、自分のデスクに戻ったわ。 さて、担当者名変更をしないとね。


 ふふ… ふふ… ふふふ…


 勝ったな(ゲン〇ウポーズ)


 私はご機嫌良き良きよ、今。完璧に流れを作ってやったもの。


 ふふふふふふ…ほほほほほ!


 はっ、心の中で高笑いする前に、書類を印刷しないと!


 さて、この後は承認印を貰って、取引先へ行くだけね。終わりも見えてきたわ。


 そして… ふふ…


 取引先から帰ってきた時が見物ね… くくく!

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