「これくらい」なのよ!

 さあさあ、今日も仕事よ! バンバン受注するわよ!


 昨日は疲れすぎてキャラ崩壊してたけど、一晩ぐっすり寝たら回復! 本体ちゃんにワケわからない事言われながらも朝ごはんをしっかり食べたし、またキリッと行くわ!


 提出したものに関しても、朝イチの担当からのメールを見たら、確認OKだったわ! よし、次よ、次! ガンガン稼いで行くわよ!


 ん?


 あー…仕事頑張りすぎて、本来の目的を忘れかけてる…わね…


 そうよ! 私の使命は入れ替わる事! そうだったわ、入れ替わらないといけないのよ!


 …ふぅ。


 まあ、稼ぐのが先よね… だっていつ入れ替わるかわからないし、貯金もあると入れ替わった後で楽だしね…


 そうなると、入れ替わった後も引き継ぐわけだし、本体ちゃんの仕事についても知っておかなきゃいけないわよねぇ…


 ああもう、やることいっぱいだわ。 人と人生を入れ替わるって、思ったより大変なのねぇ。


 怪奇現象だからって、ホラー気味にスっと入れ替わって、消えゆく本体を見ながら不気味に笑っていればればいいって訳じゃないわ。


 良く考えれば、その後の実生活はあるわけで。そう、怪奇現象も努力の成せる結果なの!


 ねぇ、ドッペルゲンガーのその後って映画とかないの? 参考資料ゼロなんだけど。 他のドッペル仲間の話は、私の場合においてはほぼ参考にならないし。


 ぐぬぬ… 頭痛くなってくるわ!


 はぁ~~~~。


 とりま、後で考えましょうか。


 さあさあ、気を取り直して! 今日も仕事のおとも、たくさん飲み物とお菓子を買い込んできたわ(?) 在宅ワーク開始ね!


 っと、その前に飲み物を冷蔵庫に…


 ん?


 冷蔵庫をあけてドアポケットを見ると、少しずつ残ってるオレンジジュース、コーラ、烏龍茶のペットボトルが占領してるわ。


 …


 なるほどなるほど… もちろん私ではないわ…


 本体ちゃん、許すまじ…!


 ああもう! 飲みなさいよ! これくらいなら一気に飲んで無くしなさいよ!


 ドアポケットのペットボトル達をどけて、まだ空いてる所へ無理やりいれてやる。どうせ野菜はお夕飯に使うから、野菜室をあけて… ここで良いわね。


 ドアポケットには自分の買いだめを入れちゃうわ。


 んもう! んもう! こーゆー所よ!


 まあいいわ、戻りましょ。 仕事仕事っと。


 ………



 そんなこんなで、夜になるのは早いわね。張り切って受注しすぎたわ。それはいいけど、打ち合わせも立て込みすぎよ。ワーカーホリックも考えものね。


 まぁ、その前にお夕飯作りましょ。気分転換にいいわ。今日は… ちゃちゃっと野菜炒めでいいわね。


 キッチンでフライパンを操っていると、インターホンが鳴ったわ。この時間なら本体ちゃんのご帰宅かしらね。


 案の定、モニターには本体ちゃん。ドアを開けてお出迎えよ。


『ただいまぁ~』


「おかえり」


『つかれたぁ~』


「夕飯にしましょ。野菜炒め作ってるわよ」


『やったぁ~! …んん~、なんか今日、乾燥してない~? 喉乾いたぁ~』


「あ」


 本体ちゃんが冷蔵庫に行って、ドアを開ける。ドアポケットに手を伸ばしかけて、あからさまにハテナって顔をしているわね。


『あれぇ? オレンジジュース、ちょっと残してたのがなぁいぃ~?』


「一口の飲みかけでしょ?」


『そう~。とっといたのぉ~。』


「飲みかけのやつは全部、野菜室にあるわよ」


『あ~、ホントだ~。りょーかーい~』


 本体ちゃんは野菜室の引き出しを開けて、積み上がったペットボトルの中から、器用に1本を取り出して飲み始めたわ。


 幸せそうに、はぁ~~なんて声出しちゃって、のほほんとしてるわね…


「ねぇ、あれくらいしか残ってないんだから、一気に飲んじゃってよ。ドアポケットを圧迫してたわよ」


『ええ~、美味しいから少しずつ飲むのぉ、楽しみなのぉ~』


「すんごく邪魔なのよね…」


『だってぇ。ちゃんと冷やしておかないとぉ、悪くなっちゃうぅ~』


 ぶんぶんと顔を横に振りまくる本体ちゃん。頭がもげる前に言い聞かせないと…


「私の飲む分がね、入れられなくなるのよ」


『んむう』


「私の方がこの部屋に居る率、高いのよ?」


『んむむむう…』


「あんたが飲んじゃえば済む話なのよ?」


『んむむむむむむむむむう・・・』


 珍しく本体ちゃんが腕組みをして、何かを考え出し始めたわ。 私も一緒に、ついつい腕組みしてしまう。


「なによ?」


『よぉし~!』


 手をパンっとならして、本体ちゃんが急に覚醒したわ。 なに、なんなの?


 と、予想外の言葉が飛び出したわ。


『ドッペルさん用の冷蔵庫を買えばいいよぉ~☆』


「は?」


『小さいやつぅ☆』


「ああ、卓上の?」


『要はぁ、ドッペルさんの飲み物が冷えればいいんだよねぇ~?』


「いやまぁ、そうはそうだけども… 今は物が片付かないって話をしていてね…」


『だめぇ~! 一口残すのはぁ、あたしがあとで楽しむためなのぉ! 楽しみは残すのぉ!』


「あ、そうなのね…」


『それにぃ、ドッペルさんもぉ、PCの近くにポンってあった方が便利でしょぉ~?』


「ま、まあ、それはそうね?」


 急にフンフンと鼻歌をうたいだして、本体ちゃんは跳ねるようにスマホで何かを検索し始めたわ。


『そうと決まったらぁ、あたしが明日、良いの調べて買ってくるねぇ~☆』


 またまた予想外のセリフに、私もタジタジよ。腕組みから一転、本体ちゃんを落ち着かせなきゃと焦ってしまうわ。


「あ、いや、私が自分で買ってく…」


『いーのぉ~! プレゼントするのっ!』


 本体ちゃんは被せ気味にセリフを放ってから、更にフンスフンスしながらスマホで検索しだすわ。な、なに?何を息巻いているのかしら?


「どうしたのよ急に?」


『たまにはお礼するね~っ!』


「はい?」


『あのね、ドッペルさんは頑張りすぎぃ~。だからたまにはぁ、あたしから感謝の気持ちぃ~!』


「あ、はい、うん? え? なんか、えーと、ありがとう?」


 うんうんと満足したような顔になって、いつもの脳天気な表情に戻る本体ちゃん。


 なんなのかしらね…?


『決めたらなんかぁ、お腹空いちゃったぁ~!ごはん食べよぉ!』


「あ、うん、そうね。お味噌汁あっためるわ」


『お手伝いするよぉ~! ごはんよそうぅ~?』


「そうね。テーブル拭いてから、ごはんよそって並べてもらえる?」


『おっけぇ~☆』


 着々とリビングのテーブルに夕飯の用意がされていくわ。二人でキチンと座って、いただきます。


 食べ出すと落ち着いてくるものね。本体ちゃんなんか緩んだ顔をしているわ。


 それにしても。


 この子ったら、どうしちゃったのかしら…? 急にプレゼント? なんかよく分からない流れで、卓上冷蔵庫買ってもらえる事になったけども。


 んー… まぁ… せっかく言ってくてれてるんだし、たまには甘えようかしらね。


 いや、しかし。本当に不思議な子ね。何を考えてるか分からないわ…

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