うちの子を…!

 こんにちは、皆様。

 毎度のドッペルゲンガーです。


 今、私はといいますとね、碇ゲン○ウみたいなポーズで、あの子を眺めております。あ、眼鏡はかけてませんけど。光ってもいませんけど。


 話が逸れたわ…


 なぜそんなポーズでいるかと申しますとね。


 本日は休日ですのよ。前回に引き続き、休日ですのよ。


 なのに!


 朝からね、本体ちゃんが、明らかにいつもと違うのよ。 いつも寝癖付けたままでボーッとしてるくせに、わざとらしい鼻歌をフンフンって漏らしながらシャワーを浴びて、髪を巻いちゃったりなんかして、フワフワなオサレ女子になっていくのよ。


 そう、その様を、ゲ○ドウポーズでずっと見続けているわけです。


 だって、そうよ、なるほど… 男か… デートだな…!


 勝ったな… ああ…(?)


 閑話休題。


 もちろん、人の恋路に口を出すつもりはないわよ? ドッペルゲンガーといえど、そんな野暮な事はいたしません。


 しかし、しかしだ… 私はね、この子と入れ替わる予定なの。


 ねえ、皆様。 これがどーゆー事かお分かり?


 そう!


 この子に彼氏が出来るということは、入れ替わった後、私の彼氏にもなるってことなのよ!!(バァン!)



 これは見過ごしておけないわ! 私のお眼鏡にも適う相手じゃないと! ○ンドウポーズにもなっちゃうでしょ!?


 まあ、ほら? 恋愛は細胞レベルですると言う話を聞きますから? DNAから細胞から同じであろうこの子と私は、おそらく、好きな男性のタイプは一緒のはずよね?


 そこは信用してもいい…?


 いいの…かしら?


 うーん…


 …よし、念の為、カマかけて確認しておこう。


 ゲンド○ポーズを解除して、わざとらしい笑顔を貼り付けて、一生懸命メイクをしている本体ちゃんの横から声をかけてみるわよ。


「あらあら? オシャレしてどこいくの?」


『んん~?んふふふぅ~☆』


 はい、この感じは確定ね。男だわ。他ならないわ。


「なによなによ? デート? デートなの?」


『ち、違うよぉ~☆ そんなんじゃないよぉ☆』


「ははーん? 付き合う前のお出かけかしら?」


『あーん~、違うってばぁ☆』


 ファンデーションをパタパタしながら、嬉しそうに答えてくるわね。ちょっとこれ、止めないと厚塗りになるわよ。


 気を取り直して、カマかけ再開。


「最近、スマホ見ながらニヤニヤしてたわよね?」


『えぇ~? バレてたのぉ?』


「何言ってんの、バレバレよ? ね、どんな人?」


『えへえへぇ~、見るぅ?』


「あ、見る見る!」


 近くに放りっぱなしになっていたスマホの写真ホルダーを探し出す本体ちゃん。

 うん、ファンデ厚塗りになる前に止めれて良かったわ。


 1枚の写真を表示させて、本体ちゃんは私の方に画面を向けてくる。


『この人ぉ~☆』


「…ん?え?ほう?え?」


 画面には、ほんわか系の少し肉付きの良い、人の良さそうな男性が表示されていたわ。


 あ…れ…? おかしい…わね…?


『かっこいいでしょぉ?☆』


「いや、うん、いいと思うけどさ…」


 恋愛の細胞レベルの話…は…?

 私たち、DNAから同一人物…のはず…?


『あれぇ~? なんか不満なのぉ?』


「…いや、私達って、同一人物じゃない?」


『そうだねぇ~』


「好きなタイプは一緒だと思ってたのよ」


『言われてみればぁ~そうかもぉ~?』


 さあ、声を大にして言うわよ。

 セロリタイムとかいう問題じゃないわ。もっと壮大な価値観の違いについて議論しようじゃないの。





「全然違うわね!!!!!」


『あ、違うんだぁ~?』





 ふう、言ってやったわ。まあ、ノンビリした返事しか来なかったけど。さあさあ、私の価値観を叫ぶわよ!


「私はね!もっとこう、お金なんか無くてもいいから!線が細くて美形で2.5次元の人が好きなのよ!」


『あ~、そうなんだぁ? あたしはぁ、ほっこりした普通の人が好きぃ』


「私と逆じゃないのよぉぉぉ!?」


『ドッペルさんの趣味は破壊的ぃ~☆』


「いいのよ! 私が稼げるんだから! なんなら養う事も辞さないわ!」


 はあはあと肩で息をしながら、思いっきり言ってやったわ。


 その横で楽しそうにしながら、眉毛を書き出したわよ、この子。大物にも程がある…


『あのぉ、落ち着いてぇ? ってゆーかぁ、今の発言とかぁ、自信がないと出てこないよぉ? 今までどんな生活してたのぉ?』


「秘密よね!」


『謎すぎて草ぁ~☆』


 ブラシで書いた眉毛を整えながら、余裕そうにメイクを進めるこの子に、私はもう我慢ならないわね!


 すくっと立ち上がって、この子の前に仁王立ちして、ビシッと言ってやらなきゃ!


「とにかく!この人は認めません!」


 アイシャドウをささっと塗りつつ、本体ちゃんがヤレヤレって顔でこっちを向く。なんかちょっと腹立つわ。


『あのぉ、さっきから言ってるけどぉ、違うんだってばぁ~』


「何が違うのよ!?」


『デートじゃないんだってばぁ』


「どの口が言うのよ!?」


『だってこの人ぉ、ミュージシャンだよぉ? 畑トモヒロってゆう』


「はい?」


 ん? 話の風向きが変わってきたわね? あれ? ミュージシャン?


『ライブ握手会に行くんだよぉ~☆』


「え? あ? は?」


『推しに会えるんだからぁ~、ちゃんとお化粧してぇ、綺麗なカッコしていかなきゃでしょぉ~?』


「あ、推し?」


『もう~、はやとちりするんだからぁ~☆』


「ええ…? だって、私、知らないわよ…?」


 あ、そういえば、隅っこに積み上がっている音楽雑誌… それからY○uTub○の履歴… なんか見たことある気がしてきたわね…?


 過去の記憶を引っ張り出してると、メイクをまた再開した本体ちゃんが、余計な一言を放ってきたわ。


『ドッペルさん、シャニーズしか見てないからじゃなぁい?』


「そんな事ないわよっ! てゆうか、なんでシャニーズ好きなの知ってるのよ!」


『バレバレだしぃ~☆ テレビとかこっそり観てるの知ってるしぃ~☆』


 ああああ!

 なんか全てを知られてるようで! 恥ずかしいやら! 怒りたいやら! ちょっと逆ギレしたくなってきたわ!


「ってか、紛らわしいわね!デートの雰囲気出てたわよね!?」


『あたし、デートなんて言ってませぇん~☆』


「あ…うん、言ってないわ…ね…」


『んもぅ~すぐにつっぱしるぅ』


「ま、まあ、うん、悪かったわね」


 逆ギレするものらりくらりされて、私ったら、立場がないわね…


 そんなこんなで、本体ちゃんはメイクが終わったみたいね。いそいそとバッグを持って、跳ねるように玄関に向かったわ。


『じゃぁ~今から行ってくるねぇ~☆』


「はいはい、いってらっしゃい。気をつけてよ」


『はぁい~☆』


 ふう…


 なんか色々間違えたけど、とりあえず彼氏の件は回避したわ。いや、そもそも回避とかいう問題じゃ無かったけど。私の勘違いだったけど。


 でも…まさか…好きなタイプまで逆だと思わなかったわね…


 これ、今後、あの子に彼氏ができそうとなったら、本当に死活問題だわ…!


 気をつけなきゃ…気をつけなきゃ!


 それとなく!シャニーズみたいな男性とくっつけなきゃだわ!


 ああああ!


 頑張るしかないわね!!

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