微妙に噛み合わない生活編

出しっぱなし vs 非表示

 どうも、ドッペルゲンガーです。


 今日から成り行きで同居する事になったわ。

 相手は〝私〟よ、〝私の本体〟とね。


 はい?いきなりで何言ってるか分からないって?前回を読みなさいよ!? 本体がゆるく語ってるから!


 まぁ、かいつまんで言うけども。


 私はドッペルゲンガー。本体と入れ替わる為に、遠路はるばる、本体の元に、入れ替わりにきたのよ。


 それなのに……それなのに……それなのにね?


 消えないのよ!本体が!


 それどころか、尋常じゃない料理を作ってるし!なんかすごくテンション高いし!ポヤポヤしてるし!


 こんなの聞いてないんだけど。なんなら泣きそうなんだけど。


 予習の為に聞いてたドッペル仲間の経験談なんて、全く参考にならないわ。だって今の状況、イレギュラーでしかないんだもの。


 そんでさ? 私は私でさ? 入れ替わるつもりで来たからさ? 今まで住んでた部屋を引き払ってるしさ? 戸籍だって、偉い人の力で抹消されてるしさ?


 だから帰る所も行く所も無いわけ。本体が居ていいって言ってくれたから、不本意ながら同居となったわけ。まあ、これで、雨風はしのげるわけだけど。


 だけど…だけど…だけどぉぉぉ!


 ねぇぇぇぇぇ!! なんで同居なのよ! 意味わかんないわ! 早く入れ替わってよ! 入れ替わりなさいよ!なんで楽しんでるのよ! ドッペルゲンガーのセオリーってあるでしょ!


 って、叫びたいわよ! だって、ドッペルセオリー超えてくるのよ!本体が!


 といっても、私もね、よくある兆候とか考えずに直接来ちゃったから、負い目があるわけ。 お互いドッペルセオリーを少しずつずらしてしまったと言うか? だからなんとなく、強く出れないのよねぇ。


 くっそ……!


 1週間くらいビジネスホテルでも取って、少しずつジワジワ匂わせにいけばよかったわ……!


 閑話休題。


 そんで、初めて出会ったのが、ついさっき。


 本体が買い物に行こうとして、財布とリモコンを間違えて、バッグに入れようとする所を見ちゃったわけ。


 もう不安しか無かったわ……


 これが私の本体? ウソでしょ? そんな縄文時代からのボケみたいな間違い、ナチュラルにする? いま令和なんだけど?


 しかも、私に間違いを指摘されても、焦る様子もなく、悠長な顔しかしないのよ?


 入れ替わったとして…


 こんだけドッペルセオリーに反してるわけで、そうすると色々なイレギュラーが考えられるわよね。


 入れ替わりじゃなくて、融合とかになったら……私の性格も思考も、どうなるかわかんなくない!?


 私、こんなボーっとなりたくないわよ!?


 そう思いながら、とりあえず見てられなくて、さっさと代わりに買い物を済ませて、戻ってきたけど。


 ……?


 まって、なんで私、入れ替わる相手の面倒見てるの? まあ、細かい事はあとでいいわ。


 とりあえず、他の人に見られないように、早く部屋に入ってしまわなければ! 不用心にも鍵がかかってないドアを勢いよく開けて、本体に向かって叫んだわよ。


「ただいま!買ってきたわよ!ほらこれ!何か作り直すんでしょ!?」


『あ~、おかえり~! ありがとぉ~!』


 さっきより、少しは片付けた様子のキッチン。それでもまだ黒い欠片が散らばっている……


 ちょっと…


 許すまじ。


「はあ? なにこれ? 片付けてろって言ったわよね私!」


『え~?片付けたよぉ~?』


 怒る私にはお構い無しに、本体は、さっき間違えたリモコンをいじりながら、テレビを見ていたわ。


 ……え……


 こんなにのんびりしちゃう? なんなのよもう・・・今からまたハンバーグ作るんじゃないの・・・?


 と、本体の視線の先、テレビがふと気になった。


「あんた、テレビの左上の時刻表示」


『え~?なぁに~?』


 ゆったり振り向く本体。 なんとなく腹立つわね……


「表示しっぱなしよ。消しなさいよ、邪魔でしょ」


『へ?』


「は?」


『あった方が便利だよね~?』


 ……え?


 まって?普通は非表示にしとくものじゃないの?


「え、画面と被っちゃって見づらくない?」


『え~?ここに表示あると、いちいち時計見なくて済むんだよ~?』


「時間にルーズそうなあんたが、なにいってんの?」


『失礼~!そんなことないしぃ~!』


 いや絶対に時間にルーズだわと思いつつ、もう少し尋ねてみる。


「ドラマもお笑いもニュースも、表示しっぱなしなの?」


『そうだよ~?』


「えええ!落ち着かない!私、落ち着かない!」


『そんなことないよ~、細かいなぁ~、もぉ~』


「細かくないわよ!」


 ちょっとなに!この子!ボケっとしてるくせにたまに毒吐くわね!?


「それより、キッチン片付いてないじゃないの!」


『片付いてるってばぁ~。あとでまた、お皿洗うしぃ~。まとめてやった方が良いってばぁ~』


 まってまってまって……


 同じ顔で同じ姿なのに……


 こんだけ発想に違いがあることが……


 信じられないんだけど!?


 たしかに、私はドッペルゲンガー。一般的に、怪奇現象ではあるわ。でも、それなりに普通の生活を送ってきたのよ。


 自分がドッペルゲンガー側だと言うことを知ってから、本体と入れ替わる使命感があったわ。それが運命だと思ってる。


 思ってるけど……


 これじゃ、入れ替わっても違和感しかない! 同じはずの私なのに、他人なほど感覚が違う!


 いけない、いけないわ!これ、本体のことを把握しておかないと、入れ替わってから絶対に苦労する!


 ああ、なんてこと……!


『ねぇ~、ドッペルさぁん~。ハンバーグの作り方知ってるぅ~?』


 待ってこの子、作り方知らないで、あの黒い物体(ハンバーグ)作ってたの!?


 悠長……!悠長すぎる!


「知ってるけど…… あんたがなんであんなに塊に出来るかが分からないわ」


『あ、ちょっとー!〝あんた〟なんて、良くない言葉使っちゃいけませーん~。本体ちゃんって呼んで~。これから、同じ名前使うんだから、呼び分けしよーよー。』


 どうしよう、話が急に変わる。困る。怖い。話が通じない人、すごく怖い!


 なぜ同居になったのって、さっきまで疑問だった。たった今、正解が分かったわ。


 同居は・・・本体を嫌という程知って、スムーズに入れ替わるための!試練なのね!!!


 なるほど……


 本体は、あたしに挑戦してるんだわ! 入れ替われるもんなら、やってごらんよって!


 なら、乗ってやろうじゃないの!!!


 いい度胸ね、本体ちゃん…覚悟しなさいよ!

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