レシートは取っときなさい!

 昨日は、自分でびっくりするほど取り乱したわ…


 なんであんなんなっちゃったのかしら。私のこだわりってゆーか、トラウマが爆発しちゃったわね…


 あ、申し遅れました。いつものドッペルゲンガーでございます。


 うん、簡単にドッペルゲンガーって言ったけれども。だってドッペルゲンガーなんだもの。


 ドッペルゲンガーなんだもの(しつこい)


 そういえば、ドッペルゲンガーってなんなのかしら?


 私の運命ってゆーか、使命だと思って受け入れてたけどもね。私は私で、あの子はあの子よね…? 全く同じ姿形だけど、趣味も好みも性格も、育ち方が全然違うのは実感したわ。


 入れ替わるって、一体なんなのかしら? その後って、どうなるのかしら? あの子になるのか、私になるのか。それとも、全く別の「私」が出来上がるの?


 そもそも、入れ替わる事の意味ってなに? ちゃんと考えたこと無かったわ…


 はっ!


 いやいや、そんなことは考えても仕方ない!私は使命を果たさないといけないの!だから、あの子を知る必要があるのよ!その為に、この同居は運命なの!


 って、なんのディスティニーよ!


 ……


 ふぅ、暴走の末の一人ノリツッコミも虚しいわね。


 とりあえず、今はこの生活をなんとか安定させて、入れ替わった後の生活を確保する事に集中集中! そして、老後を快適に過ごす礎を作らなきゃだわ。


 我ながら、長いスパンで考えてるわね…だって人生設計は大事だもの。


 私って日本戸籍が無いし。実は今までちゃんと別個体としてはあったんだけど、入れ替わり前に、偉い人に抹消されちゃったばっかりだし。


 そりゃ、普通の人より敏感になるわよねぇ。


 うんうん。


 あ、無理やり話題変えるわね?


 昨日のケチャップ騒動で忘れてたけども、昨日した買い物のレシートを整理しましょう。大事なの、すごく大事。統計記録大好き人間としては、超大事。


 ん?整理?


 そういえば、私が来てから買い物をした分のレシートは全部取ってあるけども。あの子、家計簿なんて付けてないわよねぇ…ってか、見たことないわ


 ここらでいっちょビシッとやってやるわ!


 仕事から帰ってきてソファでゴロゴロしているあの子の前に、仁王立ちして聞いてみたわ。


「ちょっと、なんかノートとか余ってない?」


『え~と~たしかぁ~、大学時代に使ってたの~、どっかにしまってた気がするぅ… 何するのぉ?』


「あんたの事だから、家計簿つけてないでしょ?」


『家計簿ぉ? ナニソレ? 美味しいのぉ?』


 来たわ、予想通りね。予想通りすぎて怖いわ…!


「やっぱりね…レシート整理したいのよ」


『えぇ』


「え」


 きた、お決まりのパターンだわ。この反応こそセロリタイム。


『レシートってぇ…とっとくのぉ?』


「いやぁ、細かくはとっておかないだろうけど」


『ってゆぅか~、受け取るのぉ?』


「あ、そこから?」


 まぁ、どこのお店だってレシート捨てる所あるものね…取っておく方がレアパターンかしら? でも、私は引かないわよ!


『お財布パンパンになっちゃうよぉ』


「整理すればいいだけの話じゃないの」


『ええ~、それで家計簿ぉ?』


「そうよ、節約するっていってたじゃない?」


『ええ~むりぃ~』


 ソファでうつ伏せになって、足をバタバタはじめる本体ちゃん。私は腕組みをして、つい見下ろしてしまうわ…


「なによあんた、不満そうね」


『やだやだぁ、めんどくさーい』


 腕までバタバタしだす本体ちゃん。クロールの練習してんのか!って言いたくなるんだけど。


 よっし、更にたたみかけていくわよ。


「あんたはレシート出すだけでいいの、私がまとめるから」


『いいよ~やんなくていいよ~』


 ついに、全身でバタバタして拒否を示し始めたわ。なんの動物かしら? 捕獲された海老?


「なんでそんなに拒否するのよ?」


『だってぇ、レシート受け取らなきゃいけないんでしょぉ?』


「そりゃそうよ、元データ(?)になるんだから」


『少しでもぉ、お財布にレシートあるの嫌なのぉ~』


「少し我慢して、1日の分を私に渡せばいいでしょ」


『やだぁ~めんどぃよぉ~やだぁ~』


 バタバタする全身を止めて、ソファ手足をつっ張り出した本体ちゃん。なんの真似なのかしら? 病院行く前の猫?


「駄々っ子かっ!」


『やだやだやだぁ~!』


 話してるうちに、立ってるのも疲れてきたわ…


 ソファにしがみつく本体ちゃんの首根っこを捕まえてソファから剥がし、代わりに私は座ったわ。


 フローリングにゴロゴロしながら、またバタバタしだすこの子。なんなの、なんなのよ? なんなら恐怖すら覚えてきたわ。


「わ、わかったわよ、こうしましょ。あんた家計簿アプリいれなさい」


『家計簿アプリぃ?』


「そう、レシートの写真撮だけでいいやつ」


 バタバタする手足をピタッと止めて、こちらを向く本体ちゃん。 一挙一動が不審すぎるわね。まあ、聞く体勢になったらしいけども。


『ほむほむぅ~』


「それ撮ったら、レシート捨てちゃっていいから。あとは私が管理するわ」


『おー、それならぁ… すごーーーくメンドイけど、やるぅ』


「本当はレシート、つまり元データ(?)ごと取っておきたいんだけどねっ 駄々っ子が嫌がるからね!」


『ドッペルさん、細すぎて草ぁ~』


「うるさいわ!」


 ああ、お互いに一言多いわ!


 ふと、思いついた事を、ポロッと言ってしまう。


「リアルタイムに共有できればいいんだけどねぇ」


『リアルタイムぅ?』


「いやほら、私は在宅ワークに切り替えたし。データさえあれば、いつでも整理できるから、あとで面倒が無くなるのよね」


 ソファで腕組みをする私に、立ち上がった本体ちゃんは、私の顔を覗き込んでくる。


 なに?なんなの?こわ!


『そーいえば~、ドッペルさんってスマホないよねぇ?』


 愚問だわね。まあ、考えてみりゃ分かる事だけど。


「そりゃそうねぇ、ここ来る前に解約したもの」


『契約したらぁ?』


「いや… 私、偉い人の力で戸籍抹消されてるし… 契約すらできないわよ」


『じゃぁ~、スマホもう1台買おっかぁ? あたし名義にすれば買えるよね~?』


「そうして貰えると助かるけど… 仕事でも使うし…」


『そうと決まれば、買いに行こ☆』


「一緒にはいけないけどさ… 代わりにお願いするわ」


 ソファに腰掛けたまま頭をペコリとする私に、本体ちゃんはピョンピョン飛び跳ねだした。


『ちゃんと払ってねぇ~☆ その為にしっかり働いてね~☆ 稼いでね~☆』


「はぁぁぁ!? 働いてるわよ! だからちゃんとレシート撮って送りなさいよね!!」


『あはは~☆ わかったぁ~☆ 頼りにしてるぅ~☆』


 はぁ… 疲れた…


 いや、スマホの件はものすごく助かったけど。


 いつの間にか、この子のペースで動いちゃうのよね… 毎回思うけど… 入れ替わる自信が…無くなる…


 そしてその代わり…どんどん居心地が良くなる!


 もおおおおおおお! どうしたらいいのよぉ! ドッペルゲンガーは脅威にならないといけないのに!


 お世話になりっぱなしなんだけどぉぉぉぉ!?

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