一体なんなの!?

 こんにちは、ドッペルです。ご機嫌麗しゅう。


 私はと言うとですね、本体ちゃんの会社に来ております。


 まあ、よくある流れでね? ドッペルゲンガーが、本体の代わりに仕事に来るっていう。


 いやいや、よくある流れでたまるか!!!(ノリツッコミ)


 前回で割と違和感は与えていると思うけど、まあ、気の所為としておくわ。顔なんか同じなんだもの、「あれ?これ、ドッペルゲンガー?」なんて気付く人がいるわけないじゃない、普通に考えて。


 いや、ドッペルゲンガーの私が言うなって声はスルーしますけど。


 でもね?


 私、穏健派なんでね、波乱は起こしたくないわけで。何事もなく! 終わらせるのが! 目標!!!


 よし、そうとなれば、しっかり仕事こなすわよ!


 …?


 ただただ、本体ちゃんが風邪をひいているだけなのに、この使命感はなんなのかしら? 我ながら謎すぎる…


 まあ、とりま、早く帰って落ち着きたい! やるわよ!


 さて、立ち上げたPCを操って、教えられた共有フォルダに行って…


 カチカチカチカチ…


 えーと、このExc〇lファイルね。開いてっと…


 え、何このマクロ。なんとなく使い方は分かるけど… とりあえず入力してみたけど、これで正しいのかしら…?


 えーと… よし、隣の席の同僚さんに聞こう。


「あ゛ーの゛ぉー、ねぇー、このマクロぉー、これで大丈夫ぞう゛ー? みてみてぇー?」


「ん? 自分で組んどいて、何言ってるん?」


 えええええええええ!?

 本体ちゃんってマクロ組めるの!?


 びっくりしたわ… なんか色々と驚いた…


 えーと… とりあえずこれで良さそうね…


「あ゛、あ゛、大丈夫ー」


「なんか今日、熱でやれてるっぽい? マジで早く帰った方が良くね?」


「そ、そうだねぇー、そうするー」


 本体ちゃんの、普段とのギャップにクラクラしつつ、走り書き通りに数字を変更して、印刷をかけて、間違いがないかチェックして。 同僚さんにも数字チェックをしてもらって、とりあえず大丈夫そうね。


 ふむ… 今のところはなんとかなってるわね。クラクラしてるけど。


 さて、本体ちゃんのお仕事メモを思い出し、こと後は上司さんに捺印をもらわなきゃいけない。


 この会社は、まだ捺印が現役なのねぇ。電子署名なんて、まだまだなのかしら? さて、とりあえず報告しなきゃ。えーと…


「おい」


 印刷した書類を持って立ち上がろうとすると、さっき同僚さんが話しかけていた営業さんらしき男の人が来た。頭上から小声で話しかけられる。


「それ出来たんだろ? 寄越せ」


 ………?


 は? え? なに? 寄越せ? 何言ってるの?


「風邪ひいたとか、体調管理が悪すぎだろ。いつも通りにしろよ。俺が報告してくるから待ってろよな。余計な口出すなよ?」


「え゛?」


「え? じゃねぇよ。俺が承認もらったら、お前が先方に出してこいよ? それ終わったらいくらでも帰っていいから」


 ……………………………?


 は? なにコイツ? 上から偉そうに。しかも見積もりを作ったのは本体ちゃんよね? ふざけてるわ。


「まだぢょっと確認するとこあるのでぇー、もう゛少じしだらー」


「なんだよ、早くしろよな」


 舌打ちしながら場を離れる営業さん。 もとい、営業野郎。


 は?


 ちょっとトイレの個室に隠れて、本体ちゃんにLINEして確認してこなきゃ。


〈ちょっといい? LINEできそう?〉


《大丈夫ぅ('ω'○)》


〈写真見せてくれた営業の人に、あんたが作った見積を寄越せって言われたんだけど〉


《あれぇ? 俺は時間ないからやっとけって、渡されたんだけどなぁ?(˙꒳​˙ )???》


〈え? 元々はこの人の仕事なの?〉


《そうだよぉ~( ゚ー゚)ウ ( 。_。)ン》


 なんか、きな臭いわね… 本体ちゃんは事務員だから、見積もりの入力の手伝いはする事はあっても、概算からやったりはしないと思ったけど…


〈え? 渡していいの? 余計な口出すなとか言ってるわよ?〉


《代わりにやっただけだしぃ~? いいよ~(˙꒳​˙ )???》


 まって、この子… おかしいとも思ってなくない…?


〈もう一度聞くけど、取引先と打ち合わせしたり、概算したの、全部あんたよね?〉


《そうだよぉ~ すごいでしょぉ~?(˙꒳​˙)ウン!!》


〈え、それで、出来た書類だけ他の人に渡しちゃうの?〉


《事務ってぇ~、そうゆうものじゃないのぉ~(˙꒳​˙ )???》


〈いや、違うわよ…?〉


《そうなのぉ~?》


〈とりあえず、寝てるとこ邪魔して悪かったわね。ゆっくり寝てちょうだい〉


《(*・∀・*)ノ はーい》


 スマホをポケットに仕舞いつつ、私は悟ってきたわ。


 なるほど… 本体ちゃん、この営業野郎に、常々仕事を押し付けられてるわ。 しかも成果を横取りされてるのに、全く気づいていない。


 へーえ


 ふーん


 ほーん


 …


 うん、そうね


 シンプルに


 ものすごく


 ム・カ・つ・く!!!!!!!


 あと!


 それに気付かない、あの子もあの子よ! あるある~とか、そーゆーレベルじゃないわよ!? 書類データもしっかり使いやすく組めるくらいの実力があるんじゃない!? ちゃんと評価されなきゃ、私の気が済まないわ!!


 なんたって、私の本体なのよ!? バカを見させてる場合じゃないじゃない!?


 ああ、肩がワナワナと震えてくるわ。久しぶりに、ここまで怒りが湧いてくる。


 狡い奴には天罰を。 頑張っている者に祝福を。


 よぉし…


 私がここに来たのもなんかの縁だわね。


 穏便


 かつ


 大胆


 かましてやろうじゃないの…っ!


 まずは裏を取らないとね、くくく… 面白くなってきたわ… あの営業野郎のムカつく顔面、思いっきりクシャクシャに泣かせてやろうじゃないの。


 ほほほほほほ!



 はっ!


 あ、うん、ちゃんと仕事はこなしてからね?

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