服の整理しないとか!?

 本体ちゃんと同居を開始して、3日くらい過ぎたかしらね。


 気は抜けない… いえ、抜いてたまるもんですか!


 常に気を張って、本体ちゃんの動向を観察しておかないと。 この子、ポヤポヤしてるように見えて、抜け目ない所がある…


 正体不明の怖さだわ。気を抜けない理由はそこね!


 とかいって、ソファに座ってこっちを見て、不思議そうにニコニコしてる本体ちゃんを見ると…


 …なんだろう、なんとなく腹立つ…


 とか言ってるうちに、本体ちゃんがノロノロと立ち上がり、窓からベランダを眺めている。何してんのかしら?


 あ、もしかして…何時間か前に洗濯物を干してたから、乾いてるか見てるのね。 あ、あ、そうか…そうよね… 私と暮らしてる分、服とか私に貸してるから、洗濯物が一気に増えたってボヤいてたわ…


 えっと、えっと…うん、そうよね… いくら私が怪奇現象とはいえ、本体ちゃんにの生活に変化を持たせてしまったわけで… あ、あ、あ、なんか罪悪感が出てきたんだけど…


 だ、だって!入れ替わる予定だったから、そのまま服とか日用品とか、使うつもりだったのよ! 節約は大事でしょ!? 新生活の準備して、大荷物持って引越ししてくるドッペルゲンガーがどこにいるのよ!? 入れ替われなかったのが予定外なの!


 でも、うん、家事くらいやんなきゃいけないわよね。今は居候みたいなもんだし。洗濯物の取り込みくらい、やってやるわよ。


「ちょっと」


『ん~?なぁに~?』


 洗濯物を眺めている本体ちゃんが、ボケっと振り向く。


「洗濯物取り込むんでしょ?乾いたと思うわよ。その位は私がやるわ」


『わ~!やったぁ~!お願いねぇ~!』


 …了承が早くない?素直すぎない? むしろワザとやってた? 抜け目がないってこういう所よ本当に!


 ため息をつきながらベランダに出て、乾いたのを確認しながら、ハンガーや物干し竿から洗濯物を外す。


 開けたガラス戸の外から、ロンTからシャツ、チュニック、パジャマ、インナーなんかをバサバサと中に放り投げる。全部取り込み、正座をして畳み始めようとしたその時。


『あれれ~?』


 突然、素っ頓狂な声を掛けられたわ。


 なによ、そのコ〇ンくんみたいな、わざとらしい疑問符は。


『ねぇねぇ、ドッペルさん~』


「なによ?手伝うの?」


『なんで服をたたんでるの~?』


 …え? 何言ってるのかしら、この子?

 私は振り向いて固まったまま、当たり前の答えをしたわ。


「なんでって、タンスにしまうからでしょ」


『えええ?ハンガーのまま、クローゼットにかけておくよね?』


 ちょっと待って? え? どゆこと?

 再び固まったまま、思わず素で大きい声を出してしまったわ。


「はあ? 何か言ってんの? そんなのアリ?」


『あたしはそうしてるよぉ~?』


「ええええええ!?」


 どうしよう、私の知っている生活圏以外の話されてるわ。ハンガーに掛けておくなんて、分厚いアウターかスーツ一式くらいしか思いつかない。


『掛けておいた方が型崩れしなくない~?あと、簡単じゃない~?』


「逆に崩れる気がするけど!? ハンガー多くなりすぎて、かさ張るわよね!? あと、シワシワのままになっちゃわない!?」


『そうかなぁ~?そうでもないよ~?』


 まって、なんの違い?

 育ってきた環境?

 SM〇Pか山崎ま〇よしの歌詞?

 セ〇リ?


 ってか、このネタ、若い人わかる?


 …よし。 話が脱線したわ、話を戻すわよ。


 全部ハンガーに掛けて吊るしておくとしても、限界があるのよ。種類別に探っていこう、なにか畳んでるものもあるはず。


「Tシャツは?」


『ハンガーに吊るしておくよ~?』


「あたしは畳んで仕舞っちゃうわ・・・場所とっちゃうし」


『畳んだらシワが出来ちゃう~』


「イ〇ン売り場なんて、全部畳んで売ってるじゃないの!」


『しま〇らは、全部ハンガーだよねぇ~?』


 ちがう! そうじゃない! どんどん論点がズレてるわ!


「そうじゃなくてね…」


『あにゃーん…いろいろ不思議ぃ~』


「あんた、インナーも吊るしておくの…?」


『それはカゴにポイポイしてるぅ』


「た、畳まないのね?」


『畳まないよぉ~、どうせ着るんだしぃ』


 あ、有り得ない… 私の人生、インナー畳まないとか、マジで有り得ない…


 額に手を当ててぐったりしてたら、本体ちゃんが更に追い打ちをかけてきたわ。


『あと、タンスなんてないよ~?』


「えええ!? そ、そういえば、クローゼットの中、ラックと申し訳程度のカゴだけね…」


『入れないから置いてないもん~』


「そのスタンスなら、そりゃそうか… いやでも、インナーだけは、畳んで見えないようにしなさいよ!」


『カゴに入れてれば見えないけどなぁ~。しかも、見る人なんていないけどなぁ~』


「そういう問題じゃなくてね、たしなみの話!小さめな衣装ケースにいれるとか!」


『わかったよぉ~もぉ~。そこらへんに、なんか入れるのあった気がするう~』


「もう…本当にわかってんのかしら…」


 とりあえず、畳み始めた衣類をハンガーに掛け直し、クローゼットの中のラックにどんどん吊るしていく。


 …たしかに、ラクね… いやでも、だめよ!ラクさを覚えちゃダメ!


 頭をブルブル振って、クローゼットの中を探すと、特に使っていないであろうカラーボックスがあった。


 インナーだけより分けて、上下セット事に纏めて、カラーボックスに縦置きに並べていく。ついでだから、グラデーションっぽく並べちゃおうかしら。ここは私の趣味ね、うん。


 後ろからそれを見ていた本体ちゃんが、呟くのが聞こえるわ。


『おお~…!分かりやすく並んでるう、すごーい~』


「そうよ!ちゃんと並べると使いやすいのよ!」


『これだけは、ちゃんと畳もうかなぁ~』


「いやほんと、このくらいはしなさいねっ!」


 思わず腰に手を当てて、ドヤ顔をしてしまったわ。素直にされると、ちょっと気分は良いわね。


『おっけ~!さすが!それじゃドッペルさん、これからお洗濯係に、けってーい! パチパチパチ~!』


 え?あれ?なんで?


 ドヤ顔のまま、笑顔で固まってしまったわ。


 なんで!?そうなっちゃうのよ!?!?!?

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